祖父の記憶~関東大震災
父方の祖父は口数の少ない人だった。
戦争のことについて、祖父の口から聞いたことはなかったと記憶しているが、関東大震災の話は何度も聞かせてくれたと記憶している。
祖父は「水が貴重になる」と即座に判断し、「コップに水を入れてそれをたくさん金庫に入れておいた」という。
それで家族は元より近所の仲の良い人などにこっそり飲ませてあげたりしたそうだ。
水が貴重になる。今の災害対策でも通じることで、すごいなあと思う。
これから書く話は祖父から直接聞いたのか、親戚や近所の人から聞いたのか、記憶が定かではないのだが、関東大震災の後の一幕。
祖父はその頃、地元の消防団長のようなことをしていたらしい。
当時、「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」というあの噂は、祖父の住む小さな村にも届き、それを真に受けた人たちがやはりリンチなどを起こしていたという。
それで血だらけの青年が祖父の家に駆け込んで来て助けを求めた。
(青年は一人だったか複数だったかは定かではない)
祖父は青年を奥の部屋の押し入れに匿った。
そこへ自警団だか何だかを名乗る人物が現れ、祖父宅の玄関をドンドンと叩き
「ここへ朝鮮人が逃げ込んだのは分かっている。大人しく差し出せ」
というようなことを言ったそうな。
それで祖父が
「ここにはそんな人はいない。
俺はこのへんの消防団長をしている者だ。
俺の言うことが信用できないなら、俺を殺してから家捜ししろ」
と返答すると、その自警団だかの人物はそのまま何も言わずに帰っていった……
というのが私が聞いていた話。
ところが次兄が聞いた話はまたちょっとディテールが異なっていた。
自警団だかの人が玄関を叩くところまでは同じ。
自警団「ここへ朝鮮人が逃げ込んだのは分かっている。大人しく差し出せ」
祖父「ここにはそんな人はいない」
自警団「見た人がいる。分かっているのだ。お前もどうなるか分かるだろう?」
祖父「てめえ!このやろ!俺の言うことが信じられねえってのか!」
祖父、自警団の人を背負い投げし、ボコボコに。
祖父「分かったか!そんなに俺を信じられないなら俺を殺せ!!!」
自警団の人、ボロボロになって無言で帰る…。
うーん…ディテール……。
どちらが本当なのか、はたまたどちらも違うのか、今となっては知る術もない。
ただ、祖父がリンチに遭いそうな青年を匿った、というのはどうやら本当のことらしいので、祖父はとってもかっこいいと思う。
そんなことができる祖父をとても誇らしく思う。
もしも今、同じようなことが起きたら、私も祖父と同じように行動できるだろうか。
噂に惑わされず、真実を見極め、本当に困っている人を助けることができるだろうか。
そうありたいと願いつつ。
関東大震災の日を過ごす。
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