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新人薬剤師の壁〜知識と実態〜

いつもありがとうございます!山口竜太です。

薬剤師、ノンテクエヴァンジェリスト、イベンター、一児のパパなどしてます。
肩書きはメディカルアーティストです。
唯一無二の肩書きで、世界を変えたいとか言っています。

今回はガッツリの薬剤師ネタ!
さっそくいってみましょう!

新人薬剤師の壁

現場において、一番最先端の知識を持っているのは新人1年目であることが多い。
なにせ、つい最近まで学生で、大学で学んでいた。
大学は教育機関であり、そして研究機関だ。
新しい知見を常に追い求め、そして学生を育てる場所。
そこを出たてホヤホヤの学生は、最新の知識を持っている。
(場合にもよるけど、本来そうなはず)

実際、新薬とか「こんなん出たんや!」と先輩薬剤師が言っている横で「授業でこれやりました!」と言っている新人はいる。
私も、新人のとき先輩とそんな話しをよくした。

最新の知識を学びたてホヤホヤなのが新人ならば、最も現場で活躍できるのも新人か?となれば、それは明らかに違う。
何かが足らないわけだが、それは「経験」だろう。

ただ、経験と言っても「時間が経てばいい」ってはなしではない。

「経験」についてはこちらに書いているので参照してください。

新人が現場に出ても、もちろん最初は役に立たない。
そもそも、私は新人に「役に立つ」ということを求めていないので、それでいいわけで、んじゃ何を求めるかっていうと「成長」になる。

この成長するときに、新人薬剤師がぶち当たる壁がある。
それが「知識」と「実態」の間の壁だ。

ここでは、
知識=アカデミックなもの
実態=実践的なもの
と定義して話しを進める。

まず断っておくが、知識(アカデミックなもの)が現場に役に立たないと言っているわけではない。
むしろ、知識(薬学)こそが薬剤師の武器だし、それがないと薬剤師の仕事は何も務まらない。
「人としてできることがある!」と言う人もいるが、それはそうだよ、私もそう思う。それも絶対的に必要。今は「薬剤師」に注目して、「薬剤師だ」と名乗るなら薬学は不可欠条件になる。

話しを戻して、新人は間違いなく知識はある。
少なくとも、国家試験を合格足るだけの、薬剤師と名乗るだけの知識は有している。
しかし、現場で役に立たない(何回も言うけどそれでいい)のには「壁」があるからだ。


視点の壁

事例を1つ紹介する。


「先日、Aさんに抑肝散が新しく出たね。来週、Aさんのところに行くから、そのときに何を確認したいか考えてみて。」

在宅医療を実施しているAさん。
老人ホームに入居中。
最近、何やら叫ぶことがあると施設の方より相談があり、薬が追加された。

Rp)抑肝散 1包
  1日1回 夕食後 14日分

もともとの服用薬剤はアムロジピン(血圧降下剤)のみ。

抑肝散を7日間飲んだところで、Aさんの様子がどうなったか見に行くので、そこで薬剤師として何を確認したら良いか新人に考えてもらってみた。

新人「抑肝散が始まったので、それが効いているかいるかを確認します。」

うむ、確かに効果のほどは大切だがそれを薬剤師がする意義は?
Aさんは老人ホームにて、ヘルパーや看護師が日々状態を確認している。そもそも、抑肝散の服用目的も、Aさん本人に何か不都合なことがあるわけじゃなく、「叫んで困る」という施設スタッフの要望。であれば、施設スタッフはAさんに抑肝散が始まったことで、「叫ぶ」ことがどうなるか気にしているはずだ。効果が出るかどうかを一番気にしているのは、施設スタッフなのだ。
もちろん、薬剤師も効果を確認するのだが、同時に確認しなくてはならないことがある。

副作用の有無だ。

患者はもちろん、医師、看護師をはじめ、ほとんどの医療従事者は薬剤を効能・効果で捉える。
一方、薬剤師は効能・効果だけでなく、同時に副作用が頭に浮かぶ。
Aさんの場合、効果は施設スタッフが特に気にしているだろうから、効果確認はほどほどに、副作用の確認が大事になってくる。

学生のとき、私たち薬剤師は大学で、薬剤を薬理機序で学んでいく。
その薬剤が体内のどこで、どのように働き、どのような影響を与えるかという学問だ。
そこでは、実はあまり効能・効果、副作用という視点はなく、例えば、アムロジピンであれば、Caブロッカーとして学ぶ。
そこから考えを巡らせ、血管平滑筋のCaチャネルを遮断するのだから、血圧は下がるし、反射で脈拍が速く(頻脈)なるよなって考えるのであって、効能・効果これ、副作用はこれと学ばない。
(もっと言えば効能・効果、副作用、有害作用と分類があり、副作用は有害作用ではないので、必ずしも悪いものではないのだが、この話はまた別に。)

学生は、実務実習や国家試験勉強で、実務科目として効能・効果、副作用という視点に触れ始めるが、やはり薬理が中心。
そのため、効能・効果と副作用がごちゃごちゃに頭に出てしまう。

これがまず、視点としての壁

知識として、もちろん効能・効果、副作用は知っているが、その視点を使い分けて、また整理、順序立てて活用できない。
どういった目的(効能・効果)があって、どんなリスク(副作用)があるのかを、知識だけで持つのではなく、実務に活用していけるようになるのが、視点の壁だ。


使い方の壁

ここまでの話を新人に話すと、もちろん、知識はあるので副作用の視点を持つことができる。

新人「抑肝散の副作用として、柴胡による間質性肺炎と甘草による偽アルドステロン症があります。」
私「そうだね。ではその2つが起こっているかどうか、どうやって確認する?」
新人「えっと、、、間質性肺炎は胸の音を聞きます。偽アルドステロン症は、血液中のカリウムの値を確認できれば、、、」
私「いやいや、あなた採血するの?笑 ほんでどうやって測定するの?笑」
新人「あ、そうですよね、、、」

となってしまった。

偽アルドステロン症は彼の言う通り、血液中のカリウム値が低下してしまうので、カリウムの値を確認できればわかりやすい。だが、薬剤師は採血を許されていないし、そもそもやり方を学んでいない。
採血したとして、どうやって計測するのか?

間質性肺炎で胸の音を聴こうとするのは良かった。音の特徴も知っていた。直近で、肺音の聴診方法を教えていたのを、活用できていた。

で、偽アルドステロン症をどうするか?

採血をしてどうのこうのができないので、バイタルサインで確認する必要がある。

私「偽アルドステロン症でどんな症状が出る?」
新人「えっと、、、」
私「カリウムが下がるんだから、それで起きそうなことは?」
新人「脈がおかしくなります。あと、浮腫も出てくる、倦怠感、脱力感が出たりもします。」
私「そうだね、採血ができなくても、確認できることはたくさんある。それらの情報を集めて、統合させて判断していこう。」

ここまでのやり取りでお気づきだろうか?
私は一つとして、知識の補完をしていない。
全て彼自身がすでに持っている知識。
ただ、それの使い方を知らない、身に付けられていないだけ。

これが使い方の壁

すでの持っている武器(知識)を、どう使えばいいのかがわかっていない状態。


まとめ

大学で学んできた武器(知識)を、目的(効能・効果)とリスク(副作用)の視点に分けて、それをどう使うのか。

この壁を越えていければ、患者のためにより良い薬物療法を届けることができるようになっていくはず。

諦めず、挫けず、いや躓いてもいいから、一歩一歩前に進んでいってくれたらと思う。

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