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【stand.fm音声配信“上海生活のリアル”】デジタル人民元で貨幣の覇権を奪取できるか?

2021年8月2日から9日にわたって、R(アール)が早朝寺子屋LIVEで音声配信をした「デジタル人民元」について、文字起こししたノートをシェアいたします。

箇条書きで読みにくいところもあると思いますが、ご了承いただければと思います。また、ご意見ご感想及びスキをいただけると励みになります!

第1話:背景

この章では、まずデジタル通貨、デジタル人民元の話に入る前に、中国経済の背景を説明していきたいと思います。箇条書きで簡単におさらいをいたします。

1. 中国の経済の覇権はリスクがある
・経済構造にリスクがある。また、技術はUSAに対応できない。
 例としてあげると、AIチップの中国国産化率はわずか10%。
 詳細は音声配信「7/16,7/19,7/29 AI産業」をお聴きください。

・習近平政権は国営企業を優遇、民営企業を冷遇→国臣民隊
 例として、Alibaba、 Tencent、DiDiやIT企業の取り締まりを敢行
 「滴滴の一件はアリババより重大だ」。文書は中国当局の支持を得ないまま
  米国上場した滴滴について、独占禁止法違反で3000億円の罰金を科された
  アリババより重大な問題だと指弾する。(日本経済新聞2021.8.2)
 詳細は音声配信「7/8 IT企業が危ない?」をお聴きください。



2. 経済リスクとは
・経済躍進の原動力の一つであるIT企業を取り締まることで経済力が弱体化が進む。
・政府及び官僚がこの影響を認知していない可能性がある。資本家叩きで満足?
・市場メカニズムが機能しなくなった(7−8年前くらいから)
・経済の弱体化→市場持続不可能、長期化すると倒産へ→経済成長が難しくなってくる
  1. 消費者物価指数:政府がコントロール、上昇抑制をしている。
    なぜなら、国民、特に貧困層、低所所得者層が暴動を起こすのを未然に防ぐ
  2. 生産者物価指数:市場と連動(原材料等の市況と連動)ですでに20%以上上昇


3. 通貨の覇権を掴もうとしている?
・先進国で遅れているデジタル通貨に目をつけた政府は、通貨での覇権を取ろうとしていると、多くの経済会社が指摘している。
・デジタル人民元発行の狙いには、将来的には中国外での利用を促し、それを通じて人民元国際化と米国の通貨・金融覇権に挑戦することがあると考えられている。

第2話:デジタル通貨とは

ここではデジタル通貨とはそもそも何であるかを説明していきたいと思います。

デジタル通貨とは大きく分けて、3つのカテゴリーに分類されています。下の表が3つのカテゴリーをまとめたものです。

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出典:“デジタル通貨とは?電子マネーや仮想通貨との違いやメリットを解説“ powered by 三井住友カード


1. 電子マネー
・中央銀行発行通貨を電子化したもの 
・クレジットカードやデビットカードに紐づく 
・例)Suica, ICOCA, Paypay, 中国ならWechatペイ, Alipay


2. 仮想通貨、国家補償のない暗号化された通貨 
・例)ビットコイン、リブラ(現ディエム、Facebook)
・ビットコインは、「ブロックチェーン」といわれるしくみを導入しています。ブロックチェーンは、いくつかの仮想通貨の取引情報をブロックごとにまとめて暗号化し、そのブロックを鎖のようにつなげていく技術です。ブロックチェーンでは記録の改ざんが難しいので、仮想通貨の信頼性を担保できるのです。


3. 中央銀行発行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency, CBDC)
・これがデジタル人民元
・国家が発行する通貨がデジタル化されると、発行主体である国家側と、利用する国民側それぞれに、メリット・デメリットが生まれます。現状で予測されている点について挙げてみましょう。

CBCDの国家側と国民側のメリット・デメリット

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出典:“デジタル通貨とは?電子マネーや仮想通貨との違いやメリットを解説“ powered by 三井住友カード


