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世界の平和を守り宇宙一のアイドルになる!特撮アイドル4コマ登場――猫にゃん『Vドライブ』

  今回取り上げるのは猫にゃんさんの新作『Vドライブ』です。前作に続き特撮をモチーフにしています。前作の『ニチアサ以外はやっています!』が特撮を愛する女子高生たちが部活で特撮作品を作り上げるストーリーですが、今作はストレートに特撮作品となっています。動画配信と変身ヒーローを組み合わせたヒロインが人類の敵と戦うストーリーなのです。

 作品の中での最重要キーワードが「Vライバー」。アバターの姿で歌い踊る仮想空間のアイドルです。いわゆるVチューバー、バーチャルYouTuberですね。人気配信者はインフルエンサーとして現実社会に影響力があり、巨万の富が懐に入ってきます。
 


 主人公である井瀬愛梨はVライバー愛世きらり(あいせ)として活動中ですが、その人気はトップライバーのはるか下、ド底辺を彷徨っています。配信しても視聴回数は一桁で投げ銭という名の寄付も皆無。家賃どころか日々の生活もままならない、端から見たらダメ人間なミドルティーン女子です。しかしながら自分の生活もままならないのに、傷ついていた猫のナーコを助けて面倒をみる優しさもあります。きらりの夢というか野心は、有名になりチヤホヤされ投げ銭をいっぱい貰うこと。特にチヤホヤされたいことが彼女にとって至上の命題なのです。ストレートな欲求ですが、彼女のアイデンティティに深く根付いているのが、作中で少しづつ語られていきます。
 事務所の中ではライバーネームで呼び合う作中設定があるので、きらりの表記で進めていきます。

 特撮作品でヒーローになる切っ掛けというのは非常に大事なエピソードです。1話できらりがどのようにしてヒーロー・Vドライブの力を手に入れるのかと同時に、作品の世界観と戦いのルールを描き読者を引き込んでいきます。
 ある日きらりの元に面識も何も無いライバー事務所からスカウトメールが届きます。怪しさしかないメールですがきらりは疑うことなく乗っかります。面接も合格して契約書を読まずに即サイン。案の定レッスン料などで1千万円の支払いを要求されます。まんまと騙されたわけです。アパートにも先回りされ、配信機材も差し押さえられていまいます。それだけでなくきらりにこう告げるのです。


 インチキ事務所の面々によりきらりは絶望の底に叩き落とされます。そこに救世主が登場。きらりが保護した猫のナーコです。


 二足歩行で人語を喋るナーコは手にした剣で一閃、切られたライバー事務所の人間は正体をあらわします。

 

 「Vルス」。仮想世界からの侵略者。生物を乗っ取り自分のアバターにする情報生命体。人類の敵です。

 力が足りなくなったナーコはVルスを倒す役目をきらりに託します。スマホに転送されたアプリ「Vドライヴ」を起動させるときらりはアバターの姿になり、さらに自分の配信ステージに転移します。身体を情報に変換する事でVルスと戦う能力を手にしているのです。


 この配信ステージできらりの力になるのは視聴者からの応援、チヤホヤされたいきらりの性格とマッチングするシステムです。配信ライブをしてVルスに勝利。

 

 Vドライヴとして戦うことを決意したきらりはナーコの経営するライバー事務所に所属することになり、彼女がトップアイドルに駆け上がる物語であることを最後に提示されて1話目が締めくくられます。

 1話を読むことできらりのキャラクターとキーキャラクターのナーコがいる必然性、敵であるVルスの存在と目的、VドライヴがなぜVルスと戦えるのかという理由をきらりのピンチからVドライブで変身と勝利というストーリーと組み合わせることで、読者は自然と理解することができる構成になっているのです。さらに人々の声援がヒーローの力になるというのは鉄板の設定ですが、配信者にとっての視聴者数という形でわかりやすく描かれています。
 さらに特撮をテーマにした作品らしい演出が施されています。1話目の『Vドライブ』は連載誌のまんがタイムキャラットでは前編と後編が一挙掲載されていました。
 前編のラストがVルスが正体をあらわしたシーンで、次のページが後編のスタートです。


 この演出は特撮作品でよく観ることができます。前半パート最後にクライマックスを入れてCMに入り、後半に入ると前半のクライマックスシーンを重ねて詳細な情報を視聴者に提供する。そして怒涛の展開に進んでいくという流れです。特撮作品の王道構成を1話に取り入れて作品のカラーを明確にしています。またピンチからの逆転勝利というカタルシスがあるので、特撮作品を嗜んでいない読者の心をつかむ演出としても秀逸です。

