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酵素とは何か? ~その1~

 はじめまして、さとうです。大学時代からタンパク質に関する研究活動を行い、学位を取得しました。その後、企業に入って酵素に関する研究開発を続けています。しかし、タンパク質、とりわけ酵素について、まだまだ知らないことだらけなので、知識のインプットとアウトプットのためにブログを始めてみようと思います。

 体裁はこれから整えていく予定ですが、当分は以下の3点を意識しながら記事を発信していくので、よろしくお願いいたします。

記事のコンセプト
① 1記事あたり1000 ~ 2000文字であること
② 酵素についてためになる内容を含むこと
③ 文献情報を付すこと

②については主観が多分に入っていますが、悪しからず(笑)

酵素とは?

 ずばり、「生体内で起こる化学反応を触媒するタンパク質」のことです。触媒とはそれ自身は変化せず、化学反応の活性化エネルギーを下げ、その反応速度を加速させる物質です。

 酵素によって触媒作用を受ける物質を基質、基質が酵素の触媒作用によって変化した後の物質を生成物と呼びます。

 化学反応を考える際、熱力学の法則反応速度論の二つの要素を考える必要があります。前者は基質と生成物の自由エネルギーの差、後者は基質と遷移状態の活性化エネルギーの差を考慮します。以下の図では生成物の自由エネルギーが基質の自由エネルギーよりも小さくなっているため、生成物が生じる向きへ反応が進むと考えられます (Fig. 1)。しかし、当該反応が十分な速度で進むかどうかはわかりません。もし、活性化エネルギーが大きい場合、反応が完了するまでに非常に長い時間がかかるかもしれません。そのような場合、酵素を加えて活性化エネルギーを下げることで、反応速度を著しく上げることが可能です。それでは、酵素によってどの程度反応が速くなるのでしょうか?

Fig. 1 酵素反応の自由エネルギー曲線

酵素は反応速度をどの程度加速させるか?

 結論から言うと、酵素の働きによって、生体内の化学反応速度は100万以上に加速されます。つまり、酵素が無ければ、生体内で起こる化学反応はとても遅くなり、生命活動を維持できないことが示唆されます。

 もう少し具体的に見ていきます。酵素反応は通常、数ミリ秒のスケールで進行するといわれています(Fig. 2, ピンクの点)。しかし、酵素がない場合の化学反応速度はどうなるでしょうか?

 2003年の総説を引用すると、例えば、二酸化炭素の水和反応の半減期は5秒であることが確認されています。ヒトのスケールで考えると5秒はすぐかもしれませんが、それでも酵素ありの場合(20ミリ秒程度)と比較すると反応速度の半減期は250倍も遅いことがわかります。そしてグリシンの脱炭酸反応の半減期は11億年であることが明らかにされています。その他の反応も差はありますが、基質が無ければ数ミリ秒という短い時間で反応を進めることができないので、酵素の役割の大きさが認識できるかと思います。

Fig. 2 酵素がない場合の化学反応の半減期 [1]

まとめ

 酵素は触媒の機能を有しており、化学反応を100万倍以上加速させることが可能なタンパク質であることを述べてきました。次回の記事では酵素の分類や反応条件について、まとめたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

参考文献

[1] Wolfenden, R. Thermodynamic and Extrathermodynamic Requirements of Enzyme Catalysis. Biophys. Chem. 2003, 105 (2-3), 559-572. https://doi.org/10.1016/S0301-4622(03)00066-8.


あとがき
 いざ、記事を書こうとすると、何を書けばいいのか、どの程度のレベル感で書けばいいのかわからず、1つの記事を書くだけで4日ぐらいかかりました。長い時間をかけた割には構成や内容に拙い点が多いかと思いますが、引き続きお付き合いいただけますと幸いです。

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