第3話:各国のデジタル通貨の状況

1. CBDCをめぐる世界の動き
CBDCに対しては、世界各国の中央銀行が調査・研究や開発を進めています。スウェーデンは「eクローナ」の発行を発表しています。タイでは香港の通貨当局とのあいだで進めてきた開発をさらに前進させ、2020年9月から香港とのあいだでデジタル通貨取引を始めると発表。すでに大企業とのあいだでCBDCによる取引を実験的に開始し、今後は一般市民に向けて使用の拡大をしていくという方針も明らかにしました。

これまで、「発行の予定はない」としていた日本においては、2020年7月発表の「骨太の方針」の中でCBDCについてふれ、「日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」としています。それを受けて、直後の同月20日には、日本銀行内に「デジタル通貨グループ」が設置されました。日本を含め、CBDCに関する世界の動きは、急速に活発化しています。(本記事は2020年8月現在の情報)

2. 中国の動き
2019年10月、政府系のシンクタンクの幹部が「中国人民銀行は世界で初めてデジタル通貨を発行する中央銀行となるだろう」と発行に強い意欲を示しました。国内で「スマホ決済」が広く普及していることに加え、デジタル通貨の分野で主導権を握ることで人民元の国際化を進め、世界の基軸通貨・ドルに対抗する狙いがあるとも言われています。

中国の動きをみて焦る欧州とアメリカ
中国の動きをみてECB=ヨーロッパ中央銀行も、域内で使えるデジタル通貨の発行の可能性を検討する考えを表明しました。(20年1月22日記事)

欧州中央銀行(ECB)は2021年7月14日に、デジタルユーロの準備を本格的に始めることを決定しました(コラム「ECBはデジタルユーロ発行に向けて大きな一歩を踏み出す」、2021年7月15日)。また米連邦準備制度理事会(FRB)も今夏に、デジタルドルの報告書を公表する予定です。

3. 日銀の動き
日銀は、ECBやイギリス、カナダ、スウェーデン、スイスの中央銀行などと、デジタル通貨の研究を進める共同グループを設立しました。

研究グループは、サイバー攻撃への対策や、国境を越える送金の方法、金利をつけることができるのかなどについて共同で研究を行う計画で、年内をめどに成果を報告書にまとめる方針です。研究成果をもとに実際にデジタル通貨を発行するかどうかはそれぞれの中央銀行の判断に委ね、日銀も「今の時点で発行する計画はない」としています。(20年1月22日記事)

第4話:中国のデジタル人民元

1. デジタル人民元の運用はどこまで進んでいるのか?
あらためてですが、CBDCが注目されたのは、中国がデジタル人民元を発表したからで、そこから世界中で研究が加速を始めました。

中国は、独自のCBDCである「デジタル人民元」をアフリカやアジアなどの新興国の市場に投入し、現地での影響力拡大を狙っていると言われています。日米欧の自由主義陣営は、米ドルを基軸通貨とする現市場が「デジタル人民元」に取って代わられることを恐れています。日米欧が腰を上げた背景には、こうした中国の動きへの対抗心がありました。

一方で、中国は「デジタル人民元」を、遅くとも2022年2月に開催される北京の冬季オリンピックまでに実用化する、と発表しています。

さらに中国は、延べ40万人に対して総額約12億円以上ものデジタル人民元を配るという大規模な配布実験を、2020年10月から2021年にかけてすでに実施しています。一方、the economistの記事では20年来の実証実験ですでに50万人以上がデジタル人民元を受け取ったと言っています。いずれにしても、実証実験は40万から50万人の国民を対象して、行っていると言っていいでしょう。

中国人民銀行(中央銀行)は2021年7月16日、「中国におけるデジタル人民元(中国数字人民币、e-CNY)の調査研究の進展」と題する白書を公表した。正式導入に向けたスケジュールは定めないと説明していますが、前述のとおり、2022年2月の北京オリンピック開催に向けて、導入を調整しているとみて良いでしょう。実現できるかどうかは別ですが。

同白書を今回公表した狙いとして、デジタル人民元についての中国人民銀行の立場、背景説明、目的、展望、設計の枠組み、政策への配慮を明らかにし、説明することとしていています。そのうえで、関係者との対話を一層強化し、パブリックコメント(パブコメ)を募ります。

