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高校模擬国連/ 会議準備におけるIdeal Draft Resolution(IDR)の書き方


はじめに

Ideal Draft Resolutionは会議の参加国によって作られるDraft Resolutionとは区別したものとして、会議準備において担当国の国益を最大限反映した理想的な(Ideal) 決議文書「案」と定義しています。模擬国連の事前リサーチにおいてIDR(Ideal Draft Resolution)の作成は最も重要なゴールである、と断言することにおそらく異論はないでしょう。というのも、当日の会議において多くの時間を占めるUnmoderated CaucusはDR(Draft Resolution)の作成に向けた議論が行われるからです。

模擬国連マニュアルによると、政策立案の基本的な構造は、①現状:問題の現状。特に現時点での問題意識。 ②理想:政策の目的。政策によって達成できること。 ③政策:自国からの提案、となっています。
「①現状」とは特定の事柄についての現在の状況、特に現時点で抱いている問題意識のこと。「現在〜のような問題がある」という問題認識が出発点となります。 「②理想」とはその問題が解決された状況のことであり、今後目指したい方向性を意味します。「将来的に〜になることが望ましい、〜に向けて取り組むべきだ」といった記し方になるでしょう。 「③政策」は現状から理想状態に変化させるために、具体的に行うべき手段。「〜する(ことで理想状態が実現する)」という形で、具体的な提案がなされます。

今回本補足文書ではこの①〜③の内容を文言レヴェルで書く場合のテンプレートを紹介します。本補足文書が「DR・IDR」という「型」に落とし込むために費やす読者の労力を可能な限り削ぎ落とし、担当国へのリサーチや政策案の研究といったブレインストーミングへの時間をより多く確保する一助になれば幸いです。


目次:IDR文言の種類


  1. 現状の確認・理念の設定(①現状・②理想/前文・主文)

  2. 支援(③政策/主文)

  3. 新たな国際制度、国際機関の設立、既存の国際制度、国際機関の改革・合併(③政策/主文)

1. 現状の確認・理念の設定
決議案では解決する必要があると担当国が考える国際問題に対応する具体的な「③政策」が主に主文に書き出されます。しかし、そもそもなぜその問題が本当に問題であるのか、さらにその問題の解決が担当国の掲げるビジョン(「②理想」)に如何に繋がるのか、といった議論の前提を示す必要があります。または、担当国の重視する理念を説明するために、個別具体的な問題(「①現状」)を前文または主文において再確認することもあります。どちらにせよ、「手段」としての「③政策」と同じくらいに、担当国のスタンスを簡潔に示し、議論の基礎を決定するものとしてこの「現状の確認・理念の設定」に関する文言は重要です。テンプレートとしては以下のようなものを参考として挙げられます。


  1. 〇〇であるという現状を克服し、〇〇な環境の実現/〇〇に対処する必要性を認識し、

  2. 〇〇であるという理念に基づき、〇〇を国際社会が協調して行う必要性を認識し、

  3. 〇〇の論点に関して、〇〇の対応/〇〇の理念を基軸にすることを確認/認識/強調し、

※「自国」のスタンスを体現した文言:「現状の確認・理念の設定」における文言では問題意識(「①現状」)が同じでも求める「②理想」が異なる場合と同じ場合が存在する。例えば、「気候変動という環境問題は防がなければならない」という文言があったとして、最初から反対する国は皆無であり、少なくとも自国のスタンスを示すものとしてはインパクトに欠ける。しかし、「気候変動を加速させる最大の要因である石炭や石油の消費・採掘は防がなければならない」とまで書くとこれに対して反対する国(中国やポーランドであろうか)が出現するという点で担当国のスタンスを明確にすることができる。自国益が最大化されたIDRを作る際には、一つの方法として「具体的問題に言及する/それによって利害の異なる国が出現する」ことを念頭に置くことで、担当国の政策上の指針を明確に打ち出した文言を書くことができる。

2. 加盟国への支援(経済的支援、技術的支援)
理想と現状が把握できたとして、解決に向けた行動を起こす時には「ヒト・モノ・カネ」の調達が不可欠になる場合があります。我々が勉強するにしても紙とペンが必要ですし、それを購入する費用やケースによっては教えてくれる人材が必要です。会社を起こすにしても運転資金や労働者、現代ならばパソコン1台は最低限必要でしょう。しかし同時に、それを政策案として書き出し、提案するということは自国だけでなく他国も様々な拠出を行うこととなります。その必要性を証明するためにはより詳細に支援の目的・内容・財源・プールの方法といった事項を書き記さなければなりません。


