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サンタ
平和の通り魔
日常は暴力の色をしていました。
生まれた時から義務を発生させた大人から発せられる、幼子が頑張って知恵を振り絞って考えたような言葉が、私を常蝕むのです。ウイスキーを作ろうとしたら、全く取るに足りないぐらいの私の時間を、気力を、命を、なんの遠慮もなく、ずけずけと削りとってゆくのです。
初めて殺意を言葉にしたのは、八歳の頃の、クリスマスの数日前でした。サンタクロースへの手紙に、
「今年のクリスマスプレゼントは、お母さんと、お父さんと、お姉ちゃんを、殺してください。」
と、ママとパパと姉への殺害依頼を綴って、子どもながらに、さすがにまずいと感じ、MONO消しゴムで必死に紙を擦ったのを未だに覚えています。
サンタさんは、いじわるなので、自殺なんてしてくれないとも思ったのでしょう。
それから、二人で生業をしていたサンタさんは、一人になり、私はそのサンタさんに人生を壊されることになります。
金を巻き上げられ、土下座をさせられ、毎日毎日暴言を吐かれ、私の周りの人にたくさん迷惑をかけ、挙げ句の果てに、私の目前まで死が迫ったきた時、サンタさんは布団の上でだらしなくいびきをかいていました。
毎日毎日壊されたので、毎秒毎秒殺したかったのです。
そんなサイコパステストで満点をとってしまいそうな私がこの地獄を生き抜けたのは、幸運にも友人がいたからです。
友人たちと話してる時は心が少し救われていました。心がぶち壊されて、倫理観の欠片もない私に、友人たちはそれでも一緒にいてくれました。学年が代わり、学校が代わり、それでも友人たちは一緒にいてくれ、また、新しい友人たちもできました。
本当に大好きです。友人たちはもちろん、私が嫌うごく一部の人を除いて、私は今まで関わってくれた人たちに感謝をしています。私を救ってくれて、ありがとう。
もう少しだけ、別の話をしたいと思います。
私は、ブタ箱に生まれ、地獄の中で生きてきました。その中で、私はある真実に気づいたのです。
人間の形をした、言葉を交わすことのできない、ただの塵屑は存在する、と。
サンタさんのことです。そのあまりに舐めた真実に気づいてから、私はサンタさんへの愛や努力を捨て、どのようにして欺こうかと考える方にシフトしました。取られた諭吉たちを、一人ひとり取り返していたのがばれかけたときは、さすがに冷汗をかきましたが、元々私のものなので、何かしてこようものなら、諭吉たちを言い訳に殺してやろうと考えていました。その過程で、嫌でも人の感じ方や感情に気づくようになりましたし、絶対こんな塵にはならないと思えば思うほど、自分の考えの穴を埋めようとさらに考えを深めました。
勿論、愛を捨てれば愛はなくなります。遅いランナーに合わせてた足の速いランナーが、遅いランナーを見捨てれば、速いランナーはどんどんと先に進んでしまいます。
遅いランナーがチェーンソーを持っていたら、もう一人のランナーは対して足が速くなくとも、嫌でも、無理してでも速く走りますよね。
私の場合はそんなバグのようなトラックでした。普通の人は、人にもよりますが、基本何もないただのトラックです。
元々足の遅かった私ですが、無理やり頑張って速くしました。その結果、普通の人に追い付いたのです。ですが、それでもチェーンソーがギャリギャリと音をたてるのが見えます。
だから、私は走って、走って、走って、最初とは見違えるくらいフォームもよくなって、呼吸の仕方も安定して、ぐんぐん進むことができるようになりました。
ふと後ろを向くと、普通の人たちと、チェーンソーの間が、楊枝一本分ぐらいしかないのです。ブタ箱から逃げ出すために、普通になるために必死に耐え忍んで、やっと憧れの普通になれたと思ったら、いつの間にか、私よりも、チェーンソーの方が普通との距離が短くなっていたのです。勿論ちゃんと見たら、普通とチェーンソーの距離は信じられないくらい大きいと分かるでしょう。チンタラチンタラ走っているチェーンソーと、それなりのペースで走っている普通との距離はもっと大きくなると、分かるでしょう。でも、にしたって私はもうそこにいないし、わざと遅くして彼らを待ったとして、そこに生産性のない、その場しのぎの居心地の良さしかなく、もし私が走れなくなった時、彼らはチェーンソーから逃げることだけを考え、私を置いていくことは、りんごが木から落ちることぐらい、明白でした。
亀とうさぎの亀は、程度が違えばこんなにも絶望を感じたのかと、エジソンは孤独であったのかと、過信が飼い慣らした絶望が、私を襲いました。なんにせよ、もう彼らと肩を並べて走ることができなくなってしまったのです。絶望のスタートラインから始まって、普通になるために、必死に頑張って頑張った結果、皮肉にも、ある意味、普通になれなかったのです。頭の中のバックス・バニーとしか、私は走ることができなくなってしまいました。
だから、この決断をしました。
早計で、未熟で、余りにも青すぎる私の決断をお許しください。こうでもしなければ、私は、私を救ってくれた愛する人を、愛する自分自身をも、傷つけると思うのです。偉そうなことを散々言っておいて、今の私にはこれしかできないのです。
最後に我儘を失礼します。私がトラックから外れたら、作るのに二十年もかからない、安酒をかけてください。
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