大人も子どもも想像の世界へ~素話のススメ~
はい、みなさんこんにちは!男性保育士のRyU先生です。保育に携わる人も、そうでない人も、ママパパも「素話(すばなし)」って知っていますか?おしゃれに「ストーリーテリング」なんて呼ばれることもあるみたいですね。
今日は道具なんて何も要らず、場所を選ばず、大人も子どもも一緒に「想像の世界」へと羽ばたける「素話」の魅力について解説をしていきたいと思います!
素話とは?
簡潔に要約すると、絵本や紙芝居などの道具は使わずに、物語を語り聞かせることを素話と言います。
特に厳密な定義はありません。鳴り物(すず、太鼓)なども使わないとする意見もありますが、個人的には語り手が楽しく話せるのであれば色んな道具で装飾しても良いと思っています。
ただ、一つ心がまえとして抑えておきたいのは、「物語を丸暗記して読む」=「素話」ではないということです。
ある一つの物語を素話で語り聞かせようと思ったら、まずはその物語を繰り返し読んで自分の中に落とし込みます。そして、子ども達に伝えたいことはなにか?面白いポイントや物語が盛り上がる場所はどこか?を考えて、「ただ読むでなく、自分なりの言葉を駆使して語って聞かせる」ことが一番のポイントです。
ちなみに保育士資格の実技試験「言語表現」では、事前に公示された物語の幾つかの中から一つを選んで、子どもがいると見立てて素話を行うようですね。
これはあくまで個人の意見であって、正式な受験対策ではありませんが。恐らく語り手に求められていることは、物語を覚えていることも勿論大切ですが、「自分なりの話し方をしているか」、「子ども達に配慮をしているか」を試験官は見ているのではないかな?と思います。
RyU先生の思う素話の魅力
僕は実習の時に課題として出されて初めて素話をしました。その時は実習担当の先生の前で、子どもがいる体で素話をしました。制限時間はありませんでしたが、ちょうど保育士試験の「言語表現」と同じような形かなと思います。
緊張したのも覚えていますが「こういう物語の提示の仕方もあるのか!」 と素直に感心したのが本音です。試験や課題として大人の前でするのと、やはり子ども達を前に実際にするのは違います。
ということで、以下では実際に素話をした際の子ども達の様子を書いていきます。
〇「素話」に触れた子どもの様子
例えば合同クラス。どのクラスでも知っている物語というのは数多くありますが、内容の量であったり表現が年齢ごとに違う物語が少なくありません。
同じ「赤ずきん」の絵本でも乳児向けと幼児向けでは内容も量も異なりますし、年長児さんにもなればより内容の深いものであったり、原典に近い内容を扱う絵本もあったりしますよね。
こうした時に絵本だと、乳児さんに幼児向けは長すぎる、幼児さんに乳児向けは短いし少し物足りない。そんな葛藤を、「語り手」と「聞き手の反応」によって臨機応変に変えていける素話は、解決してくれます。
素話に馴染みのない子達は、初め「先生は何をするんだろう?」とじっと見つめています。語りやジェスチャー、オノマトペ(擬音語や擬態語)、間を駆使して話し進めると、じっとこちらを見つめているのは変わらないのですが、ある瞬間から子ども達が「想像の世界」へ羽ばたいていく瞬間を感じることができます。
戦いの場面では手を握りしめる子がいたり、不穏な場面ではお友達の洋服を掴んだり、身を引いたり、おどけた場面では笑顔でお友達と顔を見合わせたり色々な反応を見せてくれます。
物語が終わりに近づいてくると、今度は少し安心したような表情を見せる子が多くいます。何故だろうと思っていたのですが、恐らく子ども達の中で物語の世界がちゃんと着地をすることの安堵感があるのではないかと思います。いつもの絵本だとページ数や内容でそろそろ物語が終わると見通しが立ちますが、素話は語り手次第である程度膨らませることができる分、そうした安堵の表情が生まれるのではないかと個人的に分析をしています。
〇物語に没頭する楽しさの共有
素話では絵本や紙芝居の様に何かを媒介しての関りではなく、自分の投げた言葉を子ども達が受け取って、時には言葉で、時には無意識な反応として直接的な関わりを持ちます。その少し不思議な関りの中で「物語」は共有されて、こちらが物語に没頭すると子ども達も引き込まれ、その姿を見た語り手もまた想像の枠を広げる楽しさがあります。
また素話ならではの魅力として、常に子ども達の顔を見て話すという部分があります。絵本や紙芝居では意識して子ども達を見ようと思っても、文章を正確に読むことに注力しがちだったりしますよね。素話はそんな時間も常に子ども達の反応をダイレクトに感じる事が出来ます。
絵は視覚情報としてとても分かりやすい半面で、実はその絵が正解のように感じてしまう想像の制限がかかることがあります。物語も言葉に縛られれば想像は自由に膨らむことができません。
「素話」は物語こそ用意されていますが、語り聞かせるのは先生一人一人の言葉になります。一つの言葉にも、その言葉を選んだ先生の無意識なニュアンスを含んでいたり、視覚情報がない分、受け手となる子ども達の想像に制限はありません。同じ場面を語り聞かせた時に、先生の想像と子どもの想像が違って良いのです。
また、子ども達それぞれが違う想像をしたり、受け取ったニュアンスや感情が異なっても良いのです。それこそが、素話と言う形だからこそ楽しめる想像の世界なのではないかと思います。
こればっかりは、子ども達の前で実際にやってみないと分からない感覚なので、合同保育のネタに困っている人や、少し新しいものを子ども達に見せてあげたいと思う先生は是非やってみてください!
