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日本ではイノベーションは生まれない、これは本当なのか?

GAFA(*1)やテスラの台頭により、世界市場における日本企業の低迷が叫ばれて久しい。その原因は日本でイノベーションが生まれないからだと、識者やメディアが語っている。確かに世界のトップを走る企業群の収益規模や時価総額を比較すると、日本企業の地位が落ちているのは確かだ。しかし、だからと言ってイノベーションが生まれないと結論づけるのは短絡的ではないだろうか。そもそもイノベーションは生まれないということ自体が、本当のことなのだろうか?

イノベーションの定義

まず、イノベーションとは何か、ということについて整理してみよう。
イノベーションは、経済学者であるシュンペーターが5つに分類して提唱(*2)したのが始まりだ。1912年の出来事である。これは教科書的には正しいし、今でも引用している文献は数多くある。しかし、現代の経済に当てはめると、少し古い印象は否めない。また、戦後の日本ではイノベーションを技術革新と訳しているが、これでは狭義の解釈に留まってしまう。
現在使われているイノベーションという言葉は、概念的であり、かつ広義に捉えられている。
GoogleやAmazonのように世界を凌駕するビジネスモデルの成功のことを指すこともあれば、革新的な先進技術そのものを指すこともある。また通常の企業活動である新規事業や新商品を生み出す活動のことをイノベーションと言っている経営者もいる。
ここで改めて、現代に受け入れられる言葉となるように、イノベーションを定義してみよう。
イノベーションとは、社会に対し過去の価値観や常識を変える革新的な製品・サービス・技術・ビジネスモデルであり、結果として企業価値やブランド価値が向上し、市場構造が大きく変わることである、と筆者は定義している。大事なことは二点。過去の価値観や常識が覆されること、そして新たな市場が創出され飛躍的に伸びる、もしくは既存市場の構造が激変することである。この二つの要素が満たされることで、初めて世間からイノベーションと認められると考えている。

イノベーションの前提となる日米の環境の差

日本発で、GAFAやテスラのようなイノベーティブな企業が次々と台頭してくるのは、米国と比較すると経済環境的にも商慣習的にも難しいものがあるだろう。まず日本と米国では、市場規模と消費人口に圧倒的な差がある。投資に必要となる資本力も同様だ。加えて、日本では当局の規制という関門が待ち構えている。日本語が世界で使われていないという言語の壁もスピードを弱める要因となる。またメンタル面においては、リスクを過剰に捉える考え方、そして失敗に対する寛容度の狭さが、事を進める上で足枷になってくる。
従って、日本でイノベーションが生まれないと結論づけて、その原因を洗い出そうと思えば簡単である。上記のように、いくらでもその原因は挙がってくる。

イノベーションを捉える視点を変える

では、本当にイノベーションは生まれていないのか、考えてみよう。ここは視点を変えることが必要だ。
マクロに捉えれば、日米の差は上記で述べた通りだ。互いの制度や民族性の違いがあるのは当然であろう。しかし、よくよく考えてみると、イノベーションが生み出されてくるのは、マクロからではなくミクロの箇所からだ。個々のイノベーションは、企業や小集団、もしくは天才的な技術者やリーダーによって創出される。その観点で、日本の市場をつぶさに観察すれば、イノベーションと見なせる事例は豊富に出てくる。
筆者が定義したイノベーションの二つの条件、
・過去の価値観や常識が覆されること
・新たな市場が創出され飛躍的に伸びること、もしくは既存市場の構造が激変すること
これらを満たす、世によく知られた事例を紹介していこう。
次回へ続く)

January 29th, 2023

他の記事は、筆者のホームページで閲覧できます。
https://www.visioningpartners.com/

*1: GAFAとは、世界的なIT企業の4社、Google, Apple, Facebook, Amazonの頭文字をとった略称

*2: シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)は、当時イノベーションという言葉ではなく、新結合という言葉で定義している。
提唱した5つの類型は以下である。
・新しい財貨の生産
・新しい生産方法の導入
・新しい販売先の開拓
・原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
・新しい組織の実現
(参考文献: シュンペーター著 「経済発展の理論」日経BP日本経済新聞出版本部)

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