 Vドライブのアプリを使い戦うことのできるライバーはきらりを含め3人登場します。三者三様で魅力あるキャラクターとなっているのです。

 きらりはアバターがピンクを基調にしていますが、戦隊物でいうと「赤」担当です。カラーページの名前の部分も赤に近いピンクで、初配信の最後の決めシーンの名前のカラーも赤です。


 
 戦隊物で赤はリーダー担当で仲間をグイグイ引っ張っていく強さがありまが、きらりというキャラクターはどうかというと、Vライバーになってちやほやさ投げ銭をがっつりもらいたいという現在のところリーダー資質と無縁の正確です。Vドライブになり仲間とともに配信と戦いをする内に自分の未熟さを自覚し、考えて行動していくようになります。



 彼女が赤を背負っているのは主人公であるだけでなく、将来の大きな可能性を秘めているからなのです。

 次に登場するのが「青」担当の二乃宮白(にのみやしろ)、ライバーネームはニノ・スノーホワイトです。チャンネル登録者数1万人の人気ライバーです。一応クール担当ですが、感情の起伏がかなり激しい21歳の成人女性。チヤホヤされたいからVドライヴになるきらりに厳しい視線を向けます。赤と青の対立関係のドラマが描かれるわけですが、このシチュエーションも特撮作品を嗜んでる人にはニヤリとできますね。
 ニノがVルスと戦う理由は家族の仇だからです。



 きらりの姿勢と明確な違いを見せて対立の深刻さを描いています。このシーンの後にはきらりの境遇も語られて単純ならざる対立関係を浮かび上がらせます。きらりとニノの対立と和解のドラマは作品を支える柱の一つです。

 3人目は「黄」担当の高琳芳(がお りんふぁん)、ライバーネームは黄虎ガオ。メンバー最年長の25歳で事務所最強のライバーです。チャンネル登録者数は10万人とメンバー随一の人気を誇ります。それだけでなくガオはきらりを含め多くのVライバーのアバターを手がけた絵師(ママ)でもあるのです。ちょっと興味があったので調べてみたら、リアルだとニノの1万人の登録者数でも広告費と投げ銭込みで結構カツカツな感じみたいです。ガオはライバーとしてだけでなくイラストレーターとしての収入もあるので、経済的には3人の中では突き抜けています。
 経済的なことだけではありませんが、ガオというキャラクターには余裕が感じられます。出会ってすぐにきらりとニノのギスギスしている関係を何とかしようと気をまわします。


 最強でありながら一歩引いた視点で全体を見るキャラクターにして、きらりとニノの活躍を奪わないポジションになっています。

 Vライバー陣営はまだチームワークが発展途上で、それが出来上がっていく過程に面白さを感じます。

 きらり達と敵対するVルスも魅力あるキャラクターです。戦隊シリーズに魅力ある敵は必須。『Vドライブ』でも様々な敵キャラクターが登場します。きらりたちが戦うのは『秘密戦隊ゴレンジャー』の仮面怪人、最新シリーズ『爆上戦隊ブンブンジャー』の苦魔獣(くるまじゅう)に相当するネームド敵キャラです。さらにその上に幹部クラスのVルスが登場します。彼女たちの登場でVルスの真の目的が明かされるのです。


 
 幹部登場のエピソードまで読み進めていくと、Vルス側はある程度組織が作られているが、命令系統ははっきり確立していない感じである事、実力主義であり強さがそのまま発言力の強さにつながっているなどがわかります。そしてVルス幹部側はVドライブの正体を知っているという大きなアドバンテージがあることが判明するのです。これにより現時点でVドライブサイドはVルス幹部たちに、圧倒的に不利な状況であることが読者にはわかります。この事はVドライブがいかにこの不利な状況を乗り越えていくのかという、期待感につながっていくのです。

 猫にゃんさんはあとがきで今作も趣味が全開と書いています。作品を読んでいると特撮作品へのリスペクトを作品全体から感じる事ができます。アバターでのアクションも華やかで見栄えが良く見ごたえがあります。こんな特撮愛にあふれた猫にゃんさんですが、ぶっ飛んだネタを挟み込んでくるのも見逃すことができません。


 伝説のメスガキ麺職人って何!?

 この1巻できらり、ニノ、ガオの3人のVドライブが揃いましたが、特撮作品といえば追加戦士。新たな戦士が登場するのか。Vドライブ、Vルスに続く第三勢力が出てきて場を引っ掛き回したりするのか。特撮愛にあふれた作品への期待が高まります。



画像出典 芳文社『Vドライヴ』1巻 P7,P15,P17,P18,P21,P25,P18,P19,P8,P81,P50,P72,P88,P93

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