松岡茉優の自宅ラジオは、超天才放送作家でもいない限り説明がつかない
「カポーン……カポッ」
「シュポンッ……シュポ」
「うふふ(笑)」
いきなり何のことだか分からないだろうが、これは松岡茉優さんが自身のラジオ番組内でお気に入りのビンを開け閉めして紹介しているワンシーンだ。
この一連のくだりには何の意味もないのかもしれないが、しかしこの番組の魅力が詰まっているといっても過言ではない。
松岡茉優さんのラジオ番組「マチネのまえに」は、2020年4月にTBSラジオで放送開始したばかりの新番組だ。
しかも新型コロナウイルスの影響を受けて、2回目の放送以降は松岡茉優さん一人で自宅で収録せざるを得ないというトラブルに見舞われている。
それにも関わらず、Twitter上では早くも「聞いていて気持ちがいい」「50年続けてほしい」と好意的な声にあふれている。
この状態は、異常である。
普段ラジオを聞かない方にも分かるように説明しておくと、通常ラジオ番組は放送局のスタジオで収録が行われる。
収録を取り仕切るディレクターがいて、台本をつくり番組内で紹介するメールの選定なども行う放送作家がいて、さらにスイッチングや音効を担うミキサーといった職種の人たちがいて番組が出来上がっている。
生放送ラジオではなく、松岡茉優さんがやられている“収録ラジオ”でも基本それに変わりはない。ディレクターの指示や、放送作家のアシストを受けながら収録を行っていく。
そう、通常であれば。
しかし、いまは有事だ。
ラジオ各局は密閉空間に複数人が集まるスタジオでの収録を避け、出演者の自宅で収録可能な環境を整えている。
最近「うちで踊ろう」で話題になった星野源さんも、テレビ電話でスタジオにいるディレクターらとコミュニケーションしながら、放送作家から送られてくるメール紹介を読み上げ進行するという体制で生放送ラジオの収録を行っている。
しかし、ここでも驚かされるのが、松岡茉優さんの「マチネのまえに」は“一人しゃべり”というスタイルで進行している点だ。
これが非常に難しい。
先ほども言った通り、通常のラジオ収録はディレクターや放送作家らとやり取りをしながら行うのが普通だ。
特に放送作家との掛け合いは、それが前面に出ることを楽しみにしているリスナーがいるぐらいラジオを盛り上げる重要な要素だ。長年ラジオを続けておりトーク力に定評のある重鎮でも一人しゃべりは難しいと言うそうだ。
それでは松岡茉優さんがどうしているかというと、とにかくリスナーに自分が伝えたいことを“どう伝えれば伝わるか”、その一点を番組内で毎回毎回試行錯誤しているのだ。
冒頭のワンシーンもその一つ。突如決まった自宅での収録に戸惑いつつも、自宅の中でお気に入りのモノや部屋を紹介するなかで、普通はその見た目を言葉で説明してしまうところを、開けたり閉めたりするときに出る「カポーン……カポッ」「シュポンッ……シュポ」という音を聞かせてみせたのだ。
これを最初に聞いたときは本当にびっくりして、思わず笑ってしまった。「まさか、そう来るか!」と(笑)。
そして、絶妙に心地いいのだ。
その理由は、家の中の何気ない品が特別に見えてくる発見と、それを気付かせてくれた松岡茉優さんの感性がひとつ。
そしてもうひとつは、松岡茉優さんの「なんとか伝えよう、楽しんでもらおう」という姿勢が微笑ましかったからだ。
そう思ったのは自分だけかと思ったら、Twitterで多くの人がコメントを寄せていてちょっと嬉しかったのを覚えている。
そして松岡茉優さんの自宅ラジオは回を重ねるごとに進化を続け、一緒に料理を作るというリスナーが一体感を感じられる企画まで生まれている。
マグロの漬け丼を作る回では、番組冒頭から炊飯器でご飯を炊く音が放送に乗り、途中飛行機の音が入ってしまったり、曲紹介の前に炊飯器の「ピー」という炊けましたよのお知らせ音がタイミングよく鳴ったりとハプニング満載だ(笑)。
もし、これらすべてが放送作家の演出で、台本として書かれていることだったらと考えると末恐ろしい……
むしろ、そんな高度なことが行われているのだとしたら、「よろこんで騙されます!」と言いたいぐらい聞いていて気持ちがいいのだ。
そうやって油断していると、今度は最近話題のオンライン飲み会のやめどきが分からないですよねという話に触れて、きっと同じように考えている人がいるかもしれないと、「家にいるからって、すべてが誰かに差し出せる時間ではない」と、誰かの心を軽くしてくれるような言葉をまっすぐに届けて来るのでドキリとさせられてしまう。
そのあとに、「まぁ、オンライン飲み会に全然誘われない私が言うのもなんですけど(笑)」と、言葉がとがりすぎないようにフォローを入れるのも松岡さんらしい。
いやいや、完璧過ぎますよ(笑)。
小さいころから芸能界で活動してきた彼女にとってはもう癖なのかもしれないし、それが彼女が“ぶりっ子”と呼ばれてしまう原因かもしれないけど、いま確かに彼女のラジオを聞いて「心地いい」と感じている人がたくさんいるわけで、それはかけがえのない彼女の魅力になっていることは間違いない。
私もすっかり「マチネのまえに」のファンになってしまったので、末永くこの番組が続くことを願っている。
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