仮想世界に「生きる」ステップを Infinite Pedestrian会合ウォッチ

 本noteで何回も取り上げてきた「VRChat」について、プレイ中の楽しみ方という側面から存分にその深みを増していきたいと努力を重ねるチームを取り上げてみようと思う。
今回取り上げるのは、VR空間を文字通り無限に歩くことができる「無限歩行」という技術を研究しカジュアルに布教するため研究を行っている「Infinite Pedestrian」というチームである。
彼女たちが取り組む無限歩行と、そこから広がるVRの楽しみ方の新たな一面を是非ともお届けできれば幸いである。

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無限歩行という最先端のアナログ技術

 チームの活動を紹介する前に「無限歩行」という技術について知らない方について紹介をさせて頂きたい。
VRChat内を移動する際、VRモードではスティックによる移動の他にも現実の身体を動かして前進したり後退したりキタキタ踊りをしたりといった事をされた方もいるだろう。
この時全身をトラッキングした「フルトラッキング」の状態だと、膝や足の動きがダイレクトに反映されるためVR空間状を「歩く」ことが可能となっている。
もちろん広大な空間をVRゴーグルを被ってどこまでも歩ければ良いのだが、そこで問題になるのが部屋の広さやヘッドマウントディスプレイの接続ケーブルといった要素だ。
何より部屋の広さはいかんともしがたく、数歩歩いたらすぐ壁に突き当たるなどという事はVRChatのHMDユーザーならば日常茶飯事の事だろう。

 この問題を解決する方法こそが「無限歩行」と呼ばれる技術である。例えば部屋を歩いている際に壁に当たるのを避けるため、リアルの身体を180度左に旋回させ反転するとしよう。
そのままではVR上の身体も180度左に旋回してしまうが、ここで「左に回る速度と同じ速度になるように、VRコントローラーのスティックを右に倒す」という要素を加える。
すると左右に曲がる部分だけが打ち消し合い、VR上の身体はそのまま前に進んでいくという現象が起きる。
シンプルに言えば、これこそが無限歩行という技術のシンプルにして最大のポイントである。

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 現実の身体は壁を避けるため絶えず旋回するが、それをVR上で知覚させない程度にまで旋回速度を打ち消し前進する。
これをこなすのは並大抵のことではない。まずリアルの身体とVR上の視界に差異が発生するため三半規管を始めとしたバランス感覚に強烈な違和感を発生させる。
それだけでなく、一方向にだけぐるぐると回っていた場合いずれケーブルが身体に巻き付いてしまう問題を解消するため「8の字」に走行するという方法が一般化されている。
これがどういう事かと言えば、片側だけでなく両側均等な精度で左右の旋回を打ち消さなければならないのである。片側に旋回できるだけでは片手落ちになってしまうのだ。

Infinite Pedestrianのビジョン

さて、この無限歩行を研究している団体であるInfinite Pedestrianの初会合が6月21日に開催された。
当日は総勢11名のメンバーが揃い、各々の自己紹介からスタートし主に得意とする様々な事柄について語り合っていた。
その中には2018年度、無限歩行技術の先駆けとして名を馳せたアザトナナ氏の姿も見えた。
今回の会合に際して主催者の古紫 絢(こむらさき あや)氏は以下のようにメンバーに語っている。

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「VRSNS文化から発生した、リアルにはない歩行の技術。VRにしかない技術とは何かと考えてたどり着いたのがこの無限歩行というコンテンツであり、それを発信したり楽しんでもらったりしながら皆の平均的な技術を向上させようという目的をもってこのグループを作りました。メンバーは国籍を問いません。この活動は広げていきたいですし、国際交流という事も視野に入れています。
日本のユーザーは喋る際にこもりがちであるという意見が見られますが、このコンテンツをコミュニケーションのツールとして役立てていければと考えています。」

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無限歩行という技術の先にあるもの

 この記事の最初に動画を掲載しているが、横断歩道やコンビニエンスストアを歩く様子に大きな違和感を覚えた方は少なかったのではないだろうか。
まさにそこに生きているかのような自然さをもって、VR空間を堪能する事が可能であり堪能している様に見られるのである。

もちろん無限歩行というのはやり方さえ分かってしまえば誰でも効率化しやすい方法を研究し取り組む事が可能ではある。
しかしそこに自然さというハードルが加わると、その基準は一気に高くなる。
ではこれを突き詰めていった際に何が起きるのかといえば、本当にごく自然に振る舞う集団がVRSNSサービスのイコンの一つとなるという事ではないだろうか。
最近もまだまだ現実世界では外に出るのが非常に困難な日々が続いているが、そういった状況の中でこの仮想世界の上で「自然に振る舞っている」人々を見てどう感じるだろうか。
また歩行だけでなく、振る舞いなども含めた所作が自然に見られ格好良いと思われた時はどうなるだろうか。

それは決して単なる一趣味などではなく、現実の先にある未知の世界に来る誰かに対する福音となってくれるのかもしれない。

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