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織田信長「殿中御掟21ヶ条」

1.織田信長「殿中御掟21ヶ条」


徳川将軍は「征夷大将軍」=武家の棟梁であるので、武士に対する法度(法律)を作ることができる。江戸幕府は、大名に対して「武家諸法度」、武士に対して「諸士法度」を発行したが、天和令において統合された。

岡野友彦氏は、「徳川将軍は「源氏長者」=日本国王であるので、武家はもちろん、公家の掌握もできたので、「公家諸法度」、後には「禁中並公家諸法度」を出せた」と主張されているが、未だ定説には至っていないと思う。

江戸時代は、「江戸(武家=幕府)vs 京都(公家)」と分かりやすい。
室町幕府は「武家(幕府)vs 公家」に宗教勢力(寺家、社家)が絡み、三権門(武家権門、公家権門、寺家権門)の三つ巴による権門体制であったが、武家勢力(室町幕府の権力)が衰えると、まずは細川政権、続いて三好政権が生まれた。特に三好長慶は「天下人」と呼ばれている。
「天下布武」(武家勢力の復興)を掲げた織田信長は、足利義昭を上洛させたが、どうも将軍職に就いてからの足利義昭の「天下静謐」(天下の平和維持)の裁量に不満があったようで、「もっとしっかりせよ」と発破をかけたかったのか、「殿中御掟(でんちゅうおんおきて)21ヶ条」(足利幕府殿中の条規21ヶ条)を制定した。「殿中御掟21ヶ条」、あるいは「殿中御掟」とは、

①永禄12年(1569年)1月14日「殿中御掟9ヶ条」
②永禄12年(1569年)1月16日「殿中御掟追加7ヶ条」
③永禄13年(1570年)1月23日「殿中御掟追加5ヶ条」

を統合した名称である。
条文のほとんどが室町幕府の先例や規範からの引用であるので、革新的とはいえない。
※参考文献:臼井進「室町幕府と織田政権との関係について」

とはいえ、「殿中御掟追加5ヶ条」は変わっている。形式も変わっているが、条文に「信長」という個人名が出てくることが変わっている。現行法の集大成である「六法全書」のどのページを開いても、個人名が登場する条文は無いと思う。
 この「殿中御掟追加5ヶ条」については、織田信長関係や明智光秀関係の本に原文や現代語訳が掲載されていて、広く知られている。私のお薦めは、
金子拓『信長家臣明智光秀』(平凡社新書)pp.29-39
である。

「殿中御掟9ヶ条」と「殿中御掟追加7ヶ条」については、あまり知られていない。ネットで「殿中御掟」で検索すると、複数の記事がヒットするが、どうも、誰かの記事をコピペしたらしく、なんと、なんと全て同じである。
 正しいことが書かれているのであれば、著作権以外の問題はないと思うが、間違ったことをコピペして広めるのはどうかと思う。

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 たとえば、原文(翻刻)で言えば、ネットでは「殿中御掟9ヶ条」第8条が「閣申次之当番衆、毎事別人不可有披露事」となっているが、私には「閣申次當番、毎年別人可被有披露事」としか読めない。「年」を「事」(右隅の文字)と読み違えるのはどうかしてるし、「申次之当番衆」の「之」「衆」(右上に「惣番衆」)や、「不可」の「不」は私には見えない。
実は、「毛利家文書」では「閣申次當番、毎年別人可被有披露事」で、「蜷川家文書」では「閣申次之當番、毎事別人不可有披露事」となっており、「閣申次之当番衆、毎事別人不可有披露事」という写し(「御袖判」とある「仁和寺文書」)もあるのでしょう。写し間違えば翻刻が変わり、翻刻が変われば現代語訳が変わる。「不可」と「可」では逆の意味になる。

 現代語訳で言えば、「殿中御掟9ヶ条」第6条「奉行衆被訪意見上者、不可有是非之御沙汰事」(奉行衆に意見を訪ねられた上は、是非の御沙汰は有るべからず事)の訳が「将軍への直訴を禁止すること」になっているが、どう解釈したらこの訳になるのか私には理解できない。(「将軍へ直訴しないで、奉行人を通すこと」という解釈かな? それは「殿中御掟7ヶ条」第6条の「訴訟之輩在之者、以奉行人可致言上事」でしょう。)私なら「奉行衆に意見(足利将軍に提出する答申)を尋ねられた以上は、足利将軍は、是非(善悪、真偽)の沙汰(判決)をしてはならない」と訳す(「沙汰」ではなく「御沙汰」なので、「(織田信長ではなく)足利将軍の沙汰」と訳す)が・・・。「足利将軍よ、勝手に独善的な判決を下すな」(足利将軍家に多額の献金をしてくれる人に有利な判決を十分な吟味もせずにさっと下すな)という意味だと思うのだが、違う? そもそも21ヶ条に重複はなく、「殿中御掟追加7ヶ条」第5条「直訴訟停止事」の訳が「将軍への直訴を禁止すること」なのだが。

2.「殿中御掟21ヶ条」翻刻と現代語訳

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