梅昆布茶を飲んだことはあるかい?

 複数の飛び上がる青色の日時を完璧に間違えているリストアップされたハンギングロープ……。蛙の鳴き声を真似ている歩道の上の白い頭のカクテル……。ハエジゴクを食べようとしている昆虫学者。
「面目躍如といったところか」
「なにがだよ」
 クズリの黒ずんだ死骸で一晩をやり過ごす男……。「なあお前、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「このショットガンで撃つ」
 すると奥の方から受付女がすました顔で近づいてきて、いつかの録音の日々に流れたオーケストラを口だけで演出してくる。
「どうして彼にグズリの死骸を与えたの? 彼は愛されていたんだよ?」
「愛されていた? 運が良いやつだな……」
「実に運が良い! 運が! 運河!」
 砂漠の価格改定に文句を流すラジオと海中の魚に言語を所望している自信の無い四つの脚の蛸のような乾いた斡旋会場……。
「おや? 隅を叩いたら四つ目が出てきたぞ」
「そりゃあお前の腹の中にでもしまっておけ……」
 海賊の村長が綱渡りで指の間を狙っている……。隠された指紋の流れと無数に散らばる爆発の加減による火の出どころや、ガスタンクの色と灰色の果実に幼児を殴りつけて偶然を装う……。鳴り響く銃声……。雨音と階段を駆け上がる咳の音……。避難訓練と松明を挟む歯列の限りの音……。
 ピアノをやるかい? ならそこの横の位置に放置してある山羊の死体を持っていきな。さらにこれをオマケでつけといてやるよ……。へっへっへ……。なあに、御代は結構。アンタの尻の穴が二つに増えるだけで良いんだ。おれはアンタの笑顔だけが取り柄だからな。他人の笑顔で五ドルを稼ぐ男さ……。「なあお前、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「このサブマシンガンで撃つ」
 消滅する呪いと硝子に助けを求めているピストル商店や引き戸を開く手前の限りなくゼロに近い何かの洞窟。おれは真っ赤に染まったそれの奥まで進み、一番温かい位置で宝箱を開く。さらに二つだけの観測者の声を記してから、その歯列の間に挟まったゴキブリの死骸を食べる。「グズリじゃないのかい? ええ?」
「奥さん。申し訳ないが話している時間が無いんだ。これの正体を知っているのなら、さっさと話してほしい」
「ええと、それは確か昨日の九時……。私はトイレに向かったのですが、そこで奇妙な音を聞いたんです」
「その音とは?」
「チェンソーが駆動する音でした。妙に金属的で、それでいて生き急ぐような……。とにかくそんな音でしたなあお前、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「このライトマシンガンで撃つ」
 太陽が目次を無視する瞬間……。歴戦の猛者が集う街で、硝子によってコーティングされた核爆弾が飛び交う世界……。おれはブーツの腰に付いた豆腐の瓦礫を集めながら蟻の巣を探す勢いで呼吸をする。
 火葬の中から飛び起きた監督の右腕……。さらに予測されなかった天候の変化と左手からの出発と寒空の寒天……。漢字の文字列だけでそこが中国であることを決め付ける市長の髭と、それにコップ一杯分のカクテルを投げている係員の男……。
「これ知ってる?」
「僕はマニアじゃないから……」
「そうかいところで……」という手を止めて百足を食べるのを中断する力士。「なあお前、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「このアハト・アハトで撃つ」
 祭壇の流れと組み上げられた唐揚げに塩を振りかける女中や着物の女……。さらに三日限りの炎天下の中で自転車を転がす調律師とパズルの仕組みを理解した男……。高速の移動についていくオペラ歌手に帽子を投げて取り掛かる食材の調達……。
 ゴングと共にオンラインに復帰する網羅の植物や、伸びて生える地中の風。泣き言を感想として落としているインターネットと瓶の中の野菜……。「カクテルで逝けるって? はは、そりゃあ嘘さ」
「ならお前はどうする?」
「それよりお前……」そうしてガンマンはカクテルの入った瓶を机に置く。下の段の引き出しがガタガタと煩く舞う。「なあお前、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「1911で撃つ」
 狭まる間隔たち……。波に乗せられてやってくる足の死骸……。間違い探しで二日を使う教師……。始まった巨人の進軍……。「お前はどこまで進むんだ?」
 猿の死骸とそれに群がるハエの群れ……。人間の足跡が付いている死体……。二つの死体を合わせて操縦席に持ち帰る死体……二本の指を折り曲げる死骸……。小銭が入る音。
 食欲を刺激する音。さらに雨の冷たさとキックオフの鈴の音……。酒を嫌うガンマンたちは酔った上での行動の理念や、それに伴うタイプライターの掃除の方法を知らない。
「サムズアップがどうして親指を立てるのか知っているか?」
「知らない……」
「お前がナンバーワンだってことだよ」
 救急にやってきて過ぎ去っていく風と複製された鉄の檻……。最後に並ぶ小瓶の頭とカーキ色のプラスチックの蓋……。警察官が握っている三つの拳銃と化石で彩られたオーディオのカプセル……。立ち止まる歴史と授業に関する資料や適当に当てられた作業までの手順……。
