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【stand.fm音声配信“上海生活のリアル”】中国経済成長を支えてきた不動産業界の今

みなさん、いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。今回は不動産をテーマに書きたいと思います。日本経済新聞を中心に多くの記事を参考、採用させていただきました。ご理解いただければと思います。

社会的背景

・中国では教育費や不動産価格の高騰など経済的コストから「子は1人で十分」という認識が根強い状況となっています。出産をためらう若い夫婦も多く、アールの職場でも子供は1人もしくは2人で十分ということをよく耳にします。庶民の財政支援への期待は大きいですが、地方政府も新型コロナウイルス対応の減税などで財政が逼迫しているので、子育て関連の支出を拡充する余地が乏しいのが現実です。(日経新聞)
 
・寺子屋ライブでもお伝えましたが、中国の少子高齢化は主要国最速のペースで進んでいます。「2021年の出生数も減少傾向」(中国国家衛生健康委員会)で、過去最少だった1961年の1197万人を下回る可能性もあるとことです。

・出生人数データ
2016年 約1800万人
2020年 約1200万人、激減(子育て費用負担増)
→5年間で出生率が2/3に
 
・中国で1組の夫婦に3人目の出産を認める人口・計画出産法が改正審議に入るなか、地方都市も子育て手当の支給や育児休暇の延長などで独自の具体策を打ち出し始めました。急速な少子化に歯止めをかける狙いがあるが、財源問題などで期待通りの効果が出るかは見通せない。
 
・以下は主な地方政府の動き

①四川省攀枝花市:6月12日以降に生まれた子が対象で、子1人につき毎月500元(8500円)を補助
②湖南省岳陽市:3人兄弟の家庭では全ての子を対象に、教育コストを抑えるため幼稚園から高校までを義務教育とすべきだとした。妊娠前検査や出産費用の補助も求めた
③吉林省・延辺朝鮮族自治州:2012年末に第2子の出生後50カ月間、毎月1000元支給する財政支援策を発表

・このように、働き手の不足や社会保障負担の増大は経済成長の足を引っ張っています。警戒感を強める習近平指導部は「子は2人まで」としていた産児制限を緩め、少子高齢化対策の拡充を急いでいます。

・寺子屋ライブでお伝えした、小中学生を対象とした学習塾を非営利団体とするといった規制強化はこの一例と捉えることができます。

・さらに冒頭でお伝えした不動産価格高騰も庶民の保護政策と捉えることが出来ると考えます。

オフィス空室率の現状

中国でオフィス空室率が高止まりしています。新型コロナウイルス流行後に事務所を移転・縮小する企業が増え、経営者のコスト削減意識が続いているようです。

SOHO中国
市況悪化で不動産開発中堅のSOHO中国は米投資ファンドへの身売り方針を決めました。具体的には、発行済み株式の過半数を米投資ファンドのブラックストーンに236億香港ドル(約3300億円)で売却することを決め、現在、当局が独占禁止法に基づきTOB(株式公開買い付け)計画の審査を進めています。 物件開発の規模とスピードで大手に押され、20年12月期まで3期連続の最終減益に陥っていました。

緑地控股グループ
大手の緑地控股集団は住宅事業へのシフトを急いでいます。20年の販売契約額に占めるオフィスや商業施設の割合は24%にとどまり、住宅は76%に達しました。オフィスなどの比率は19年に比べ10ポイント以上も減りました。

キャピタルランドグループ
中国市場を稼ぎ頭とするシンガポールの不動産開発大手、キャピタランドも大胆な方針転換に踏み切李ました。開発した6カ所の物件の持ち分の一部を、9月末までに1600億円超で中国平安保険に売却する予定です。今後については「物流施設やデータセンターなどが投資の軸足になる」と成長分野へのシフトを説明しています。
 
