【書評】ジュディス・バトラー『自分自身を説明すること』

今回は、現代のフェミニズム界隈において最前線にいる、と言っても過言ではないカリフォルニア大学教授のジュディス・バトラーさんの書籍『自分自身を説明すること』の書評をしていきます!
非常に難解な本なのですが、極力分かりやすい言葉で書いていけたらと思っています。

本書の基本情報

基本情報

タイトル:『自分自身を説明すること -倫理的暴力の批判-』
著者:ジュディス・バトラー
   (カリフォルニア大学バークレー校修辞学・比較文学科教授)
訳:佐藤嘉幸+清水知子
出版社:月曜社
価格:本体2,500円+税
ページ数:283p
ISBN:978-4-901477-42-0

概要・紹介文(本の帯より)

他者との関わり合いにおいて主体は形作られ、他者への責任=応答可能性において主体は自らを変革する。
倫理と暴力の危険な癒着に抗して「私」と「あなた」を結び直す、希望の哲学。

引用元:『自分自身を説明すること』本の帯より

良かったところ・おすすめポイント

「本当の私」とは何か

「本当の私」って何だろう。どれが本当の自分なんだろう。
こんな風に思ったことがある方は多いのではないでしょうか。
また、「自分のことを説明してください」と言われた時、言葉に詰まってしまう…何を言えばいいか分からない…そんな経験をされた方もいらっしゃると思います。
本書を読むと、「私(主体)」はどのように形成されているのか、ということが少し見えてきます。

自分を説明することの限界

自分を説明するのは本当に難しい。
そもそも「私」は全て自分が主体的に何かを選び取って生きているわけではありません。他者の影響も大いに受けているのです。つまり、「私」の中には「他者」も同時に存在する…ということ。複雑に絡み合った「他者」が「私」を作り出しているともいえるかもしれません。
また、可視化あるいは言語化できない「私」や「私の中の他者性」というのもあるはずで、そう考えると、私を完全に説明するということは不可能なように思えてきます。
そもそも、自分で自分のことを全て説明できる力は必要なのだろうか…そこから問い直す必要があるのかもしれません。
そんなことをしたら、もっとアイデンティティが崩壊してしまう、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、案外そんなこともない、というのが私個人の感想で、むしろ私の中に「他者」や「まだ見ぬ(認識できていない)私」があると思うことで、自分自身の存在が許されたような感覚になり、安心感が生まれました。

「私」と「あなた」を結び直すことで得られる安心感

これはあくまでも私個人の感想ですが、本書を読み、「私」と「あなた(他者)」の関係性を見つめ直すことで、自己責任という負担を少し軽減することができたように感じました。ジュディス・バトラーは最後にこのように締めくくっています。

私たちは、倫理とはまさしく非知の瞬間に自分自身を危険に曝すよう命じるものだ、ということを認めなければならない。非知の瞬間とはつまり、私たちの形成しているものが、私たちの目前にあるものとは異なるときであり、他者への関係において解体されようとする私たちの意志が、私たちの人間になるチャンスを与えてくれる時である。(中略)もし私たちがこうした場所から語り、説明しようとするなら、私たちは無責任ではないだろうし、あるいはもしそうであれば、私たちはきっと赦されるだろう。

引用元:『自分自身を説明すること』p.248

未読の方はここだけを読んでもさっぱり分からないとは思いますが、私たちが「私」と「あなた」を結び直した上で自分自身を説明しようとするなら、私たちは無責任ではないと言えるだろうし、赦される存在になるだろう…とバトラーは言っています(誤解を生む表現かも。しっかり説明するのは難しいのでぜひ本を読んでこの結論の真意を感じてもらいたい。)。私は、この本を読んで、本当に自分が許された存在になれたように感じました。とても優しく、希望に満ちた哲学です。

この本を読むにあたって…

難解な本を読むときの注意点

難解な本読むときに、自分が気を付けていることを書いていきます。参考にしていただければ…!

難解な部分は保留し、とにかく読み進める

「難解な箇所に出会ったら、理解できるまで先に進みたくない!」と思われる方もいるかもしれませんが、最後まで読み切れないことの方が得られる学びは少なくなるのではないかと私は思っています。学校の勉強でも”最初はよく分からなかったけど、問題を解いていくうちになんとなく理解できるようになっていった”というような経験はありませんか??モチベーションが下がり挫折することのないように、とにかく読み進めてみる。最後まで読んで分からなければ少し期間を置いてもう一度読み直す、くらいの姿勢でいましょう。「一旦保留する勇気」はとても大切です!

意味を知らない単語はすぐに調べる

とにかく読み進める…という姿勢は大事です。しかしながら、難しいからと言って知らない単語を飛ばして読んでしまうと意味がありません。著者の言いたいことが理解できなくても、言葉の意味は理解しておいた方が良いですし、そうやって語彙を増やしていかないと本を読む意味がなくなってしまうのでは?と思います。分からない単語が出てきたら、すぐにスマホや辞書を使って調べてみましょう。

可能な範囲で参考文献に当たってみる

今回紹介させていただいた『自分自身を説明すること』は参考文献が記載されています。また、様々な文献を参照し論を展開していくスタイルなので、特にこういうタイプの本は参考文献に当たってみた方が理解が深まるのではないかと思っています。もちろん、参考文献に当たらなくても読めるようにはなっていますが…。
作品によっては、入門書から読んでみるというのもありかと思います。入門書がない場合は、その本の解説をされているサイトを探してみるのもありかも知れません。入門書を読むことによるデメリットももちろんあるかと思いますが、ある程度予備知識があれば、難解な本でも読みやすくなると思います。

まとめ

哲学・形而上学に親しみのない方には非常に読みづらい本かと思いますが、しかしながら、それでも頑張って読み進めた先にはとてつもなく大きな安心感を得られるのではないかと思います。自分に対しても他者に対しても優しくなれる、素晴らしい本です!
最後に、自分のお気に入りの箇所を一つだけ紹介して終わります。

私たちが他者を知ろうと努める際に、あるいは他者に自分が最終的、決定的には誰であるのかを述べるよう求める際に重要なのは、絶えず満足を与え続けるような答えを期待しないことだ。満足を追求せず、問いを開かれたままに、さらには持続したものにしておくことで、私たちは他者を自由に生かすのである。

引用元:『自分自身を説明すること』p.81

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

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