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#29 捨てられないもの/泖

【往復書簡 #29 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈あの時の自分がかわいいよ〉
水曜日:泖〈空箱を司る神とは、そう、わたしのこと〉
金曜日:くろさわかな

空箱を司る神とは、そう、わたしのこと

気に入った箱が捨てられません。

たとえば、この、お得なカイロ10個セットが3つも入っていた箱。

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箱の開け方が独特で、この中に、ものすごく何か入れたい衝動に駆られます。配色もとっても好き。まだカイロ箱の中に入れたいものが見つかっていないのですが、時々、何も入っていないカイロ箱を開けては閉めてを繰り返しています。

なんとなく、何が入るのか想像するのが楽しいんです。子どもの頃、自分の気に入った箱を見つけては、その中に紙粘土や画用紙で作った生物や家具を配置して、神の目線でおままごとを楽しんでいました。

上からパカパカ開けて何を入れるか想像するだけでワクワクしちゃう。カイロ箱を手に持って角度を変えてみるだけでも、かなり楽しい。「この角度から見るあなた、かっこいい」みたいな視点でデレデレしてます。

もう一つ、捨てられない箱を紹介します。今から2年ほど前に友人から誕生日プレゼントでもらった『ポンエペレ』という日本酒が入っていた箱です。

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お酒自体は木彫りのクマの形をした陶器に入っています。『ポンエペレ』はアイヌ語で「こぐま」という意味があるそうです。アイヌ文化に興味を持つわたしに、学生時代にアイヌ文化を研究していた友人が「これを持っていてほしい」と言って贈ってくれました。

陶器だけじゃなくて、箱もすごく可愛くて、どちらも全く捨てられそうにありません。

この箱の愛らしさったら世界一なんじゃないか、って自分で勝手に一番をつけちゃうくらい気に入っています。でも、カイロ箱と同じように、まだ何を入れるのか決まっていません。2年間も空箱のままです。

だからと言って、クマをこの箱に入れっぱなしにするのももったいない。だから、クマは作業机に飾っています。

どうせなら空箱を実用性のあるものにしたいと、試しにクマの陶器以外に違うものを箱に入れてみたんです。コレクションしているライターや文房具、缶バッジなどなど。

結果、どれもしっくりきませんでした。まさに『ポンエペレ』の、『ポンエペレ』による、『ポンエペレ』のための箱。おかげさまで、空箱のままでいいや、と吹っ切れました。

『ポンエペレ』の箱も、カイロ箱と同じように、時々、箱を開け閉めして楽しんでいます。「何を入れようかな〜」「あれが入っていたらどんな雰囲気になるかな〜」なんて妄想せずにはいられません。

捨てられない空箱は、昔も今も変わらず、わたしが神になれる唯一の世界です。天界から世界を俯瞰する「お気に入りの空箱覗き」は、暇を持て余したわたしの遊びなのです。

民よ、いいか、よく聞け。世界は広いぞ。


追伸。
ちなみに、『ポンエペレ』はまだ飲めていません。大事すぎて、飲む機会を失ってしまいました。

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クマの頭をとると、それが盃にもなります。何かめでたいことがあったときにでも飲もうかな。いつになるのやら。

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