ヒコーキ

=note書こう。
と言うことで書きます。

長いの苦手な人は【移動2日目】から読んでね


【渡航前日】


EU、入国許可国リストから日本除外へ
EU、日本からの渡航を原則禁止

このニュースが日本に流れたきたのが1月27日。

僕のフライトは1月31日。なんでやねん。

全スーツケース(6個)空港に送ってあるし、向こうの新居も契約してるし、現地の保育園も話がついてる。というかそもそも飛べなければ、僕はそのまま無職となる。EUと見せかけて無職に入域。やかましいわ


ちなみに「日本除外へ」から「日本除外」に確定されたのが29日。確定されるまでは、どこに聞いても「なんとも言えない」という返事しか来ない。

とにかく時間がない。
この状況で、僕が確認するべき要点は、この原則禁止の「原則とは?」の部分。EUも「はーい、今日から全部ダメ!」じゃなくて、最終判断は各加盟国に委ねている。

僕の場合は
①向こうに契約が残っていて、
②現地の長期滞在許可証も所持していて、
③仕事も家も車もあって
④食べずに残しておいたカレー粉もある。

この立場は、入国可能なのか、不可なのか。
可能ならば必要なものは?カレーを食べるには?

超特急で調べます。
思いつく限りの人に聞いてみます。
(その節はありがとうございました)

‥‥OK。多分大丈夫。

時差で肝要なところに即連絡が繋がらないのがもどかしいけれど、現地の大使館、乗継で使うドイツの国境警察、チームや移民局に矢継ぎ早に電話をかけ続け、「僕自身は」おそらく渡航できそうだということが判明する。おそらく、のカッコ付きだけれども。

問題は、家族。
奥さんと2歳の娘。

昨年は単身赴任だったから、
長期の滞在許可証は僕しか所持していない。

昨シーズン終わって帰国する時点で、「次は家族と一緒じゃなきゃ無理っすね!」と決めていた。

もう娘の成長を見逃し続けることには耐えられないし、
時差を計算してオフィスから「おやすみ電話」を駆け足で数分するだけの毎日にも耐えられない。そして作りたてなのに残飯のような自炊、これにも耐えられない。


けれどこの「家族は連れて行けるのか」の確定情報が、どこを探しても出てこない。そりゃそうだ、今日発令されたのだから、実例がない。それでもヒントが欲しくて手を動かす。


藁にもすがる思いで、さっき見た渡航制限のニュースに飛んだら「そもそもこの時期にヨーロッパ行く日本人なんているのか?狂ってるだろ!」みたいなコメントに大量のいいねが付いてて、「そりゃそうだよなぁ」と打ちひしがれる。

けれど、携帯に掛かりっきりになって一喜一憂している僕を横目に、淡々と荷造りの仕上げを進める奥さん。「私とチビは行くからね〜」

背中を押されたのか、頬を叩かれたのか、よく分からないけれど、打ちひしがれている場合じゃないことは理解する。熟考する時間、精査する時間がない分、ここは覚悟の問題、腹を決めよう。

結局、二人で話し合った結論は
①とにかくフランクフルトまで飛んでみる。
②その入国審査でダメなら、俺だけラトビアに向かって、奥さんと娘はそこから引き返す。


こうして文字にすると、確かにひどく狂ってる。
けれど、これで判断の保留も、契約破棄も、情報に左右される時間のロスも、裏道もルール違反もなく、

①僕はまず仕事の契約を全うすること
②物理的な準備は最大限すること
③そのうえで、入域可否はその場のルールが決めること

という基準をもって判断ができる。
(奥さんと娘の負担はイカれてるけれど)

↓ちなみこれが旅程

画像1

わかります?
コロナ禍の減便の影響で、フランクフルトで18時間の待ち。EUに入域することを考えても、鬼門はこのフランクフルトになりそう。

ということで、僕が用意した書類の一覧

1、PCR陰性証明(ラトビア発の便の搭乗72時間以内)
2、クラブからの招待状(家族含めて)
3、戸籍謄本とその英訳(家族であることの証明)
4、仕事の契約書
5、労働許可証・滞在許可証
6、COVIDpass(ラトビア入国専用のQRコード)
+フランクフルト空港内のホテルの予約
+空港への迎えの手配(チームのスタッフ)

