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りゅう坊の初恋

あれは忘れもしない、
りゅう坊が小学5年生になった昭和48年の新学期のことである。

りゅう坊の学年はひとクラスだけで1年生からずーっと同じ33人のクラスメイトだった。

その新学期に親の転勤で女子の転校生がきた。

その子は とても 可愛かった!

りゅう坊はその時「一目惚れ」を体験した。

その子の前ではただドキドキして何も言えず、

でも気を惹こうとしてイタズラをしたり、

頭に浮かんでくるのはその子のことばかり。

それは後から考えれば「初恋」であったが、

その気持ちが「初恋」などとは知るよしもなかった。


6年生になってその子に思いきって年賀状を出した。

冬休みの間、首を長くして返事を待っていたが

届くことなく、3学期が始まった。

始業式の後に家に帰ると普通はがきで届いていた。

「お年賀どうもありがとう」

ここしか覚えていないが、

とてもうれしかったことは忘れられない。

6年生の時の修学旅行の写真を入手して

ずーっと大事に持っていた。

休みの日なんて その子の家の前を通るだけでドキドキしていた。

運動会のフォークダンスで手を握ろうもんなら舞い上がっていた。

奥手のりゅう坊はその想いを伝えられる事も無く

中学、高校と・・・

りゅう坊は就職し、その子は大学に進学した。

もう会うことはなかった。


「彼女は勉強もできたしね」

「クラスの男子の高嶺の花だったと思う」

「女子にも人気があったし」

そうだったな、

才女って彼女のことをいうのかもな。

中学校も高校も一緒だったから ずーっと遠くから想ってたな。

「つきあいたいとかそういうんじゃないんだ」

「ただただ 好きで ドキドキしてたんだ」

そうそう、りゅう坊。

61歳のりゅう坊の情報によると、

その彼女は結婚し、旦那さんの仕事の都合で

アメリカに移住したって。

その彼女の息子さんがアメリカで とあるスポーツで
日本人プレイヤーとして話題になったんだそ。

「すごいね」

息子さんの写真や動画を見たけど彼女の面影があったぞ。

「会ってみたいでしょ、でも会わないでいたほうがいいのかもね」

そうだな、きれいな思い出として覚えてればそれでいいよな。

・・・りゅう坊、大人だなぁ。

後日談がある。

彼女が地元に里帰りすると、共通の同級生から聞いた。
バレーボール部だったその同級生の女子は
彼女と会う約束をしてるという。

「会ったらよろしく」と、伝言を頼んだ。

数日後、その同級生と会う機会があり、様子を聞いてみると、
りゅう坊のことは、本名を聞いてもすぐには思い出せないようだった。
あだなの「ホソのこと覚えてる?」と聞くと、
「あぁ そういえば・・・」
みたいな反応だったらしい・・・

りゅう坊のいうとおりだった。

できれば、後日談も聞きたくなかったな・・・


もう一つわかったことが!

NHKのラジオから聴いた話しだ。

男性脳と女性脳は構造が違う。
リアル感が違う。
記憶の保存方法と取り出し方が違うという。

それが恋愛だとして、女性は 息づかいが今ここにあるかのようにリアルに臨場感をもって記憶している。そして、その恋愛が終わってしまうともう思い出さなくなる。
PCでいうところの「上書き保存」するのだ。
リアルな情報量が多いので「上書き保存」。
何メガもあるファイルがドンと数個保存されているのだ。


一方、男性の記憶は散文詩的で、映画の中のワンシーンぐらいの記憶しかない。PCでいうと男性は「名前をつけて保存」しているのだ。

彼女の記憶は りゅう坊のことなど とうに「上書き保存」されて 遠い過去の同級生のひとりなのだ。

61歳のりゅう坊は、「名前をつけて保存」した映画のようなワンシーンを再生しているだけなのだ。つまり、都合のいいところを覚えているだけなのだ。
容量の少ない数キロバイトの名前のついたファイルがたくさんあるのだ。

これを聞いたら、61歳のりゅう坊のちょっと残念だった気持ちも和らいだ。

「よかったね 61歳のりゅう坊さん」

そ、そうだな・・・


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