どうして生じた?領解文問題 vol.3
松月博宣ノート
補遺(1)進退伺い
ご消息発布までの経緯を私なりに記してきました。
こうした事を公にすることに正直、少し躊躇いがありましたが、この度のことが単なる噂話として広がると事が余計ややこしくなってしまう。ここら辺りで正確な情報を知ってくださった上で、この度の混乱の問題点を一緒に考えてくださればと「新しい領解文を考える会」福岡・北豊LINEグループ上(現在288人参加)に投稿をし続けています。
徳永一道勧学寮頭は本願寺新報2月1日号紙面に「解説文」の掲載を確認されたあと、2月3日付けでご門主に寮頭を辞任する旨の辞表を提出されました。
法規的には「辞表」ではなく「進退伺い」です。しかし総局はこれを預かったまま棚上げし宗会に臨みました。これは寮頭が辞めなければならない程の問題点がある「ご消息」である事を隠す意図が読み取れます。
結果的にはつい先日の年度末2023年3月31日付けで進退伺いを受理した形にもっていったのです。これはご消息にまつわる引責辞任である印象を避けるためであったのでしょう。実際はこの進退伺いは「引責辞任」と見るのが妥当なものなのです。なぜなら法規の中の「法規通則」というものの第3章に「消息、宗告、布告及び告示の発布」というものがあり、その第9条は消息に関する法規通則ですが、ここにその全文を載せておきます。
とあります。
このことは、あまり知られてないことなのですが門主の消息の発布は
の流れで行われるものなのです。つまり三者の署名(副署)が無ければ発布出来ない仕組みなのです。勧学寮頭は自分が副署したが故に宗門内の混乱を起こしてしまった責任を取るという引責辞任なのです。ならば当然同じく副署をした総長も混乱を起こした一人として引責辞任して然るべきなのです。
が、総長は頑として「発布手続きに間違いは無い」と突っ張り通し自分の引責辞任を阻止するために、寮頭の進退伺いを棚上げにしていたと考えるのが理路としては筋が通ります。このことはまだまだお知らせすべき点が残っています。
補遺(2)経緯
そもそも新しい「領解文」がなぜ制定に至ったのか?
決して突然降って湧いた話ではないのです。
補遺(3)唱和3点セット
「現代版領解文」制定は既に2005年から懸案事項として取り上げられており、2009年に「拝読 浄土真宗の教え」の中に「救いのよろこび」が一応、領解文の精神を受け継いだ法文として掲載されていました。
と記されています。
石上総長が就任した2015年に「宗門総合振興計画」の中で再び現代版の領解文制定が事業にあがります。4年後には「拝読 浄土真宗の教え」から突如として「救いのよろこひ」が削除され、前年に修復法要後に行われた、ご親教「私たちのちかい」が掲載されはじめたのです。理由は「出拠が明らかでない」と当時の総合研究所所長は語っています。
どうも、あのご親教「浄土真宗のみ教え」を現代版領解文とする事を既定路線として進めてきたようです。それは2021年11月22日に開かれた「宗門総合振興計画」の事業精査の中、今後の課題としての部分で明らかです。
という文言がある事で確認できます。
宗務は各議事録の積み重ねで瑕疵を防ぎながら進めていくものです。それをするのが宗務員であり宗務官僚です。当然それらは総長の指示により動いています。
総長は一連の「念仏者の生き方」「私たちのちかい」そして「浄土真宗のみ教え」の唱和3点セットは「真宗の教義の肝要を簡潔にわかりやすく示したご文章であり、これらの学びを深めることにより、浄土真宗の基本的な教えと念仏者としての生き方がしっかりと身につけられ、心豊かに生きることのできる社会の実現に貢献することが見込まれる」と考えていたようです。これは2021年11月22日の事業精査の「見込まれる成果」の部分で記述されているのです。
補遺(4)強引な推進
と言う宗門総合振興計画推進会議常任委員会の報告書の「今後の課題」のところで議事録に記録されていることは前回書いた通りです。
議事録の中には常任委員会委員の宗会議員方も「NO!」と、相当厳しい意見を出しておられるのですが、石上総長の意向通りに事を進めようとする宗務官僚達によって意見は掻き消され、なし崩し的に「浄土真宗のみ教え」を現代版領解文とするという方向で事は進められていたのです。その手法は「強引」の一言で表されるものです。宗務官僚も僧侶なのですが自らの信心を問う事なく政治的な動きに巻き込まれ、ご法義に依る事を捨て去ったかのようです。
