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【stand.fm音声配信“上海生活のリアル”】一夜にして13兆円の教育産業が消滅したのはどうして?

2021年8月17日から20日にわたって、R(アール)が寺子屋LIVEで音声配信をした「デジタル人民元」について、文字起こししたノートをシェアいたします。

箇条書きで読みにくいところもあると思いますが、ご了承いただければと思います。また、ご意見ご感想及びスキをいただけると励みになります!

文字は基本的に情報収集したものをベースにしています。stand.fmの寺子屋LIVEではR(アール)の実体験をもとに補足説明しておりますし、以下のノート以外の情報もお話ししております。ご興味ある方は、音声配信もお楽しみください。

1.教育産業規模
・中国の都市部では、多くの子どもが学外の時間のほとんどを学習塾や習い事に費やす。義務教育期間の生徒を含む学習塾の市場規模は8000億元(13兆1200億円、1元=約16.4円、2016年レート)、参加する生徒数は延べ1億3700万人(中国教育学会、2016年)といわれている。
・中国教育部(日本の文部科学省に相当)によれば、2020年中国で義務教育を行う学校の数は21万校を超え、在校する生徒数は1億5600万人に上ったが、実に8割以上の親が「子の塾通い」に賛成している。
・どんなビジネスでも、高い需要があれば料金も跳ね上がる。学習塾業界も例に漏れず、学費の上昇は近年激しくエスカレートした。この学習塾の存在が、「子どもを産みたがらない」ことの遠因となっていることは間違いない。そこで中国政府は、義務教育を受ける小中学生を対象にした学習塾の規制に乗り出した。

2.中国学習塾の実態
・中国には“スーパー老師”という、日本でいう“カリスマ塾講師”のような存在がいて、こうした講師の授業には高い値段がつく。ある塾講師は学校の教員を辞めて、自宅で学習塾を開いた。1回の授業料は1人1時間200元(約3400円)。生徒を50人ほど集めれば、1時間で1万元(約17万円)を稼ぐことができるという。
・この人気講師のうわさを聞きつけ、ある親がこの講師にマンツーマン指導を願い出た。“スーパー老師”が提示したのは「1時間6000元」という指導料、日本円にして10万円超である。わずか1時間の指導に、10万円に匹敵するほどの効果があると読んだのだろう、この親は惜しげもなくこの対価を払った。
・ちなみに、中国には600万元(約1億円)の資産を持つ世帯は今や500万世帯以上(2020胡潤財富報告)もあるという。少なくともこれら世帯は、子どもの教育のために無尽蔵の投資ができる。
・なぜ、ここまで教育に熱が入るかというと、中国では、大学を卒業した後の「受け皿」が限定的だからだ。中小企業は苦労が多く、誰もが行きたいと思う「高収入が得られる有名企業」となればその数は絞られる。これを突破するには、金と人脈に物を言わせるしかない。
・しかし、その人脈を使うにも、せめて「高考(gaokao、日本の大学入学共通テストに相当)」でいい成績を取り、いい大学に入れなければ話にならない。「3歳から受験競争が始まる」と言われるのはそのためだ。