これ以上は思いつけず。
(例えば戸籍謄本の英訳は公的認証が間に合わないからワードで自作した)(奥さんがね)


【渡航当日】


成田空港は閑散としていて、逆手に取った2歳の娘は元気に走り回っている。僕は「フランクフルトでもしかしたら離れ離れかもしれない」と思い、その姿を焼き付けようと思うけれど、いやそれは弱気!と思って、全然余裕な感じを出す。

JALの皆さんの対応は本当に丁寧で、心から頭が下がる。きっといま大打撃を受けている業界のはずなのに。心から頭が下がるって変な日本語だね

ちなみに、この旅程においてJALが成田で発券できるのはフランクフルトまでで手元にはフランクフルトまでの搭乗券しか渡されない。※ただし預け荷物はフランクフルトで受け取る必要はなく、最終目的地のリガ(ラトビア)まで手配してくれる。

これはつまり。
僕たちは最終目的地であるリガ行きの航空券を発券するために、乗継のフランクフルトのチェックインカウンターで再度手続きしなければいけないということ。

つまり。さらに。要するに。
フランクフルトは「単なるトランジット(乗継)」ではなく、一度ドイツに「入国」することを指す(ですよね?)から、僕たちはドイツには乗継以外に用がないのに、形式上はドイツに入国しなければいけなくて、この「EU入域原則禁止、だけど最後は各国判断で」の状況下においては、それがよりややこしい不確定要素を増やしている。(一番ややこしいのは僕の説明ですね)

置き換えると、
新宿(ドイツ)で中央線から山手線に乗り換えて渋谷(ラトビア)に行きたいだけなのに、新宿では一回改札を出なきゃダメで、出るにあたっては新宿駅独自のルールが適用されて、そこで18時間待機して、新宿駅の窓口で渋谷行きの切符をもう一回買わないといけないって感じ。ちょっとちがうか。


【フライト】


12時間のフライトは、たしかに長い。

離陸して、景色を見て、人形遊びをして、ディスプレイのゲームをして、桃太郎を読み聞かせて、シール貼りをして、オムツを変えて、一緒にアンパンマンを見て、機内食を食べて、歌をうたって、昼寝して、娘は全回復して、まだ7時間残ってたりする。

けど、ここでもJALの客室乗務員さんたちが助けてくれた。オモチャをくれて、お菓子をくれて、話し相手になってくれて。本当に、心から頭が下がる。

途中でドイツ入国に際する書類が配られた。
その一節に、「ドイツ入国の48時間以内の陰性証明が必要」と書いてあることに気付く。

ん?
待て、まずいぞ。
僕は「ラトビアで72時間以内」という最終目的地のルールに囚われていて、PCRの陰性証明を乗継地ルールで計算することを忘れていた。

そして何度計算しても、「ドイツ到着48時間以内」に対して、到着時間が3時間オーバーしている。心臓が止まりそうになる。

けれど、ここは空の上。
「パイロットさん、もっと飛ばしてください!」は通用しない。というかパイロットはすでに機体を飛ばしている(うまい)。

とにかく、案じたところで何も変わらない。コントロール出来ることは限られている。とりあえずビールを飲もうではないか。

※終盤はJALの方がくれた飛行機のプラモデルに、しまじろうのシールを貼り付けたコレで、1時間くらい遊んでくれた。

画像2


【ドイツ到着】


無事に到着し、入国審査まで進む。

この入国審査は、すなわちEU入域を意味するから、ここを通れるかが鬼門。

列はソーシャルディスタンスのおかげでなんだか間の抜けた長蛇になっていて、人々の会話は少なく、静寂には特有の重たさがある。

あの独特な活気、「空港」という存在の隅々まで迸っていた人々の高揚感は、コロナ禍の空港には存在しない。

僕たちの番が来る。

パスポート3つを渡すと同時に、質問される前から一息に喋り倒す。

「きいてください、ドイツはただの乗換でラトビアに仕事があって、これが滞在許可証です、もう5年もその国で働いているのでパスポート確認してください、あ、今日は空港内のホテルも予約しています、それと招待状と契約書と家族証明と陰性証明もありますけど見せましょうか?あ、これです、それと」