  1. 〇〇の活動において、〇〇の国に対して経済的支援を行うよう加盟国・国連機関等に要請し/経済支援を行う必要性を認識し、そして具体的に以下のことを定める。

    1. 経済支援の目的は〇〇である。

    2. 経済支援は〇〇を財源として行う。

    3. 支援の主体は〇〇である。(IMFや世界銀行といった国際機関による支援、多国間による自主的/強制的な支援、先進国による自主的/強制的な支援、etc)

    4. その他(資金の運用状態に関する先進国による監査、資金の拠出にあたっての注釈など)

  2. 〇〇の活動において、〇〇な国に対して技術的支援を行うよう加盟国・国連機関等に要請し/技術的支援を行う必要性を認識し、そして具体的に以下のことを定める。

    1. 技術的支援の目的は〇〇である。

    2. 支援するものは〇〇である。(科学関連の情報=モノ、人員派遣=人による支援なのか、またそれぞれどのようなものなのか)

    3. 支援の主体は〇〇である。(UNICEFなどの国連機関なのか、JICAなどの国家間支援なのか)

    4. その他(特筆すべき事項)

※火の車の国連:国連は財源が不足している。日本外務省によると、2022年の通常予算は31.2億ドルであり、ちなみに日本はその7.5%である約2.3億ドルを拠出している。1兆円にも満たない資金で内部で肥大化した数多の機関と共に世界中で発生する国際問題に対処する必要があるため、国連から資金を頂く際にはそもそも国連が「無い袖は振れぬ」状態にあるかもしれない点を留意しよう。
※「支援」の重み:一般に経済的支援や技術的支援は先進国から発展途上国へ実施されることが多い。そして、「支援」ではリターンを要求しないという意味で一方的な行為である。さて、先進国が途上国へ実施する支援の出所は、それが金銭的であれ、目に見えない技術的なものであれ、基本的に先進国の国民が生み出した財産である。国家は自国民のために適切に彼らの財産を分配することが最優先の責務である。だからこそ、先進国として「支援」を議論する際には、自国民の貴重な財産をそこに使う意味が本当に存在するのか、吟味するのが担当大使の責務であるし、途上国は、支援とはそのような他国民の財産を自国が消費する、という意味の重みを実感しながら説明責任を果たすことを求められるのではないだろうか。また、「ヒト・モノ・カネ」の融通は一方的な支援だけでなく、何かしらのリターンを目的とした「投資」や返済義務を課す「融資」など様々な形態が存在する。

3. 新たな国際制度、国際機関の設立、既存の国際制度、国際機関の改革・合併
支援に関わる文言と共に「③政策」案の一つとして議論されるのが「新たな国際制度、国際機関の設立、既存の国際制度、国際機関の改革・合併」です。国際連合憲章の目的と原則においても「国際の平和と安全を維持すること」「人民の同権および自決の原則の尊重に基礎をおいて諸国間の友好関係を発展させること」「経済的、社会的、文化的または人道的性質を有する国際問題を解決し、かつ人権および基本的自由の尊重を促進することについて協力すること」「これらの共通の目的を達成するにあたって諸国の行動を調和するための中心となること」と記されているので、いわゆる多国間協力制度の構築に関する政策案やその議論は最も模擬国連らしいものと言えるかもしれません。


  1. 〇〇という新たな国際機関/多国間制度を国連において設置することを決定し、以下の内容を定める

    1. この機関/多国間制度の目的/理念は〇〇である。

    2. この機関/多国間制度の役割は〇〇を行う/促進する/規制するetc…

    3. この機関/多国間制度は〇〇が加盟する(全国家か/一部か、任意か/強制か)

    4. この機関/多国間制度における決議方法は〇〇である(多数決/コンセンサス/3分の2etc…)

    5. その他(コストがかかるならばどれをどこから調達するか、具体的にどのような制度を作るのかについてなど)


※「協力」の背後に潜む利権:「多国間による協力制度」という言葉は裏を返せば一国だけでなく多国間が協力することで獲得できる莫大な利権がそこに潜んでいる場合が多々存在する。例えば、現在のUNFCCCのパリ協定6条市場メカニズムの条項は排出量の取引を通した経済的利権が多くの先進国・途上国を惹きつけることで成立した多国間制度であるし、COVID-19のパンデミックに伴い設置されたCOVAXも途上国の視点から注意深く観察すれば先進国の資金でワクチンの分配枠を獲得するためのある種の利益分配の制度と見なすことができよう。そもそも国際連合の前身、国際連盟設立の原動力となったウィルソンの平和14ヶ条の第1条には「講和の公開、秘密外交の廃止」とある。国連が国際協調の場であることを言い換えるならば、各国の利権の分配を公開された環境で議論する場と捉えることできる。

グローバルクラスルーム日本委員会『模擬国連マニュアル』2017年10月
国連広報センター(https://www.unic.or.jp/)2023年1月
日本外務省(https://www.mofa.go.jp/mofaj/)2023年1月


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