3.教育産業に対する政府の動き
・共産党と国務院(政府)が7月24日に発表した学習塾の規制策には、「電子製品の合理的な使用とネット中毒の防止」を求める内容も含まれていた。
・中国共産党と国務院が発表した「義務教育における生徒の宿題負担と学外学習の負担の軽減についての意見」(以下「意見」)に打ち出されている。学習塾規制の主なものについて要約すると以下の通りとなる。
(1)学習塾の新規開業は許可しない。既存の塾については非営利団体として登記され、オンライン授業を手掛ける学習塾は許可制となる。
(2)すべての学習塾は上場による資金調達はできない。外資が合併や買収などを通じて学習塾に参入することは許可されない。
(3)教科指導分野以外の機関が教科指導を行うことや、海外の教育プログラムを提供することを禁止する。
(4)学習塾は国の法定休日、休憩日、および冬と夏の休暇を使って指導してはならない。
(5)学費の基準額は政府が定める。
・23日に明らかになった文書によると、学校教科の個別学習指導を提供している全ての機関は非営利団体として登録され、同事業を展開する新たな免許は今後は発行されない。
・文書は19日付で、中国国務院(内閣に相当)が地方政府に配布。家計負担を1年以内に「効果的に」、3年以内に「大幅に」削減することを目標としているとした。
・今回の措置で、当局は外国からの同部門への投資も制限。
・上海で小学生の英語試験禁止、習思想は必修化
上海市は9月の新学期から小学生の期末試験で、これまで実施していた英語の試験を除外する。試験の回数も減らす。学生の負担を軽減するためというが、同時に「習近平思想」を必修にして思想教育は徹底する。米国との対立長期化をにらみ、子供に強い愛党精神を植え付ける狙いもあるとみられる。
上海市は今月3日、新学期から3~5年生(上海市の小学校は5年制)の期末試験の対象科目を数学と国語に変更すると公表した。これまでは英語を含む3科目が試験の対象となっていた。一学期に中間と期末の2回実施していた試験の回数も期末試験の1回のみに改める。
習指導部は「(受験競争の激化が)放課後の自由な時間を奪い、小・中学生に多大なプレッシャーを与えている」と問題視する。放課後の学習塾や家庭教師の利用は教育費の増加につながっており、少子化を助長する要因にもなっている。中国最大の国際都市である上海市の取り組みは今後、ほかの都市にも広がる可能性が高い。

4.影響 
・市場規模1200億ドル(約13兆円)の中国の個別学習指導産業への影響が懸念される
・香港やニューヨークの株式市場で関連企業の株式が売り込まれた。
・「なぜ清華大学がアジアナンバーワンになったのか」でもご紹介した「新東方教育科技」の香港市場上場株は一時50.4%急落し、昨年末の上場以来の安値を更新。
・中国の電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディングや検索サイトの百度(バイドゥ)などの米市場上場株も売られた。
・複数社あるユニコーン企業の上場もできなくなった
・出資していた投資家は資金を回収する手段を失った

・7月23日情報リークがあり株価が下落

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5.政府の狙い(仮説)
・教育費の抑制(少子化対策)
統計によると、2016年時点で中国では6歳から18歳までの75%以上が放課後に何らかの個別学習指導を受けていた。教育費が家計の重しになっていることが少子化につながっているとの見方から、当局は圧迫を緩和しようとしている。
・教育産業に対する過度なマネー流入の抑制
①豊富なベンチャーマネーを背景に激安価格でシェアを獲得(少子化対策)
②起用される先生にも高い給与→人気講師が集まる
・若年層の思想の統制(教育思想対策)
習近平の中国新時代の特色ある社会思想を義務教育レベルから浸透させたい


・学外での塾通いを減らし、「学校内で放課後の活動」に置き換えれば、学習塾における過熱が収まり、家庭の負担を少なくすることができる。そうすると「進学に有利なのは、学区房に住み、学習塾通いに大枚をはたける富裕層の子どもたち」という現状を改善することができる。
・「教育の機会均等」に近づけば、子どもを産んだ瞬間から始まる受験競争、高騰して非現実的なものになった住宅購入から若い世代が解放されることにもつながる。中央政府には、学習塾産業を是正し、若い世代の出産意欲が高まれば、中国の人口問題も解決するだろうという読みがある。

参考資料;
中国、教育産業に続き、ゲーム産業も批判。関連株が急落。:Newpicks Podcast
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/newspicks-%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%BC/id1567108964?i=1000531029282

中国、営利目的の個別学習指導禁止 関連企業の株価急落
https://newspicks.com/news/6040482/body?invoker=np_urlshare_uid4815660&utm_medium=urlshare&utm_source=newspicks&utm_campaign=np_urlshare

中国の学習塾事業規制、世界のPE・VCファンドに打撃も
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-25/QWS70WT0AFB601

中国の親たちの教育熱は止められない!政府の学習塾規制は徒労に終わるか
https://diamond.jp/articles/-/278584

中国教育産業の大物、150億ドル失う-当局の締め付け強化が追い打ち
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-26/QWUVZCT1UM1001

中国教育産業の大物、150億ドル失う-当局の締め付け強化が追い打ち
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-26/QWTQ9PT1UM0X01

上海市で小学校の英語試験禁止
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM103LU0Q1A810C2000000/


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