「20年は(オフィスなどの)商業物件はコロナで大きな影響を受けた。市場の状況に合わせて経営戦略を練っている」。投資家との交流サイトでこう明らかにした。

政府は超高層ビルの建設を禁止するなどバブルを警戒していますが、不動産会社の淘汰が進む可能性があります。
 
深圳の金融街、福田区の65階建てオフィスビルは「最悪期に70%が空室になった」(関係者)。直近、借り手の数はやや戻りつつあるものの、1平方メートル当たりの1カ月の賃料は200元(約3400円)とコロナ前の約6割に落ち込んでいます

英不動産サービスのサヴィルズによると、深圳の2021年4~6月の高級オフィスの空室率は26.4%に達した。19年同期に比べ7.5ポイント悪化。

北京や上海の足元の空室率は深圳ほど深刻ではないものの、2年前から3~9ポイント悪化。21年1~3月に比べやや改善した都市もあるが、深圳などでは7~9月以降に「供給過剰は再発、もしくは激化する」(サヴィルズ)との見方が広がる。

高い空室率の原因は?

 
高い空室率の背景にはここ数年間、旺盛だった建設投資があります。国家統計局によると、10年に約1800億元だった中国のオフィス建設投資額は15年に6000億元超に急増し、20年まで同等の規模が続いています。
 
政府がネットサービスなど産業革新を旗振りし、オフィス需要が一段と膨らむと予想されたためです。この頃、建設に着手した物件が足元で大量に完成している状況。それ故、景況感が多少改善しても、空室率は下落しない構造問題になっています。

オフィスの空室に対する政府の対応

経済運営の司令塔、国家発展改革委員会は6月、高さ500メートル以上の超高層ビルの新規建設を認めないとする通知を出しました。表向きは「一部の建設プロジェクトで品質問題がある」と説明し、安全面を理由に掲げています。しかし「超高層ビルが地域の発展度合いにそぐわず、空室率の高まりを招いている」(政府系メディア)ことが新方針の背景との見方が強いとされています。
 
地方の動きとして、南部の広西チワン族自治区南寧市政府は20年10月、オフィスやショッピングセンターを、教育施設の付設などを条件として住宅に転換可能とする方針を打ち出しましtが。オフィスの供給量が需要を大幅に超え、不良化することへの危機感があリマス。実際に21年4月、オフィスやホテルとして建設認可していた市内の物件を住宅に変更することを認めました。
 

住宅市場の現状

住宅市場も転売による価格高騰など実需との乖離(かいり)が進んでいます。オフィスか住宅かを問わず、開発にしのぎを削ってきた不動産業界は中国恒大集団などを筆頭に巨額の債務を抱えています。市況の変調が資金の目詰まりを生みやすい状態にあります。

恒大グループ
中国恒大は物件販売総額で業界2位の不動産開発大手。2000年代に急成長したが、土地の仕入れや事業の多角化で借り入れも膨張しました。20年12月末時点の有利子負債は7000億元(約12兆円)強に達しているようです。華西証券によると中国恒大の20年末の資産に対する負債の比率は76%超だそうです。

以下日経新聞よりーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

マンション半値で投げ売り 企業債務

「一括払いできる人、連絡求む。超お値打ち」。6月、SNS(交流サイト)上で不動産開発大手、中国恒大集団のマンションが10軒あまり売りに出た。

南部の広東省仏山市の物件で価格は1平方メートルあたり約6000元(約10万円)と昨年の半値。近隣の清遠市の物件も約4000元と半値以下で売られた。1人で6~7軒買う人も出た。

施工業者が工事代金の代わりに恒大側から受け取り、そのまま横流しした「訳あり物件」とみられる。恒大の販社に勤める男性はささやく。「昔からある慣習だが、昨年から明らかに増えた。それだけ財務は苦しい」

恒大は販売総額で業界2位と中国を代表する不動産開発業者。創業者で経営トップの許家印は、かつて資産ランキングで中国首位になった富豪だ。設計や資材調達の社内規定をいち早く整えてコストを抑え、中国の不動産ブームの波に乗って2000年代に急成長した。

