【書評】岡田尊司『愛着障害の克服』

今回は、岡田尊司さんの『愛着障害の克服』という本の書評をしていきます。「愛着」って聞いたことあるでしょうか。ボウルビィと言う方が提唱された言葉で、子育て関係の本には必ずと言っていいほど記載されています。愛着とは簡単に言うと、愛されたり認められたりすることで基本的信頼感が育まれる状態で、この愛着形成が不十分なままに育つと様々な問題が起こると言われています。最近、発達障害やHSPいう言葉をよく耳にするようになりました。実は、愛着障害によって、発達障害やHSPのような症状と似た症状が出る可能性があるという事をご存知でしょうか。
本書では、そんな愛着障害をタイプ別に紹介し、どのようにアプローチして克服していけばいいかという事が書かれています。自己肯定感が低い、人間関係がうまくいかない、最近子どもの様子がおかしい…そんな悩みを抱えている方におすすめしたい本です。

本書の基本情報

基本情報

タイトル:『愛着障害の克服 -「愛着アプローチ」で、人は変われる-』
著者:岡田尊司(精神科医・作家)
出版社:光文社(光文社新書)
価格:本体780円+税
ページ数:334p
ISBN:978-4-334-03956-1

紹介文(カバーの見返しより)

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どもの時だけでなく、大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。本書では、愛着研究の第一人者であり、ベストセラー『愛着障害』で愛着への理解と認知を国民的レベルに高めた著者が、愛着障害に苦しむ人やその家族、支援者に、臨床の最前線から、回復のための最強メソッドと実践の極意を公開する。奇跡の復活をもたらす「愛着アプローチ」とはどんな方法なのか。薬も認知行動療法も治せなかった様々な問題(慢性うつ、不安、依存症、摂食障害、自傷、発達障害、不登校、ひきこもり…etc)が、なぜ愛着に着目し、愛着を安定化することで改善へと向かうのか。医療のパラダイムを根底から変える一冊。

引用元:『愛着障害の克服』カバーの見返しより

良かったところ・おすすめポイント

「医学モデル」から「愛着モデル」へ

「医学モデル」という言葉、聞きなれない方も多いかもしれません。
医学モデルは、病気や障害を本人の問題として捉え、治療を目指すような考え方です。それに対して「社会モデル」というのもあります。社会モデルは、社会の側が病気や障害を作りだしている、という考え方です。「バリアフリー」も社会モデル的な考え方ですね。
そして、本書の著者である岡田さんは「愛着モデル」というものを提唱されています。病気や障害名を付ける(診断する)前に、愛着という観点から捉えてみてはどうか、という考え方です。単に症状だけに着目するのではなく、成育歴や環境にも着目し愛着・心理の面からその症状の原因を探っていくような形です。
医学モデル、社会モデル、愛着モデル…と色々ありますが、どれが正しいということではありません。どの考え方にもメリットもデメリットも存在します。大事なのは、どれか一つだけに囚われることなく、広い視野で問題にアプローチしていく、ということではないでしょうか。

医学モデルには、本人を「病人」として保護する働きもある。状況に応じて、医学モデルのいい点を活用することも大事である。
だが同時に医学モデルは、便利で強力な説得力を持つがゆえに、安易に拡張し、心理・社会的な問題にまで適用しようとすると、思わぬ落とし穴に陥ることになる。

引用元:『愛着障害の克服』p.83

このように岡田さんも、医学モデルのメリットをあげ、それを全否定することなく、愛着モデルと言う考え方を提唱されています。

最近、発達障害(ADHDやLD、アスペルガー症候群など)という言葉をよく耳にするようになり、その症状を知って、「あれ?もしかしたら自分もそうかも?」と思われる方は多いと思います。例えば、「落ち着きがない」とか「忘れ物をよくする」とか「空気を読むのが苦手」とか…少なからず心当たりのある人が多いのではないかと思います。ただ、それらがすべて発達障害かと言われると、そんなことはないように私自身も考えています。それよりも、愛着形成が適切になされなかったことによる不安感で、落ち着きが出なかったり、集中力を欠いたり、人とコミュニケーションをとるのが苦手だったり…というような症状が出てしまっている方も沢山いるのではないかと、色んな人と関わる中で感じています。単に、病気・障害だから…と済ませてしまうのではなく、愛着形成はどうだったのか…という視点を持つことも大事なのではないかと思います。実際に、愛着の問題を解決することによって症状が改善された例も本書では取り上げられていますので、気になる方は是非読んでみてほしいです。

タイプ別に克服方法を紹介している

岡田さんは愛着障害を「不安型」「回避型」「未解決型」の3つのタイプに分けて、その症状の特徴と対策、関わり方まで丁寧に書かれています。具体事例も豊富で非常に説得力があります。
また、愛着障害を解決するためには、「安全基地」となれるような人が必要だと岡田さんは述べています。安全基地の条件や、安全基地になるための心の持ち方・姿勢・考え方についても詳しく書かれています。傾聴や距離の取り方など、そういうコミュニケーションの方法も学べると思いますので、愛着障害に関わる人だけでなく、全ての人にとって有益な内容なのではないかと個人的には思っています。
自分の人との接し方がどういう愛着関係を作っていっているのか、この本を読みながら見つめてみるのも良いと思います。

まとめ

今の日本では、医学モデル的な考え方がまだまだ強いですが、愛着と言う視点から見てみるのも良いと思います。教育・子育て、あるいはコミュニケーション…色んなことを愛着という視点で見てみると新たなことに気付けるかもしれません。今の日本は、子育てにも教育にも”心の余裕”がなくなってきているように思います。それは社会がそうさせている側面もあると思います。この本を読むことによって、少しでもものの見方が広がればいいなと思います。

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