野村総合研究所(NRI)の記事では以下の通り、数値をまとめています。
“デジタル人民元の実験を始めた2019年末から2021年6月末までで、その取引回数の総数は7,075万回、取引金額は345億元(約6千億円)に上ったという。また、現在、実験の対象都市の飲食店など132万か所でデジタル人民元が使え、デジタル人民元の個人のウォレット(財布)は2,087万個に上るという。これは中国の人口の約1.5%に相当する。“

前述の実証実験の数は政府より選ばれ、デジタル人民元を無償配布された国民の数、NRIまとめの数字は法人も含めたデータのまとめと思われます。

2. 実際にデジタル人民元を使用した人の証言
以下の通り、実際に深圳市でデジタル人民元を使用したルーさんのコメントをthe economistの記事より引用致します。

“事務職のルー・チンチンさん(24)は、スマートフォンの画面を数回タップして金融の未来に飛び込んだ。中国広東省の深圳市で2020年末に行われた「デジタル人民元」の実証実験で、対象者5万人の1人に選ばれたのだ。彼女は専用アプリをダウンロードし、政府から200元(約3400円)を受け取って本を買いに行った。アプリ画面には従来の紙幣が表示され、「本物のお金のような感じだった」という。“

3. 実際の運用メカニズム
法律上、デジタル人民元は現金と同じ価値を持ちます。商業銀行6行のうちの1行が専用アプリに配布するデジタル人民元は、中国人民銀行(中央銀行)に預け入れた同額の預金に裏付けられているようです。人民銀行が紙幣と同じようにデジタル人民元を保証する仕組みをとっています。例えば、ルーさんのデジタルウォレット(電子財布)を設定した商業銀行が破綻した場合は、彼女のデジタル人民元(個人識別番号にひもづけられている)は新しい財布に移されます。(the economistの記事より)

第5話:世界基軸通貨への挑戦

他方で見逃せないのは、デジタル人民元のクロスボーダー(国際)決済の試験を検討する、と中国人民銀行が明言したことです。このデジタル人民元は、主に国内での個人の支払いに利用されますが、国境をまたぐ決済に用いるための試験プログラムも検討しているとのことです。

デジタル人民元発行の狙いには、将来的には中国外での利用を促し、それを通じて人民元国際化と米国の通貨・金融覇権に挑戦することがあると考えられています。そうした狙いの一端を、2021年7月16日中国人民銀行が「中国におけるデジタル人民元(中国数字人民币、e-CNY)の調査研究の進展」と題する白書を公表で明らかにしました。

海外からの批判も想定して中国人民銀行は、クロスボーダー決済の試験を行う際には中国と相手国の通貨主権を尊重して、関係国の法律を順守する形で行われる、と説明しています。また「国際通貨システムの発展を共同で推進するために、デジタル不換通貨に関する国際的な意見交換に積極的に参加し、基準設定について議論したいと考えている」と発表しました。(以上NRI引用)

前述したようにこれに呼応するようなタイミングで欧州、アメリカが以下を発表につながります。
・21年7月14日 欧州中央銀行(ECB):デジタルユーロの本格導入を発表
・米国連邦準備制度理事会(FRB):デジタルドルの報告書を今夏発表予定

1. ニーアル・ファーガソン氏の中国政府の目的の仮説
英歴史学者のニーアル・ファーガソン氏は、中国に「未来のお金をつくらせる」ことの危険性に目を光らせるよう、米国に注意を促しています。

デジタル人民元は当初、中国のモバイル決済大手に対する歯止めとして考案されてきました。ただ、現在はその導入の狙いには3つの仮説があるとされています。

①中国の監視能力を飛躍的に強化する
②国家による通貨管理の権限を大幅に拡大する
③ドルの覇権に挑む

2. 中国金融改革研究院(上海)の劉勝軍氏の検証
①スマホ決済ですでに監視されている、スマホ決済から切り替えにメリットあるか?現金を使う高齢者の対応の課題もある。

② 人民銀行はベースマネーのごく一部をデジタル人民元に置き換え、マネーサプライの残りの部分はそのままにする方針で、市中銀行を通じて一般市民に流通させる。デジタル人民元には利息がつかないうえ、保有額の上限は低く設定されるとみられる。
よって、大幅拡大はないと言える。

