見出し画像

清水屋【小城の鯉料理】

「鯉のあらい」と「鯉こく」を右大臣左大臣に据えたシナリオでコース料理が運ばれてくる。

「あらい」は大きな平皿に千切りキャベツが敷き詰められ、同心円状に切り身が並べられている。30切れほどあるだろうか。上を覆う氷が華やかさをより一層引き立たせている。

これを、ピリ辛い柚子胡椒と酢味噌、薬味ネギにつけてガサツに口へ運ぶ。かつては旅館も営んでいたらしく、座敷は古めかしい客間の完全個室であるため、テーブルマナーはそっちのけでいい。啜るようにしてガツガツ食べる。冬は脂肪をたっぷりつけた、まろやかな寒鯉、夏はかえって痩身の、弾力性あふれる夏鯉となる。それぞれの季節に頂きたい味わいと、鯉のバイオリズムが完全に一致しているあたりも、自分の中での冠たるごちそうとして君臨する所以の一つである。

そうしているうちに、おひつご飯と共に「鯉こく」が持ってこられる。端的に言えば、鯉と玉ねぎのお味噌汁になるのだろうか。そうはいっても、これは一品として明らかに主役を張っている。詳しいレシピは存じ上げないが、おそらく「あらい」に使用されない箇所をまるごと味噌で煮込んでいる。どうやら赤味噌を使う地域もあるそうだが、白子のとろみやご飯とのコンビネーションを考えると、清水屋の白味噌がベストアンサーとしか思えない。初めて訪れたときはオーダーミスなのか、と思えるほどとにかく、これがまた鍋いっぱいに運ばれてくる。お椀に装ること4,5回を数えるボリュームだが、これが不思議なことにいつもペロりと平らげてしまう。

2,000円で味わうことのできる充実感で、清水屋で頂く鯉料理の右に出るものを知らない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?