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母の記

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母親の記憶はわたしには特別のものです。遺してくれたものの大きさが、年齢とともに膨らんでいきます。
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#息子

〈母の記〉母の最期①

 ふたりの医師が駆け込んできた。看護師もふたりだったろうか。その看護師のひとりが、「急いでご家族に知らせてください」と叫んだ。  (急いでといわれても)  わたしは、緊急の事態にドキドキしながらも呟いた。(ここから三時間もかかる所に住んでいるんですが)  そしてこうも呟いた。(姉は昨日、一度家にもどりました。お医者さんが、「しばらくは安定していると思います」、そうおっしゃったからです。まだ子どもが小さいんです。三日間、こちらに来て看病していたんです。お医者さんに容態を確かめて

〈母の記〉バックミラー

   ─ようやく子どもが片づきまして  安堵(あんど)か満足か そのひとの目は優しい   ─でも いくつになっても心配で  そのひとの顔は心なしかやつれている ため息もまじる   よく響く笑い声をまんなかにして 泣いたり おこったり オロオロしたり   子育ては 人生の一大事  と 体全部が教えてくれた   ―じゃあ、ね 乗りこんだ軽トラックのバックミラーに 自立する息子を見送る母がちいさく映っている ●読んでくださり、感謝します!