宗務員はたとえ人事権を持った総長であろうと、あくまでもご法義に依り宗務を執行すると言う信念を持ってもらいたいと思うのです。何故なら生活の糧として給与をもらっているのですが、その原資はご門徒方からの懇志に依っているのですから。たとえ相手が総長であろうと法義に反する事をしていると思ったなら正面切って「それは違います」と言って欲しいものです。ご開山に仕える事を見失い、総長に仕える存在になってしまったならご開山に申し訳ないことではあります。
宗務所職員方を「ご縁づくり推進室」などに関わっている関係でよく存じ上げていますが皆さん実に仕事が良く出来る優秀な方でありますし、挨拶をしてもきちんとされる方ばかりです。その職員さんをして、このような混乱を起こすことに巻き込んでいる総長の責任は問われると思うのです。逆に言えば総長は宗務員の弱み(生活基盤)を利用して事を進めるという、おおよそ宗教家らしからぬ手法で宗務執行をしてはならないと思います。
「浄土真宗のみ教え」を現代版領解文と見据えてるならば、総長は堂々とその事を門末に告知すればいいものを、「正当な事務手順を踏んで制定されたもの」とするために「現代版領解文制定方法検討委員会」を設置し徳永勧学寮頭をはじめ宗門の錚々たる学者に「アリバイ工作」の片棒を担がせたと言えます。
「人を馬鹿にするのもいい加減にしなさい」と言いたい事態です。総長から指名された5名の検討委員がたは、ただ利用されただけということになります。だからでしょう制定方法検討委員会で「内容を審議してもらうのではなく、制定方法を審議していただくのがこの委員会の役割ですので、そこを踏み外さない論議を」と勧学を相手に堂々と意見する宗務官僚の発言が記録されています。
補遺(5)制定過程の不誠実さ
「現代版「領解文」制定方法検討委員会」という意味のよくわからない委員会を、常務委員会という議決機関を使って設置させ施行させたのが、2022年4月1日付で、その委員構成はvol 2の⑥で記載しております。この委員会が総長に向けて答申した内容概要を「宗報2月号」に
と「統合企画室」文責として掲載しています。実に用意周到です。普通宗報からの原稿依頼に対して印刷に回す関係で原稿提出は2.3ヶ月前と求められるものです。しかしご消息発布されたのが1月16日、宗報が届いたのが2月!
「普段と違う、何しろご消息なのだから!」と言われればそうですが「制定の経緯」です。今まで多くのご消息が発布されてきましたが、その「経緯」を宗報で知らせた事は一度もありません。これは「制定経緯に疑義を持たれてはならない」という配慮があり、宗派の公式機関誌に素早く掲載する事で「その正当性を担保する」意図は透けて見えるのです。
また掲載された「制定経緯」の内容には何故か隠蔽がされている部分があるのです。それは13頁から14頁の「現代版領解文制定方法検討委員会」の答申書の内容についての部分です。答申書には先にも書いているように
とあるにも関わらず「統合企画室」の書いた経緯には、すっぽりとその部分は抜かして掲載されているのです。これはご都合主義の極まりであり私たち宗門人に対する重大な背任行為であると指摘しておきます。
この事一つとっても制定過程の不誠実さが見えるのですが、どうも経緯説明に饒舌過ぎるくらい過去の事から長々と説明しています。この事は第321回定期宗会での「総長執務方針演説」にも言える事です。本来ならば「ご門主さまより先の御正忌報恩講ご満座においてご消息を発布いただきましたので、これを元に宗務の基本方針といたしたく思います」くらいでいいものを、「2005年(平成17)年8月1日を始動とする云々」と長々とご消息が発布されるに至った経緯を述べています。
私はこれを聴きながら「まるで火曜サスペンスドラマの容疑者が、崖のそばで長々とアリバイを主張するのに似ているなぁ」と。やましさがあると弁解めいた言葉を多く発するものです。
「誕生」の「誕」は言葉を延ばすということから「偽り」という意味がある事を思い出します。私たちは「誕生」つまり偽りの世界に生まれてきた。その私たちの境涯に「降誕」したもうた(偽りの世界に真実の世界から降りてきてくださった)仏が言葉になってくださった法蔵菩薩の物語を思うのです。
つづく
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