見出し画像

酵素とは何か? ~その3~

 前回の記事では酵素の命名法と分類法についてまとめてきました。今回の記事ではEC番号の大分類に基づいて、酸化還元酵素と転移酵素について見ていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

 前回のおさらいです。酵素を系統的に分類するために開発されたのがEC番号 (Enzyme Commission number) です。EC番号は、ECから続く4つの数字で構成されています (Fig. 1)。ここで大分類は1から7までの数字が割り振られており、今回はX1が1の酸化還元酵素と2の転移酵素について見ていきます。

Fig. 1 EC番号の各種意味

1. 酸化還元酵素 (Oxidoreductases)

 酸化還元反応を触媒する酵素です。酸化還元反応ですので、一つの反応で酸化される基質と還元される基質が登場し、系統名もこれらにしたがって割り振られます。

酸化される基質: 水素供与体 (電子供与体)
還元される基質: 水素受容体 (電子受容体)
系統名: 電子供与体+電子受容体+オキシドレダクターゼ

 EC番号で電子供与体は副分類 (X2) 、電子受容体は副副分類(X3) に割り当てられ、細分化されます。以下に酸化還元酵素の副分類と副副分類の例を示します。すべては網羅できませんが、副分類は少なくとも23種類存在しています (Fig. 2)。

Fig. 2 酸化還元酵素の副分類と副副分類の種類

 様々な種類がある酸化還元酵素ですが、Firefly luciferase (EC 1.13.12.7) を例に見ていきます。5月から6月になるとホタルがおしりを黄色く光らせてコミュニケーションをとる光景を目にすることができるようになります。この光を生み出しているのがFirefly luciferaseが触媒する以下の反応です (Fig. 3)。

Fig. 3 Firefly luciferasaeの反応機構

 ここで、D-Luciferinが電子供与体、酸素が電子受容体です。
 もちろんFirefly luciferaseは夏の風物詩に欠かせない酵素なのですが、人の役に立つ応用もされており、それがふき取り検査です。Firefly luciferaseによる反応ではATP (アデノシン三リン酸) が必要です。ATPは微生物から動物まで、生物のエネルギー通貨として普遍的に利用されている分子です。
 微生物がいそうな場所を綿棒でこすり、そこから抽出したATPを、LuciferaseとLuciferinが含まれている溶液にディップすると溶液が光ることになります。この光の強度を機械で読み取ることで、その場所が汚れているかどうかを確認することができます。
 3年ほど前に小中学生のサマースクールのお手伝いをした時に汚れていそうな場所のふき取り検査を一緒にやってみたのですが、彼らは本当にいろんなところをふき取ってくるので、とても面白かったことを記憶してます。
 この例は特殊ですが酸化還元酵素はこのほかに、医療分野、環境分野、工業分野、農業分野など幅広い分野で利用されています。

2. 転移酵素 (Transferase)

 基質からもう一方の基質へ官能基を転移させる酵素です。よって反応前に官能基(基質A)を持つ基質と反応後に官能基を持つ基質(基質B)の2つが登場し、これらによって系統名が付けられます。

系統名
[基質A] [移動する官能基] transferase
[基質A]:[基質B] [移動する官能基] transferase

 副分類では転移させる官能基の大枠で分類され、副副分類では官能基がさらに分類されています。

 大学時代は転移酵素のうち、Transglutaminase (EC. 2.3.2.13) という酵素を使ってタンパク質材料を作っていたので、個人的に思い入れがあります。この酵素はアミノ酸のグルタミンの側鎖とリジンの側鎖または一級アミンを共有結合で連結する酵素です。反応スキームは論文を参考にしていただくとして[1]、体の中では血液凝固や表皮形成などに関与しています。
 トランスグルタミナーゼの特徴はタンパク質同士だけでなく、タンパク質と小分子を結合できる点にあります。そのため、近年では抗体薬物複合体 (ADC) を作る研究が盛んに行われています [2]。ほかにもお肉の接着剤 (Meat glue) として、加工肉形成などの用途で30年以上活躍している酵素でもあります [3]。

まとめ

今回はEC番号の大分類1, 2の酸化還元酵素と転移酵素についてまとめてきました。次回は引き続き、加水分解酵素、付加脱離酵素についてまとめていきますのでよろしくお願いします。

参考文献

 全体的に以下のサイトを参考に記事を作成しました。次回以降もお世話になります。

[1]  Vasić, K.; Knez, Ž.; Leitgeb, M.
Transglutaminase in Foods and Biotechnology. Int. J. Mol. Sci. 2023, 24, 12402.
https://doi.org/10.3390/ijms241512402

[2] Schneider H.; DeweidL.; Avrutina O; Kolmar H.
Recent Progress in Transglutaminase-Mediated Assembly of Antibody-Drug Conjugates. Anal. Biochem. 2020, 595, 113615.
https://doi.org/10.1016/j.ab.2020.113615

[3] Miwa, N.
Innovation in the food industry using microbial transglutaminase: Keys to success and future prospects. Anal. Biochem. 2020, 597, 113638.
https://doi.org/10.1016/j.ab.2020.113638

あとがき
記事を書くのに一週間以上かかってしまいました。教科書的な説明だけだと少し味気ないと思いまして、少しは実体験なども入れながら書いてたら遅くなっていましたが、初版よりは多少面白い記事になったのではないかなと思ってる次第です。勉強する前まではEC番号を詳しく知らなくても、正直何の問題もないなと考えていたのですが、調べてみると酵素にもいろんな種類があって知識も増えていくので、楽しいですね。次回もよろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?