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夢日記第2話/前世

夢の中で前世を見たことがある人はいるだろうか?
仮に見たとしても「夢」で済ませてしまうだろう。
夢なのだから。

夢日記第2話/前世

結婚するよりも前の話。
見知らぬ場所のベッドで目が覚めた
もちろん夢の中だ。
見知らぬ場所なのだが、そう思っているのは「私」で、「私」でない私は普通に起きて支度を始めた。
自分の行動を体の中から傍観しているような感覚に近いかもしれない。
着替えてそのまま外に出ると石造りの家が並ぶ小さな路地だった。
家の中から呼び止められ振り向くと女性が悲しげに少し怒った顔で出てきた。
「姉のマリア」だという事は分かった。
マリアは私に向かって言う。
「ドム、お願いだからもうやめてよ」
私の名は「ドミニク」だ。
「分かってるって。この仕事が終わったら手を引くよ」
そう言って私は歩き出す。
会話の意味は分からないが私が何か違法な事、もしくは危ない事をしているのは理解できた。
通りを歩いていると角から一人の男が出てきた。
破裂音とともに右足の太ももが熱くなり私は地面に倒れた。
次の瞬間、胸に衝撃が走るとそのまま意識が遠のく。
意識が薄らいでいく中、私ではない私が思った。
「35年か、短い人生だったな。ごめんね、姉さん」

気が付くと真っ裸の状態で立っている。
暑くもなく寒くもない、裸でちょうどいい感じ。
辺りを見渡すと明るくもなく暗くもない。
地平線が見える広大な草原の中だった。
頭の中に浮かんだ言葉は「ニュートラル」。
意味もなく歩き続けると1件の小屋を見つけた。
石造りと木造を組み合わせたような小さな小屋だった。
木でできた扉を開け中に入ると沢山の動物たちがいる。
外から見た小屋の規模に比べると中はものすごく広い。
「この動物たちもそれぞれ順番待ちなのかな?」と頭をよぎる。
そう思うと視界が白くフェードアウトし目が覚めた。
右の太ももに熱い感覚が残っている。
銃で撃たれるとあのような感覚になるのだろうか?
平和な日本で良かったと思いながら夢日記を書いて終わるはずだった。

時が経ち、私は関連会社に勤める嫁さんと籍を入れた。
嫁さんの妊娠を知った時、まず悩んだのが性別を先に知るかどうかだった。
先に知っていれば名前も考えやすいし、服なども揃えやすい。
しかし楽しみが一つ減るような気がして悩んでいたが、医者の「付いてないですね」の一言でこの悩みは消え去った。
この悩みが消えると次の悩み「名付け」が出てきた。
ただ生まれてくるまで時間があるので、2人でいくつか候補を考えておき、実際に我が子を見て決めようという結論に至った。

出産当日。
立ち合い出産が流行っていたが私は苦手で遠慮した。
産声が聞こえ分娩室の扉が開くと看護婦さんが手招きする。
無事に生まれてきた子を恐る恐る分娩室で抱かせてもらうと、何とも言えない高揚した気分になった。
「名前どれにしようかな?」
赤ちゃん言葉で子供に話しかける。
疲れ切った顔をしている嫁さんが分娩台から笑いながら見上げていた。

翌日、候補を絞り込んだ私は妻の好物のイチゴを買って病室へ向かう。
部屋に入ると嫁さんはいるが赤ちゃんはいない。
嫁さん曰く、授乳時は授乳部屋で会えるが、数日間は新生児室なる場所にいるらしい。
イチゴを頬張りながら教えてくれた。
新生児室の前はガラス張りになっていて赤ちゃんを見ることが出来る。
さながら動物園だ。
名前が決まっていないので名札には「広田ベビー」と書かれている。
早く名前を決めてあげないと。
そう思うと私は病室へと戻った。
部屋に戻り名付けの話をすると嫁さんが言う。
「あのね、候補ではないんだけど、あの子を見た瞬間に出てきた名前があるの」
おいおいと思ったが、興味もあり聞いてみた。
「なんて名前?」
微笑みながら嫁さんが言う。
「まりあって名前はどう?漢字は色々あるから考えなくちゃいけないけど」
嫁さんがしゃべると同時に、あの夢の中の「姉さん」を思い出した。
私が明らかに困惑していたのだろう。
嫁さんは慌てて付け加える。
「別に嫌だったら候補の中からでもいいんだよ」
別に嫌なわけではないが複雑というか奇妙な感覚に陥ったのは事実だ。
それに数か月前に某女性歌手がリリースした「MARIA、愛すべき~」の歌詞で始まるヒット曲があった。
その影響でも受けているのかもしれない。
そう伝えると意外にもあっさりと「あ、そうかもしれない」と言い、結局は候補の中から名前を決める事になった。

それから何事もなく時は流れた。
当時私はセブンスターを1日1箱程度吸う喫煙者だった。
やめてみて思うが煙草の臭いはくさい。
新築の家の中でもお構いなしに吸っていたため壁紙は今でも汚れている。
ある日娘が真剣な顔で私に言った。
「パパ、お願いだから煙草はもうやめて」
夢の中でマリアに言われた言葉がオーバーラップする。
私は35歳になっていた。
意志の弱い私がその日で煙草をやめた。
嫁さんも驚いていたがカートン買いで残っていた煙草も全て捨てた。
別に煙草を吸って撃たれる事はあるまい。
違法な事でもない。
しかし何故かきっぱりとやめることが出来た。

それから数か月後、右の太ももの表皮の感覚が鈍くなった。
触ってもそこだけ常時痺れているような感じだ。
痛みなどは無いが念のため病院に行くも異常は無し。
そうこうしていると今度は胸と背中に赤く丸い発疹が出来、そこから数本の長い毛が生えてきた。
ちょうど銃弾が貫通したような位置関係で。
毛は今も生えているが定期的に切っている。
幸いにもそれ以上の事はないが、あの夢とリンクしているようで不思議だ。
姉と弟の関係が現世では娘と父なのだろうか?

そして数年後にこの夢は前世の夢ではなく、前前世の夢だったのでは?という衝撃的な出来事が起こる。
それを次回書いてみようと思う。

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