開発用地の調達のほか、食品や電気自動車にも手を広げたことで借り入れは33兆円まで膨らんだ。民間企業としては異例の水準で、インターネット上では「宇宙系」とも皮肉られた。

負債の資産に対する比率は8割を超え、中国人民銀行(中央銀行)が「危険水準」とする7割を上回る。広東省の地方銀行、広発銀行が恒大の預金を差し押さえるなど経営は綱渡りだ。

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中国人民銀行(中央銀行)と中国銀行保険監督管理委員会は8月19日、不動産大手の中国恒大集団に対して、経営安定の維持と債務リスクの解消に努めるよう指導しました。投機を抑えるための不動産規制が業界の逆風となっています。同社の過剰債務問題が金融市場も揺るがしかねないとみて財務の健全化を急ぐよう求めたとみられます。

さらには8月20日、電気自動車(EV)事業の資産売却についてスマートフォン大手の小米(シャオミ)との交渉を認めました。巨額債務を抱える中国恒大は上記の通り経営問題が取り沙汰されており、非中核事業の資産売却で財務改善を急いでいます。

住宅に対する政府の対応

・中国共産党は7月末の中央政治局会議で決めた21年下半期の経済運営方針に「不動産価格を安定させる」と盛り込みました。これまでの経済運営方針にはなかった表現で、当局が価格に直接介入することも辞さない姿勢を示したとみられます。
・21年7月22日韓正副首相は習近平国家主席が述べた「住宅は住むためにあり、投機のためではない」との言葉を繰り返し、不動産セクターを景気刺激の短期的手段として用いるべきではないと指摘しました。
・中国人民銀行(中央銀行)は、不動産会社の負債が資産に対して7割を超えると、銀行に融資を制限するよう求めています。
・地方政府は個人向け住宅ローン規制も強めています。
・中国当局がマンション取引の規制を強めています。主要都市で住宅購入に資格制を設けたり、中古物件の売買価格に当局が介入したりしています。不動産高騰への社会の不満が強いためで、今後3年で投機や違法取引を抑え込む方針。

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マーケットの反応

「今、中国で何が起きているのか?〜未来への備えの動き〜」でもお伝えしたように、中国株の値動きが国策で二分されています。政府が成長を後押しする電気自動車(EV)や半導体企業の株価が上昇する一方で、社会への影響力を強めすぎたIT(情報技術)企業などは不振です。習近平指導部は貧富の格差縮小を示す「共同富裕」を提唱。その政策の矛先は不動産会社や教育産業に向かっており、一部企業は存続の危機にさらされているとお伝えしました。

今後政策の強い逆風を受けると投資家がみているのが不動産会社です。中国では所得の伸びをはるかに上回るペースで住宅価格が上昇しています。住宅を購入できる見込みを失った若者が労働や学習意欲を喪失し、「寝そべり族」となる要因となっています。習指導部は「住宅は住むためのもので、投機の対象とすべきでない」と繰り返しています。

上海・深圳の主要銘柄で構成される「CSI300」と、香港の株価指数で中国の本土企業も含む「ハンセン総合指数」の業種別指数をみると、製造業などの資本財が上昇する一方で、ITと不動産が下落しており、株価の明暗が鮮明となっています。

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参考資料;

中国の不動産規制強化、共産党の新たな方針示唆-国民の不満に対応
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-28/QWXGCRT1UM1001

中国、住宅投機を締め付け 中古価格に当局が介入
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM304BZ0Q1A730C2000000/

不動産規制強化は国民の不満に対処する決意表明
住宅は住むため、投機のためではないと党首脳
https://toyokeizai.net/articles/-/443987

中国の各種規制強化の全体像および今後の見通し
https://www.daiwa-am.co.jp/specialreport/market_letter/20210812_01.pdf

マンション半値で投げ売り 企業債務、中国経済の火種に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM159AL0V10C21A7000000/


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