転生。

 晴れている海岸線を一人で歩いているとき、どうにも背筋が痒くなってきた。最初は無視をしていたが、いつまでも違和感は背筋を撫でていて相当に気持ちが悪かったので、着ていた白いワンピースを一心不乱に脱いだ。背中の肌と直接触れ合う布の部分を見てみると、そこは赤黒く腫れていた。手の平と同等の大きさで、円形。綺麗な丘のようになっていて、中心にいくほど赤色は濃くなっていた。臭いは無く、そっと触れてみると、質感はなぜかジャムのようで、指には何も付着しないが、触れた部分はしっかりと痒くなる。多大な不快感が波のように迫って来て、シワの多くなっている額に汗が流れた。
 すぐ嫌になったので、ワンピースを海に投げた。
 ワンピースの全てが海水に沈んだ後、それは起こった。海の全体が振動し始めた。左右に小刻みで、高速で揺れているらしく、水面ではあちこちで波が立っていた。
 海の匂いが濃くなっている。時折、海から弾き出された海水の飛沫が体に飛んで来て、冷たい。
 私は立ち尽くして様子を見ていた。ワンピースを投げたせいでこうなったのだろうと思ったので、ならばせめて、このまま海の行く末を見たいと思った。
 次第に海は、渦を作った。流れる海水は激しく音を立てているが、それでも海水があふれることはなかった。そんな渦の中心には光があった。光は白いが、しかしよく目を凝らして見てみると、赤色だった。温かみのある火炎のような赤だと思うと、そこで、あの光は太陽なんだと気が付いた。小さな太陽が、海にできた渦の中心で光を放っている。
 ふとワンピースが気になった。投げ込んだワンピースはこの渦の中でどうしているのかと思い、目を凝らし続けたままで渦の中を探すと、渦の中心に向かって流されているワンピースを発見した。海中の圧にありとあらゆる部分が押されていて、最大限に膨らんでいる様子は透明人間がワンピースを着ているように見えた。残念なことにあの腫れがどうなったのかは見えなかったが、ワンピースはそのまま順調に渦の中を進んでいった。
 中心に近づくと、ワンピースは渦の中から勢いよく飛び出した。イルカのように飛び上がったのかと思えたが、実際は中心の光に吸い寄せられてのことらしく、宙に浮いたワンピースは光の方へと進んでいく。海中にいた時と同じ形で飛び、やがて光の中へと消えた。そんな様子を見ている側としては、あれで太陽とワンピースが一体化したことは明白で、後にやることといえば、丘のような腫れによって駄目になったワンピースの新たなる生活に、ただ幸福を願うだけだ。

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