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3分でわかる月の惑星保護(Planetary Protection Policy : Category Ⅱ)

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テラ・フォーマーズならぬルナ・フォーマーズ?

今年の4月11日、イスラエルの民間宇宙団体「スペースIL」が打ち上げた無人月面探査機「ベレシート」が月面への着陸に失敗、月面に衝突したというニュースです。

「ベレシート」には、アメリカの非営利団体「アーチミッション財団」によって、人間の毛嚢、血液サンプル、そして乾眠状態のクマムシが搭載されていました。

クマムシは極限状態や放射線下でも生命活動を維持でき、乾眠状態となっていたとしても水があれば復活します。
月には水があるといわれますが、もし、「ペレシート」搭載されていたクマムシが月面に放り出されており、かつ水分が接触したとすれば、復活したクマムシが月面で生命活動を再開する可能性があるのではないか、というわけです。

惑星保護方針(Planetary Protection Policy:PPP)とは

クマムシなどの生物を月に持っていくことの是非はともかく、有機物を他の天体に持っていく場合、あるいは他の天体から持ってくる場合は、惑星保護方針(Planetary Protection Policy:PPP)というルールを遵守しなければなりません。惑星保護方針についてはこちらの記事もご覧ください。

惑星保護方針の根拠は?
そもそも、「惑星保護」といったときは2つの意味があります。
一つは、他の天体を地球の生命による汚染から保護すること(Forward Contamination)で、もう一つは、他の天体の生命体から地球を保護すること(Backward Contamination)です。
惑星保護方針はいずれについても対象としています。

惑星保護方針は、国際宇宙空間研究委員会(Committee on Space Research:COSPAR)が定めるルールで、宇宙条約9条が以下のように定めていることに基づくものです。

条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染、及び地球外物質の導入から生ずる地球環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする。

日本では、宇宙活動法によって、人工衛星の管理許可を取得する際の要件として惑星保護方針に準拠した措置を講ずることが求められています。

5つのカテゴリに分類
惑星保護方針は5つのカテゴリごとに天体を分類し、それぞれの要求事項を定めています。
この分類は、「対象となる天体の化学進化の過程や生命の起源に関する科学的な重要性」と、「対象天体の汚染が将来の調査に悪影響を及ぼす重大性」を考慮して決められたものです。

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JAXA のミッションの場合
①JAXAが実施する宇宙飛行ミッション、②ミッションへの参加、③他の機関が実施する宇宙飛行ミッションへJAXAが参加する場合には、JAXAの制定する惑星等保護プログラム標準に基づいて開発、内閣府の許認可を受ける必要があります。

月ミッションの場合ーカテゴリⅡ

月の場合はカテゴリⅡに該当し、①簡易な文書作成②有機物目録が必要となります。

このうち、有機物目録は宇宙機が持つ有機物を文書化することです。
一定の上限値を上回る有機物について、以下の項目が記載されます。

①識別名
②化学組成
③製品ツリーの中における位置付け・使用形態
④質量
⑤コンタミネーション管理標準、コンタミネーション管理ハンドブックに準拠したアウトガスの評価値・根拠となる参照資料
⑥製造業者

火星衛星探査へー日本チームの成果

アメリカをはじめ、日本でも火星探査に向けたJAXAの火星衛星探査計画(Martian Moons eXploration: MMX)が進行中です。
火星の衛星「フォボス」と「ダイモス」にという衛星がありますが、サンプルの採取や観測を行うというもので、2020年代前半の打上げが目標とされます。

惑星保護方針には火星の衛星「フォボス」と「ダイモス」の規定がありません。
しかし、日本の研究チームによって、上記プロジェクトで持ち帰ってくるサンプル内に微生物が含まれる可能性が100万分の1を下回ることが示されました。
これにより、はやぶさ2ミッションと同じレベルによって、惑星保護方針をクリアすることが事実上可能となりました。

ルールの見直し、新たなルール作成の流れへ

宇宙開発の進展につれ、惑星保護を取り巻く環境も変化しています。
それに伴い、惑星保護ルールの見直しも必要という声も上がっており、特にビジネスサイドとの調整は今後の課題になりそうです。

参考:
・惑星等保護プログラム標準(平成31年2月21日制定) 宇宙航空研究開発機構
・JAXAでの惑星保護への取り組み 宇宙航空研究開発機構研究開発部門 藤田和央、小澤宇志 東京薬科大学生命科学部 山岸明彦
・The COSPAR Panel on Planetary Protection Role, Structure and Activities

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