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高校模擬国連/リサーチについて

はじめに

会議の約3週間前、議題概説書BGと担当国リストが配布され、他の参加者と共有するPPPと自国益が最大限に反映されたDR(ここではIdeal Draft Resolution,略してIDRと記す)に向けたリサーチが始まります。しかしどうやってリサーチをやればいいのか、ということで困ったことが一度や二度ある人もいるのではないでしょうか?特に初心者は実際の会議でどんなことをやるのか分からないと、どんな目的意識を持てば良いのか、何を目標にしてやればいいのか分からず、散漫にBGを読むしかなくなってしまいます。

というわけで、リサーチという退屈(!)な作業をどんな目的意識の下、如何にして行うべきかについて個人的な見解を共有出来ればと思います。これを通して模擬国連の会議を楽しむきっかけになれば幸いです。

なにを目的にするのか?

そもそも、リサーチをするにあたって、どのような理想形を目指せばよいのか?これは当人がその会議でやりたいこと、挑戦してみたいことによって変化するから紋切り型で存在する訳ではありません。しかし、少なくとも「自分自身の声」を会議に参加するまでに持つことは必要なのではないかと思います。

私はペアとしてお世話になった先輩からよく、「一つだけでいい。一つだけでいいから、自分の担当国にしか提案できないような政策案を考えろ」と言われていました。当日の会議において、場数を踏んでいる上級者は皆、自分達の国益にかなったIDR案を持ちあわせています。そんな彼らと渡り合うには自分が担当する国の国情とそれに基づいた信条に合わせたオリジナリティのあるIDRを持っていた方が話が有利に進むでしょう。具体的に言えば、政策案そのものの独自性と、その背景にある担当国特有の政治理念・政策方針(外交方針というべきか)を確立させておけば、周囲に流されない自分自身の声を持ちあわせた、首尾一貫した大使として会議で活躍できるのではないでしょうか。そのため、リサーチでは政策案そのものの独自性と担当国特有の政治理念・政策方針を如何にして考え上げる又は見つけるか、を目標にしてみるのはいいのではないかと思います。

リサーチの手順

ここには私個人の経験(約4年間高校模擬国連の会議に参加、第14回全日優秀賞、派遣事業Best Improvement Award)に基づいてリサーチの手順の一つの方針を共有出来れば幸いです。ちなみに、グローバルクラスルームの模擬国連マニュアル21〜28ページにもリサーチの方法がより体系的・網羅的に書かれてあるのでそちらも参照していただければと思います。

BGを読む

政策案そのものの独自性と、その背景にある担当国特有の政治理念・政策方針を確立させるには何をすべきか?天から降ってきてくれないのが辛いところです。そこでまず最初に頼りになるのが、フロントの血と汗と涙によって作られた議題概説書(BG)です。

BGにはフロントが参加者に当会議で議論してもらいたい内容・目的その他さまざまな思惑が書かれてます。まずはそれを読み解くことから始めてみてはいかがでしょう?

フロントを少しばかり経験した私としてはやはり、「論点」と銘打っている章・項目をまずは読み込むことをお薦めします。実際、BGを執筆する時も「論点」に一番気を使うからです。しかし、良く読んでも結局「へぇ〜」で終わってしまうこともあります。結論の項目で「〇〇に気をつけてリサーチせよ」「〇〇とはどうあるべきだろうか」など丁寧に解説してくれていても、どうも腑に落ちない時もあります。そんな場合は「論点」の中から、特に「争点」を見抜いていくということを一つ提案したいと思います。

論点」というのは例えば宇宙開発だと「宇宙ゴミの処理について」だったり気候変動だったらば「森林伐採」についてだったり、どの国家・団体もそれが国際会議で「論じられるべき問題点」だとして認識されている事柄です。それに対して「争点」は、例えば「宇宙ゴミの処理には先進国も途上国も同様に責任を持つべきか」とか、「森林伐採は先進国の多国籍企業にその責任を大きく追わせるべきか否か」といった国家によってその国益・背景の相違から見解が分かれそうな、「争われうる点」ということで論点とは異なるものだと認識できます。

この「争点」をあまりBGは「論点」と区別して扱っていないのですが、それはその争点が「争点」として取り上げられること自体に国益が絡む場合もあるため、あえて区別していないのかもしれません。しかし、「論点」ではなく「争点」をBGの内容から具体的に洗い出した方が、議題を二項対立的に論じられ、問題をある程度単純化することも可能なのでお薦めです。(私見ですが、高校模擬国連の会議では、論点そのものから踏み込んで各国が対立する争点の譲歩を文言上でどうやるかについて議論する場合が多い気がします)


コンテンツの渉猟

さて、BG上に隠されている(またはフロント側から提示されている)「争点」をリストアップして次に漁るべきものが参考文献です。

まず初めは議題の事項に関連するまとめサイトなどの二次資料を漁り、さらに詳しい争点やBG上には直接指摘されていなかったけれど論点に関わりそうな内容を見つけていくのをお薦めします。理由はおおまかなまとめサイトは比較的政治信条的バイアスが少ない(これはサイトの種類にも依り、メディアリテラシーが要求されるますが)。そして、そのような媒体は主に一般人を読者層と想定していて語り口が分かりやすいからです。

