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2023年11月5日の磁気嵐速報

昨晩(日本時間11月5日夜)から世界各地、特にヨーロッパ(なんとギリシャからも!)で赤いオーロラの目撃例が相次いでいます。いわゆる「磁気嵐」が起こっているのですが、この磁気嵐についての解説を、Xのポストを抜粋しながら、まとめます。その磁気嵐の原因となったのはコロナ質量放出、略してCME(Coronal Mass Ejection)です。このCMEは、太陽の北半球で東西に長く広がったフィラメントが飛び出したものであり、太陽フレアの大きさとしてはマイナーなCクラスフレア。しかしコロナを見れば巨大アーケードが発生している、という特徴がありました。

陸別の名大の監視カメラでは、日本時間の朝2時半~3時に赤いオーロラが撮影されていました。これは後ほど述べるGMCと同じタイミングです。Cクラスフレアといい、このことも、2015年3月の磁気嵐と共通する点です。ちなみに、磁気嵐のときに出てくる赤いオーロラは2種類ある、ということも、本論の前に紹介しておきます。

磁気嵐の規模は、まあまあでした。スーパーな磁気嵐の基準となると、文献によってDst指数のピーク値が-250 nTだったり、-300 nTだったりしますが、今回はそれほど大きなものではない。Kpという指数も昔から使われていて、それだと9段階中の7段階、というレベルでした。

つぎに、磁気嵐の原因となった太陽風について。次のポストの一番上の赤いグラフが、L1点で測定された太陽風磁場の南北成分ですが、これが長時間(ひとこえ3時間以上)マイナスつまり南を向き続けていると、地磁気が世界的に乱れる「磁気嵐」が発生します。今回の磁気嵐は2段階で、1つ目の1時間くらいの30 nTの南向き磁場は大きさ十分だけど継続時間が少し足りず、後半に5時間ほど20 nT程度で南向きを向いている磁場が「磁気嵐本番」のエネルギー源となりました。

この磁気嵐本番の発達のタイミングでは、赤道上空3.6万 kmの静止軌道衛星が地球の磁気圏の外に飛び出してしまう、というGeosynchronous Magnetopause Crossing(GMC)が発生しました。これは少し珍しい。通常ならば、静止軌道よりもずっと遠く(地球班系の10倍くらいの位置)に地球の磁気バリア=磁気圏の果てがあるのですが、この数時間だけ磁気圏のサイズが静止軌道よりも内側に来るまで、とても小さくなってしまっている、ということを表しています。

なぜCMEが、今回のように2段階で地球にやってきたか、というと、11/2と11/3に、それぞれCMEが地球向きに放出されてたのが、地球に来た時には近い時間帯に重なったから、ということだと思います。CMEその1と、CMEその2の映像はこちら。

全体像は、こんな感じで大ざっぱには掴めた感じがするのですが、はじめのほうでポストした「通常のとは全然違う。どうしてこうなるんや」という疑問は、そのまま残っています。今は、L1地点以外にも、内部太陽圏のあちこちで太陽風の直接観測がされている(Parker Solar Probe, Solar Orbiter, Stereo, Beppi)ので、それらのデータを見ていくと、何か重大なヒントがあるかもしれません。あるいは以下のような銀河宇宙線の変調から太陽風磁場の大規模構造を逆分析したりすることで、このような謎も解いていけるのではないだろうか、と考えています。

最後に、日本の古い記録を使うと、もっともっと大規模な磁気嵐の謎に迫ることもできます。その宣伝を貼って、この稿を終わりたいと思います。


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