入国審査官は、聞かれてもないのに喋り続ける僕と、パスポートをそれぞれ一瞥して

「マスク外して顔を見せて」

と至極当たり前のことを言う。そりゃそうだ。

「はい!!」

キビキビと外す。

……書類を吟味している。

「奥さんと娘の滞在許可証はないの?」

「現地に入国したら申請します」

「OK。パン!パン!パン!(スタンプを3回押す音)」

「え?」

「通っていいよ」

「え?」

「通っていいよ」

「え?」

「通っていいよ?」

「はい!!!!!!!!!」


EU入域。

この48時間くらい、爆音ノイズでずっと頭を悩ませていた最初の鬼門を、あまりにも簡単に突破してしまった。

予想することしか出来ないけれど

僕が揃えられる全ての書類を揃えていたことと、
過去にラトビア滞在歴が何年もあること、
家族といたこと

あたりが、構えていたより7倍くらい簡潔な質問のみで通れた理由かなと、、。


選手時代、僕のような種類の顔をぶら下げて、僕のようなパスポート写真(以下)で1人で国を移動をしていると、とても入念に質問/詰問されたり、やたらと荷物をチェックされたり、サラッと別室に連れて行かれることが何度もあった。(本当に何度もあった)

画像3

※パスポートを取得する時期に変なパーマをあてるのはやめましょうそのまま10年後悔します


他の乗継客は、入国審査の出口を経て、すぐに別レーンに案内される。けれど前述したように、僕たちの手元には現地までの搭乗券がないから、まずはそれを発券してもらわないといけない。

しかしこの日、airBalticは便を運行していなかった。
つまりチェックインカウンターは終日閉じている。
 発券はもちろん、相談すらできない。

けどまぁ、18時間の待機だし。
空港内のホテルを予約しているのだから、とりあえずホテルにチェックインしよう。うんうん。荷物も重いし、娘もやや暴れ始めたし。


と、いうことで向かったMycloudトランジットホテルは、ターミナル1の”Z”にあった。Zはその名の通り、Aに対してのZ、すこぶる端っこにある。歩きたいと言う娘の歩幅に合わせて、標識を頼りにZに進む。

だけれども。着いてみたら。
Zはトランジットのゲートにあった。
つまりZに行くには再度パスポートコントロールと保安検査を通らなければならず、それを通るには有効な搭乗券が必要だった。

あれ

詰んでませんか?

→チェックインカウンターは閉まってる
→今日は搭乗券は受け取れない
→乗継は18時間
→予約していたホテルに入りたい
→ホテルはZにある
→Zに行くには搭乗券が必要
→振り出しに戻る

2歳児を連れて、ホテルなしの18時間は無理。
僕はその場を仕切っている保安おじさんに、ホテルの予約証明をみせて、必死に事情を説明する。「チェックインカウンターが開いていないんです」「ホテルは予約してるんです」

一から状況を説明したら、
同じような旅客がけっこういるみたいで、通してくれた。

だけじゃなく、おじさんは「この先は売店がないから、水や食べ物は買っておいたほうがいいよ〜」とアドバイスまでくれた。

おじさん、ナイス!
来た道を戻って、売店で水を2本(1000円!)買って、我らがおじさんのいるパスポートコントロールまでUターンする。娘は走ったと思えば抱っこを要求したり、マスクを外したがったり。そろそろ限界。もうすこし頑張って。

パスポートコントロールを通過して、
保安検査を通過する。

ちなみに保安検査では
毎回パソコンやスマホと一緒に、
「タッチで簡単、アンパンマン知育パッド」
も別ケースに出さなきゃダメだった。信じられないくらい面倒。


やっとZに入る。

すぐ目の前に、大きめの売店。
めっちゃ水とかパンとか置いてある売店。

「この先は売店がないから水や食べ物は買っておいたほうがいいよ」のおじさん、お前の顔は忘れないからな


Mycloudトランジットホテルは、Zのゲート25にあって、それがマジでZのなかでも果てに位置している。着陸してから、2キロくらい歩いてると思うんだけど。娘は動く歩道があるところだけ機嫌よく歩いてくれる。