Googleで「〇〇(←論点・議題などのワード)問題/課題/議論/歴史」などと色々検索してみると先ほど話したような二項対立的「争点」を新たに見つけることもできるかもしれません。(筆者はこれでよく片っ端から検索をかけてクリックしたページを全部PDF化し、それぞれのサイトの要約や気になる点をGoogledocumentに書き出していました。)

BGという一つの媒体だけでなく、様々なコンテンツを調べる中で、重複している内容を見つければそれは社会一般的にも問題視されている事案であることが分かりますし、逆にどちらかに内容は新しい知識として得るだけでなく、その著作の偏り度合いを知るという点で有益だと思います。

さらに、各争点・論点を深く学びたい場合はGooglescholarのサイトに飛んで先ほどのように「〇〇(←論点・議題などのワード)問題/課題/議論/歴史」とタイプして検索してみると、リサーチやはたまた政策立案のアイデアに有用な学術論文がヒットするかもしれません。これらもまた、自分の中で「これは」と思った論文は保存しておいてその要約を自分で書いておくと後でIDRを書く際に便利です。ただ、論文によっては著者の思想・論調に偏りがあったり、トピックによっては過度に専門的でリサーチには合わない場合も多々あるので注意することをお勧めします。

そして、大体二次資料のリサーチが終了したら、次は一次資料の国連文書を漁る段階に入ります。まずは、基本的な資料としてその議題に関連する条約文書は全て一読しておいても良いでしょう。条約本文だけでなく、「その条約がどのような意義を持って作成されたのか」、「その条約に潜む問題点には何があるのか」などについて先ほどのようにGooglescholarで検索することで、条約が議題と如何に関わっているのかをその背景を含めて知ることができて有益です。

さらに、条約の作成までと締結後における議論の動向の中で担当国が発した主張を抑えることが出来れば素晴らしいです(結構骨の折れる作業ですが)。環境問題関連の条約であれば、締約国会議(Conference Of the Parties: COP)から各会議毎に発行されている議事録を読むのをお勧めします。

※「締約国会議(Conference Of the Parties: COP)」とは、批准加盟国やオブザーバーが参加する当該国際条約の最高統治機関として、条約の定められた内容の実施状況を評価・分析し、条約の範囲内で新たな政策を決定していく機関です。

また、環境問題でなくても各条約に関連した小委員会などが毎年・隔年・4年毎になどで議事録を発行しており、運が良ければ各国が主張した意見について知ることができると思います。BGによっては参考文献としてこのような国連文書が提示されている時があるので、そこを取っ掛かりにしてみても良いでしょう。

担当国の国情のリサーチについて

最後に担当国そのもののリサーチについてですが、これに関しては不真面目でした。私は担当国のリサーチに関しては一応国情は考慮しながらも自分のやりたいように自由にやっていた記憶があります。

中国になったらアフリカやアジアに利権を拡大したい、とかEUだったら人権の尊重と環境問題の保護がどんな時でも最優先、というように自身の個人的主観的偏見に基づいて国ごとのカラーを決めて外交方針を立てて、その外交方針に合いそうな資料を選んで探していました。

他にも例えば、先進国は「いかに国際協調を維持して解決の主導権を自国が握るか」、そして開発途上国は「いかに責任問題を先進国に負わせて自国の発展のための援助を受けるか」、そしていわゆる中国・南ア・インドなどの新興国は「いかにして独自の立場で両陣営を繋げるか」、という図式に簡略化して議題に私は臨んでいた記憶があります。これがどこまで現実に即しているかは不明ですが、ある程度リサーチの前に「おおまかな指針」を持っておくのも有りかもしれません。


最後に

ここまで来たら、リサーチをする中で「担当国が進むべき指針」や「議題において争われているおおまかな争点」、「争点の背景とこれまでの議論の動向、将来への展望」はリストアップできているはずです。後は、この資料の中から、「担当国特有の政治理念・政策方針」と「担当国の国情に裏付けされた独自性のある政策案」に関するアイデアを思いの丈に任せて書き記すのみです。IDRにおいてどのようにアイデアを文言化させるかについては「IDRを書くにあたって」を参照していただけたらと思います。

リサーチは結構時間がかかるし、面倒です。リサーチを通して会議に臨めば、必ず「自分自身の声」を持った大使として活躍できるでしょう。そして何しろ、膨大なリサーチによって作り上げられたIDRに愛着を持つだろうから、絶対に議論に参加しよう、という気合いが入ってくると思います。リサーチの方法に関しては個人個人によって色々なやり方が存在するため、これが正解がどうかわかりませんが、筆者が4年間の模擬国連生活の中で培ったものとして参考の一つにでもしていただければ幸いです。


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