確かに、人民銀はいずれデジタル人民元の役割を拡大するかもしれない。しかし、制約が存在するのには理由がある。政府は金融システムの弱体化を警戒している。預金者が銀行預金を一斉にデジタル人民元に切り替え、銀行の資金繰りが厳しくなる事態は避けたい。

さらに、政府が銀行の融資方法を直接コントロールできるよう、マネーサプライを完全にデジタル人民元とする案は、政府の有力な経済学者にはほぼ支持されていない。人民銀の元金融政策委員である余永定氏は「中央計画経済に戻りたいとは思わない。戻るのは間違いだ。

③ 最後の仮説は、デジタル化で人民元の国際的地位が一気に高まるというものだ。だがこの見方は、今日の国際決済に占める人民元の比率が、カナダドルとほぼ同じ2%にとどまる理由を誤解している。企業や投資家はどの通貨を用いるか決める際、他通貨との交換性や投資の自由度、発行国の法制度に信頼が置けるかどうかを考慮する。
中国が他の主要国よりはるかに厳しい資本規制の維持にこだわっていることやその政治体制に対する根強い不信感が、人民元の魅力をそいでいる。
制約要因は政策や政治であって、技術ではない。

ただ、デジタル人民元は技術的な裏付けすら明確とはほど遠い。海外から中国に、中国から海外に送金する際、企業はすでにデジタル方式を採用している。国際銀行間通信協会(SWIFT)のシステムで銀行に電子メッセージを送信し、ある国の口座への入金と別の国の口座からの出金を指示している。処理に時間がかかるのは、中国の資本規制やマネーロンダリング(資金洗浄)対策などの国際規制への適合を確認するためだ。
デジタル人民元を導入してもそうした確認作業はなくならない。しかも、ベルギーを本拠に1万1000社余りの金融機関を結ぶSWIFTのシステムは、国境を越えて支払い情報を共有する最も効率の良い手段であり続ける可能性が高い。

政府系シンクタンク、中国社会科学院の劉東民氏は「長期的にみても、SWIFTは不可欠であり続ける」と指摘する。

3. 深圳市のルー・チンチンの感想
冒頭のルーさんは、支払いの一部にデジタル人民元を使うつもりだが、電子商取引(EC)やSNS(交流サイト)のネットワークと連動しているアリペイやウィーチャットペイの方がはるかに便利だと話す。中国金融改革研究院の劉氏は、他の人々も同様だとみている。同氏は3年後にデジタル人民元がモバイル決済全体に占める割合は5%に満たないと予想している。

まとめ

高い経済成長率が長期的に見込めない中国の通貨の覇権をめぐる動きについて、調べてみました。

中国政府もは、まだ手探りの状態で実証実験を継続している段階であること、また国内普及を考えた時に、すでに電子マネーが普及している中で果たして国民は利便性などのメリットを享受できるかなど、課題は多くあります。

今後、デジタル人民元で見ていきたいポイントは以下になろうと思います。

・2019年以降、積極的な実証実験を開始したデジタル人民元が、2022年2月の北京オリンピックで実用開始となるか。
・欧州、アメリカのデジタル通貨の導入の動きはどうなるか。

みなさんと一緒に、今後の中国の通貨覇権奪取に興味をもってみていきたいと思います。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。



参考資料;

Round Up World Now! 中国スペシャル
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/%E4%BC%8A%E8%97%A4%E6%B4%8B%E4%B8%80%E3%81%AEround-up-world-now/id120034448?i=1000529818676
中国「対話で解決策模索」 米の上場審査厳格化で(日本経済新聞2021.8.1)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0128F0R00C21A8000000/
「滴滴はアリババより重大だ」 中国当局、経済統制加速(日本経済新聞2021.8.2)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM200T60Q1A720C2000000/
NRI記事:デジタル人民元の動き
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0719_2
SMBC記事
https://www.smbc-card.com/cashless/kojin/digital_currency.jsp
NHK記事
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20200122.html
Time & Space記事
https://time-space.kddi.com/ict-keywords/20200526/2912
NRI記事:ユーロデジタル通貨の動き
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0715
中国人民銀行
Progress of Research & Development of E-CNY in China(中国数字人民币的研发进展白皮书)
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB090U70Z00C21A5000000/

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