「これが何色なのかわかる?」
「はい? カーキだろ?」
 ジッパーを開いて林檎を取り出す係員……。作業服を携えて白い鳥を撃ち落としている歴代の主婦……。
「なあお前、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「BARで撃つ」
 消耗されたサッカーゴールとネットの橋や白色の屋上……。確定されたカメラの主人と繋がれたリードの先……。
 ボルデイン警部は街をひとしきり歩いてからバーに入った。中には複数のオカマや髭を剃っている男に加え、それらの財布をすり取ろうとしている少年たちがミルクを囲んで叫んでいた。
「ご注文は?」
「もちろん梅昆布茶」
 数分後に商品がレターパックで出てくる……。
 するとボルデイン警部の右隣りに居た白衣のウルフカットの女が話しかけてきてくれる。
「なあお前、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「ニューナンブで撃つ」
 ボルデイン警部は腰から短いリボルバーを取り出してカウンター席に置いてみせた。するとバーのマスターがそれに芋焼酎をぶちまけて銃本体を駄目にした。
「ありゃりゃ、これじゃあ犯人を撃つことができない……」
「犯人を撃つって、どうやるの?」
 ボルデイン警部の後方に、黄色いキャップに黒のスカジャンを着た少年が立っていた。
 ボルデイン警部はテーブルの上のリボルバーを持ち上げて、少年の眉間に狙いを定めた。
「こうだ」
 火薬が炸裂する音が響き、少年が後方にバタリと倒れた。
 ボルデイン警部は大の字に倒れた少年を見下ろしながらリボルバーの銃口にふっと息を吹きかけた。
「あなたってとっても素敵!」
 右隣りの女が両腕を持ち上げながら叫んだ。
「ところで……」ボルデイン警部はリボルバーを腰にしまいながら口を開いた。「梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「デザートイーグルで撃つ」
 手榴弾を込めた握り飯が、コートを羽織って旅立っている……。虹を知らない女児にたい焼きをごちそうし、その後に発生するダンゴムシとの対立に原稿用紙を指し込む……。「僕らは常に新しい足を求めているんだ……」
「いいかい? 電波にもやりかたがあるんだ……。でたらめに打つじゃあ駄目なんだ……」
 男が老人に向かって唾を垂らしている。コロコロと鳴る腹にゲンコツを与え、次いで出てくる蟻の地獄に火炎を投げる……。
「僕はサイトを立ち上げるんだ!」
「やめておけ! 次からはこっちを使うんだ……」
 さらに終了のコートを羽織り直して旅の目的を訪ねる。「どうしてここに?」
「ここには蟲があると聞いてな……」
「それよりも、稀に破滅的になるインタビューについて話そう」
「ならそっちからね? 僕は陸上の競技の中から硝子の破片を持ち上げることができるから」
「それよりも……」吐き気のするレストラン……。「君、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「……このトレンチ・ガンで撃つ」
 心情を払ってから小銭の音を響かせる少年……。すでに放火したカクテルとバーの中の橙色の光……。鋼鉄と家屋の中や畳の香りに突撃する医者……。ベッドと昼間の騒ぎに乗じた強盗犯二人……。
 崩壊する瓦礫……。割れてしまった花瓶……。正真正銘のコップと黄色のプラスチック……。少年たちの集団はランドセルを投げることで音を繰り出し、キックの倍率や大学への道と隠された終電に歯列をかざして香りを分別する……。
 刺激された紫の煙……。太陽とビルの位置の関係と整理券の出どころ……。独りだけのパーティを観察するスーツの女にパティシエの袋。入れ墨と黄色の橋の下……。無重力の教室で行われる病的な堕落した四つ足の授業。
「梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」
「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」
「火炎放射器で焼く」
 消火栓の色と透明な飛び降り事件によるバンジージャンプ……。見えてしまう下着とアングルの関係性による泥の試合やツインテールの茶色……。
「どうして上の階に行こうとするの?」
「そうじゃないと死ねないから……」砂漠の天候と崩壊する一秒の走り込み……。
 マイペースな手術と興味を失う銅像。果てしない掃除の期限や鉄で作られた蟻の巣……。二階から飛び降りた少女の放送室。「放してあげたら? どうせ一円の価値にもならないよ……」
 兄弟が苛つきをボックスマガジンで発散している。消耗品の兵士や手足の色と黒板の平手打ち。確実に昆虫的な硝子の花瓶と透明ではない色の水……。ビンタの衝動とチョークと教師の脳震盪。
「みんな小説なんてものには興味が無いんだ……」
「それより何か飲もうよ」という掛け声と共にドリンクバーに駆け込む。「あ、梅昆布茶がある!」記者のふりをしてカメラを構える。すぐにシャッターチャンスがやってきて全ての梅昆布茶が泥になる……。


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