子どもを引き込む素話のコツ
素話をすると思うと「高い話術」が必用と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
勿論、そうした子ども達を引きこむ技術があるにこしたことはないと思います。でもRyU先生の考えは逆で、素話をすることで「話術も磨ける」という風に思っています。
とはいえ初めの一歩はけっこう勇気が要りますよね。子ども達の前で初めて絵本を読む時だって緊張するのに、素話は良い意味で物や場面に縛られませんが、一方では内容が飛んでしまった時の文章がない、絵や音(効果音や音楽など)、小道具の力を借りられず裸一貫で子ども達の前に立つようなものです。
なので、ここでは「子ども達を引き込む素話のコツ」を紹介します。コツと書きましたが、より上手にできるアドバイスというよりは、初めて「素話」をする際に意識をすると少し安心してできるポイントだと思って肩の力を抜いて見てください。
〇「素話」に挑戦する時に意識したいポイント
・最初は自分の好きな物語から始める
・物語を暗記するのではなく大筋を掴んでおく
・5分くらいでまとめると子ども達の集中力ももちやすい
・不安でも大きい声ではっきりと
・笑顔で読めば問題なし!
好きな物語で大筋を掴む
まずは物語選びですが、最初は先生自身が好きな物語から始めるのが無難です。生活発表会などを控えていて、普段はあまり読んでいないけれど劇で使う物語だから・・・と安易にチョイスすると内容が途中で飛んでしまったりして失敗しやすくなります。
好きな物語ならある程度は内容を覚えていると思いますし、”物語の大筋”もなんとなく頭の中に入っていると思います。
たとえば「ももたろう」であれば、絵本の内容を暗記する必要はなくて以下の様な大筋だけ頭に入れておきます。
「おじいさんとおばあさんが仕事にいく」→「川に桃が流れてきて持ち帰る」→「桃から子どもが出てくる」→「成長して鬼退治に出かける」→「途中で犬雉猿と出会う」→「鬼が島で鬼退治をする」→「みんな平和に暮らす」→「めでたしめでたし」という感じ。
ここにどうしても入れたいセリフや、場面があればプラスして覚えるようにします。そうすると途中でセリフが出てこなくなってしまっても、なんとなく次の大筋に行くために即興で対応しやすくなります。
逆にガチガチにセリフやナレーションを丸暗記してしまうと、一つのセリフや一つの文章が思い浮かばなくなった途端に、そこから次につなげることができずに、子ども達が覚めてしまうことになりかねないので注意が必要です。
短い時間で笑顔ではっきり言葉にする
実際に試験や課題で素話をしたことがある人は分かると思いますが、「素話」を始めると簡単な内容の物語でも、意外と話し始めてしまうと時間が経つものです。保育士試験の3分だと短くて、話を要約した先生も多いかと思います。
とはいえやはり、最初から「素話」のみで10分とかは厳しいと思います。長い内容を語る難しさも勿論なのですが、「素話」という形に慣れていない子ども達にとっても集中力の問題が出てきます。
まずは5分くらいを目安にするのを個人的には薦めたいと思います。このくらいが物語を大枠で紡げる時間であり、子ども達がある程度集中していられる時間ではないかなと思います。
また素話に限ったことではなく「大きい声ではっきりと語る」のはとても大切です。上手に抑揚を付けたり、内容をしっかり覚えていても、聞こえない・聞こえにくい状況は子ども達も集中できません。下手でも、間違えても大丈夫なので目の前にいる子ども達全員にしっかりと声を届けましょう。
先生が前に立っている時に笑顔でいることも大切だと感じています。勿論、悲しい話を笑顔で読みなさいという意味ではありません。自然な表情とも言えそうですが、少しニュアンスが違う気もします。
子ども達は「内容」より先に、「雰囲気」を感じて「面白い」、「面白くなさそう」と感じている様に思います。先生が楽しそうに「素話」とはどういうものか、今からこんなことをするんだよ、と伝えると期待感が膨らみますよね。
逆に緊張して俯いていたり、表情がひきつっていると、そんな先生を見て子ども達は、物語に没頭する前に「この雰囲気は何だろう?」と不安なハードルを乗り越える必要がでてきてしまいます。
最初から物語に自然と入り込み、没頭できる雰囲気づくりをすることも「素話」に限ったことではありませんが、大切な活動の一部です。活動は活動そのものでは完結しません、導入があって、説明があって、活動を通して、余韻を味わってこその「活動」です。その連続性、流れを大切にしつつ是非「素話」を楽しんでください。
まとめ
今回は古き良き物語の語り方「素話」について、魅力や意識したいポイントを紹介しました。難しそうというイメージはあると思いますが、この記事に目を通してくれた先生は、是非一度子ども達の前で「素話」に挑戦してみて欲しいと思います。
子ども達の反応を見ながら、お馴染みの物語でもまた違った面が見えてくる魅力的な関りです。先生も子ども達も想像の世界を広げて、うまく着地できるか分からないハラハラも楽しんでみて欲しいと思います。
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保育士りゅう先生
保育士りゅう先生(「RyU先生」で子育てに関する記事の執筆を依頼を受けてしていました)
保育現場で5年間正職員として働き、学生時代やライター活動時にも子どもとの関りがあるアルバイトをしていました。
現在は現場を離れて、元々したかったママパパの心のケアや、保育士の心のケアをしていけるように自身のHP『保育士りゅう先生のあそびば!まなびば!』を作成・運営しています。
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