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18.教員採用選考の裏側(専任大学教員の仕事その3)

1. 専任大学教員の仕事:公募教員選考

専任大学教員の仕事の一つに公募教員の選考がある。私が経験した大学では、配属予定の学部の学部長、学科長と関連分野の教員、採用後協働する予定の教員(初年次教育や語学など)数名が参加する。まず教員側が応募書類をじっくり読み込んだ上で、担当理事、人事担当職員と協議し、面接・模擬授業に来てもらう応募者を絞り込む。この段階で落とされた人のところに「お祈り連絡」が行く(この段階で教員側の判断で該当者なし、とする場合もある)。選考への参加も専任教員の大切な仕事だが、専任教員が参加する理由は、研究業績は人事担当職員では優劣及び求人対象科目への適合が判断できないからだ。教員側は採用されれば同僚として一緒に働くので、あまりにも協調性がなく社会人としての常識に欠けると思われる人は忌避される(採用されてから判明することもないことはないが)。
 

2. 実際の選考プロセスと専任教員の役割

以下実際のプロセスについては、5年前に私がフェイスブックに載せた記事を少し手直ししたうえで転載する。
 
「まず、書類選考である。下記のような書類の提出をお願いしている。
(1)本学が指定する書類(指定書式は、メールにてお送りします。)
履歴書
教育上の業績
研究業績
職務上の実績
※履歴書本人希望欄に、希望する職位をご記入ください。
(2)その他
研究概要(A4縦、横書き、2000字以内)
主要な学術著書・論文等(3編以内、別刷・コピー可)
○○学部における教育に対する抱負(A4縦、横書き、2000字以内)
応募者に関して問い合わせのできる方2名程度の連絡先」
書類選考の一番のポイントは、公募している科目との適合性である。つまり、本人の専門性とそのものずばり適合しているか、そしてその科目の教歴があるかどうかである。
専門性は研究業績で判断する。研究業績は最近の業績を見る。研究者として「現役」かどうかも判断する。
こちらの提示している科目はカリキュラム上の絶対的な必要性にもとづいているのだ。その上でその周辺の科目もどれくれくらいできそうか判断する。
この段階で実務家は極めて不利になる。どんなに立派な職歴でも、それだけではその科目を担当できるかどうか判断できないのだ。少なくとも研究業績があればある程度判断できるのだが(つまり職歴と募集分野が関連している場合、自分の経験をどれだけ一般化普遍化できているかだ)。
以上ような選考を通過した候補者に来てもらい、模擬授業をやってもらう。
模擬授業は教育力を判断するために入門科目を指定し、ある科目のある回の授業のなかで30分実際に授業をする。私たち選考委員が学生役を演じる。
(英語のネイティブ教員の場合は実際に学生を10人程度入れて授業をやってもらい、選考委員はその様子を観察する)。
模擬授業では内容、構成とともに学生とのコンタクトや目線、声のメリハリなどを見ている。
終わると、模擬授業の内容についての質疑応答が始まる。授業の意図や到達目標、難易度の設定などの質問が飛ぶ。アクティブラーニングを取り入れる場合どうするか、学生の私語がやまなかった場合にどう指導するか、というような質問もある。
終わるとそのまま面接に移る。面接では本音の志望動機やこれまでの経歴に関すること、教育観や専門分野に関する見解、もし採用されて赴任する場合の生活に至るまで質問は多岐にわたる。
この段階では、教員として迎え入れるにふさわしい人材か、本学の学生への相性はどうか、一緒に働きたいと思うか、というようなことを選考委員それぞれが判断する。
終了後、候補者が退出した後、選考委員は記入した評価シートをもとに議論する。意見が割れる場合もあるが、多くの場合採否いずれかに収れんする。
選考委員会として採用を推すことになれば、日を改めて理事長学長と理事で構成する人事委員会による最終面接を受けてもらう。
そこを通過すれば晴れて採用となる。
私たちは決してコミュニケーション能力にたけていると称する人材を求めているわけではない。自らの専門性を追求しながら、目の前の学生と真摯に向き合う人材を求めているのだ。
それから、大学教員には内発的動機というものが必要で、言われたことを真面目にがんばってやります!では勤まらない(そういう人が面接にたどり着くことはまずないが)。」

3.模擬授業・面接に当たって考えておいてほしいこと

面接において大事な質問の一つに他大学への応募状況を聞く。その場合他大学のスケジュールや選考がどこまで進んでいるかまで聞くのは、こちらが合格を出すタイミングをはかっているからである。学生の就活ではないので正直に答えてほしい(大学名を言う必要はない)。こちらがぐずぐずしているうちに他大学で採用されてしまい、こちらが「お祈りメール」を食らうこともあるのだ。
もう一つ大事なことは、なぜ模擬授業として入門科目を取り上げるか、ということだ。学部での専門教育は専門基礎教育である。例えば経営学部の採用において実務家教員が職歴から経営組織戦略論が得意だとしても、求められているのはいかに学生に経営学に興味を持ってもらい、その中で特に自分が深く知りたいテーマを見つけ出すことをサポートするか、ということだ。だから入門科目をやってもらう。そこにどれだけ学生に興味をもってもらう工夫がされているかを見る。ただ学問的基礎を段階的に教えたり、わかりやすく説明するだけではだめで、どれだけ学生目線に立っているかが重要だ。
 
(写真は実際の模擬授業の会場:開始直前の様子)

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