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死んでないだけだった僕へ

「生きていればいいことある」なんて言葉をかけても、きっと貴方は聞く耳を持たないでしょう。ええ、いいことがあるなんて、あった後にしかわかりません。たとえ僕が貴方の少し先の未来を生きていて、たくさんのいいことに囲まれていたとしても、貴方にはなんら実感がわかないでしょう。だから代わりに、貴方にも分かるように、今の貴方について僕が思っていることを書き記します。

はじめにはっきり言っておきますが、貴方の今の生活は最悪です。ゴミはあたり一面に転がっているわ、LINEは返さないわ。嘘をつくから、その嘘を隠すためにまた嘘を繰り返して、それで勝手に苛まれて、正直僕でも擁護できません。そうやって1人で悩んで堂々巡りになってるなら、早いところ家族にでも正直に現状と気持ちを打ち明けるべきです。全てを知ってもなお、助けようとしてくれるのが貴方の家族です。変にまだ自分でなんとかしないといけないなんて意地を張ろうとしないほうがいいです。それぐらい自分1人では取り返しがつかないところにいます。

そういえば貴方は、自分の人生はトータルでマイナスで、これ以上マイナスにならないように早いところいなくなったほうがいいなんて考えていましたよね。まあ正直、僕も貴方なので、この考えが分からなくもないのですが、少なくとも今の時点でトータルでマイナスなのかは、考えてもいいと思います。好きですよね、こういう議論。

貴方が言うように、最近の貴方は失敗続きです。人付き合いを蔑ろにするわ、学校に行かないわ。確かに、このまま過ごしていれば、きっとトータルでマイナスになる地点がくるでしょう。家族にも迷惑がかかるでしょう。生きるのにも維持費がかかる、でしたっけ。そういう文脈で人を機械に例えるのは感心しませんよ。

ただ、同時に貴方を頼る人がいる可能性は考えましたか。ちゃんと周りを見ましたか。バイト先の生徒さんの顔は思い浮かべましたか。そうそう、実は僕は、東京を離れるときに生徒さんからお手紙をもらってるんですよ。羨ましいですよね。どうしても見たかったら、2年後に机の2段目の引き出しを開けてみるといいですよ。ええ、冗談です。

つまるところ、貴方は視野がせまいのです。就活の時にも言われたから、耳が痛いと思いますが、自覚はしていますよね。貴方はどうしても、自分だけの視点でものを考えてしまう。そもそも、トータルでマイナスだったら意味がないだとか、マイナスになったらもう落ちるだけだとか、本当に正しいんですか。きっと人生いくらでも逆転できるものですよ。ああ、今の僕には貴方の気持ちが分からないから、ついついこういうことを言ってしまうのですが、いくらでも逆転できるっていうのは、流石にまだ実感がわきませんよね。ぽかんとされてたらごめんなさい。

貴方は今の自分の状態を失敗と思っているかもしれませんが、本当にそうでしょうか。確かに、貴方は学校に行っていないし、ネタばらしをすると、次に行く時は退学手続きをする時です。えっ、と思いましたか。それともやっぱりね、ですか。

貴方はどこか自分にできなかったことばかりをみていますが、100%成功なんてものは本当に稀なことです。貴方はちゃんと卒業して、就職してみたいなものが成功で、それ以外は失敗と思っているかもしれませんが、例えば入学したけど卒業できなかったっていうのは何%の成功なのかと考えてみたことはありますか。もちろん、100%の成功ではないでしょうが、30%でも、10%でも、貴方の人生にとっては大事な成功なのです。ものは言いよう、なんて思っているかもしれませんが、こうやって少しは別の視点から物事を考えてみるのも思考力を高めるトレーニングになりますよ。

少なくとも僕は、退学したことを100%失敗だとは思わなくなりました。やっぱり時々後悔をすることはありますが、でも今の僕はそれを補って余りあるほどいいことに囲まれています。どんな生活をしているかは、これから貴方が自分の足で歩いて、自分の目で確かめるはずなので言いません。ただ、こんな言い方をするのもなんですが、貴方がそうやって悩んだからこそ、辿り着いた幸せです。退学しなかったら、今の僕はいません。もちろん、貴方がこの手紙を読んで恐ろしくなって奮起して、晴れて卒業できたとしたら、僕が見たものとは違っても、幸せには辿り着くでしょう。ええ、結局のところ、今の貴方の生活に意味を与えるのは、貴方自身なのです。0%か、10%か、それ以上の成功にするかは、貴方が決めていいのです。もともと最悪の状態だったじゃないですか。それが仮に10%でも成功だと言えるのだとしたら、そう努力できたのだとしたら、それはもう十分に快挙です。

きっと最後の方は、また実感のわかない話だったと思います。幸せとか考える余裕もなければ、今の貴方にとって成功なんて最も縁遠い言葉でしょう。それでいいのです。これから僕と同じような経験を重ねながら、少しずつ言葉に実感が伴っていくのです。僕が貴方に伝えたかったのは、貴方にもそういう未来があるということ。ええ、貴方が望むように、僕はちゃんと幸せです。

追伸:決して届くはずのない手紙が、「貴方」と同じ貴方に届くことを願って。

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