チェックインを済ませて、部屋に入る。
娘は疲れ果てているはずなのに、窓から飛行機が見える部屋に大興奮していた

「ヒコーキー!」
「あのヒコーキは寝てるねぇ」
「あのヒコーキは起きてるねぇ」

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それを見てるだけで、なんだか疲労が飛んでいく。(飛行場だけに)


【移動2日目】

翌朝のフライトは9時45分。
なぜか深夜3時くらいに大覚醒した娘のおかげで、全然満足に眠れなかったけれど、もうあと少し。

発券手続きに向かう。
カウンターは女性が一人で取り仕切っている。

トラブルだか臨時ルールだか分からないけれど、
電子印刷の航空券を発券できないらしく(そんなことある?笑)チケットを手書きで作成してくれた。

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ちなみにこの「SEAT(座席)」のところ、なんて書いてあるか読めますか?

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答えは8A。
ふむふむ、なるほどね!読めるかい!

そういえばバスケットボールの女子ドイツ代表と同便で、やっぱ大きいんだけど、みんな娘にアイコンタクトしてくれて優しかったし、やっぱ大きかったし、ジャージの着こなし美しかったし、あとやっぱ大きかった。

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伝わるかな、このカッコ良さ。

この便では終始、娘は眠ってくれた。
滞在許可証も招待状も契約書もラトビア発行だし、
陰性証明もラトビアルールに合わせて取得してきたのだから、ラトビアについてしまえば、もうあまり不安はない。

あとは到着して荷物を受け取るのみ。


【ラトビア到着】


降機すると、保安官に僕だけ止められる。
はいはい、恒例の身元チェックですね!

奥さんと娘は僕が止められたことに気付いてない。
「おーい、ごめん、ちょっと待ってて」と声をかけると、保安官に「家族なのか?」と驚かれる。

いや、俺の顔がとても濃いのは分かるけど。
3人並んで降りてきても、家族って分からないくらい、いやせめて同じ日本人だって分からないくらい、俺だけ濃いかな。濃いのか。濃いよね。

この検査は滞在許可証を見せたら一発でOK。

そして最後に陰性証明と滞在許可証を提示する場所があって、それも一発でOK。全ての、本当に全ての関門を通過。

無事に!晴れて!ラトビアに入国!!!

どうなるかと思ったし、出たとこ勝負の連続だったけど、なんとかここまでたどり着いた。

いま、隣に娘と奥さんがいることが、とても尊いことに思えてくる。

【そして荷物】

ドイツ女子バスケ代表の御一行が、車輪付きの荷物乗せるやつ(あれ名前なんて言うの)に、大型荷物をガシガシとスラムダンクしていく中、

僕たちの6個の預け荷物は

なぜか1個も流れて来ない。

まぁまぁ、最後のほうに固まってるんだわ。

うんうん。うんうん。

「ガーーーーー、ピタッ(ベルトコンベアの止まる音)」


ん?
こらこら。
お茶目なんだから。

……

えぇ
いやいや。ほんとに?
いやいやいや。6個だよ?

……

えぇ。いや。うそでしょ。
ぇぇぇぇぇえぇえぇぇえ。

……


全6個、ロストバゲージしました!!


うなだれる僕らを尻目に、悠々とミルクを飲む娘。
荷物があるべき場所にある空洞。静止したコンベア。

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なんだろう。
紛失の手続きや登録みたいなのって、普段なら死ぬほどしんどいんだけど、この長旅の最後に持って来られると、「締めのイベント」みたいに思えてきて、

なんだかハキハキ手続きできました!




空港を出ると、かわいいカードを持ったチームスタッフの迎えが。これ、くれるらしい。

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俺はこのチームに戻ってくるために、こうして来ているんだなぁ。


ということで、2021シーズンも、
ラトビアでサッカー指導者を始めることができそうです。

今回の件で
なんでここまでして、このコロナ禍に、家族を連れて、ヨーロッパに来るんだろう?

と何度も考えました。正解は分かりません。


それでも
それだからこそ
僕はこの2021年を大切に過ごすことは間違いありません。

横に家族がいて、
この国で、このチームで、
大好きなサッカーの仕事に従事できることが
どれほど尊いことなのかを、毎日噛み締めないといけませんね。

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隔離10日間のあいだに、
6つの荷物が帰ってきますように。








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