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フェスティバルホールで最高の音を浴びた件

2021年8月某日、とある猛暑日、大阪・フェスティバルホールで「弾き語りライブ」を観た。広い舞台上にはアーティストが一人、歌とアコースティックギターの音だけで2700人のお客さん一人一人と向き合っていた。そのアーティストが奏でる音楽が最高で素晴らしいことは間違いないのだが、フェスティバルホールという空間がその素晴らしさを増幅させ、「多幸感」というシャワーが頭上から降り注がれるような音の響きに何度も身震いした。潔すぎるライブを披露してくれたアーティストに大きな拍手を送ると共に、改めてフェスティバルホールの凄さを肌で感じる貴重な経験となった。

フェスティバルホールは日本が高度経済成長に差し掛かったばかりの1958年に新朝日ビルディング内にオープン。豪華な内装と音響特製に優れ、クラシックはもちろん、ロックなどのポピュラー音楽やジャズ・能・狂言など様々なジャンルのアーティストから愛されたコンサートホールである。当時は世界有数のコンサートホールと謳われるほどであり、1970年には日本万国博覧会のクラシック音楽公演会場として映画祭や能楽も含め会期中103公演が行われ、延べ19万人余りの観客を集めた。しかし、老朽化により50周年を迎えた2008年いっぱいで一時閉館し、2012年に高層ビルとして建設された中之島フェスティバルタワー内に二代目ホールとして開館した。

自分が音楽業界に入りたての約15年前頃、改築前の初代フェスティバルホールには何度かお仕事で入らせていただいた経験があり、高橋真梨子さんのコンサートや、SpitzのAlbum「スーベニア」リリース後のツアーは今でもはっきりと自身の記憶に残る体験となっている。ステージに向かって横方向に楕円形に広がる客席はどの位置からでもステージを観やすく、アーティストとお客さんのエネルギーが自然とホールの中央に集まるような一体感は他のホールでは味わえない独特の感覚だった。そして、ホールの持つ音響はさらに独特で、歌謡曲でもロックでもなんとも言えない柔らかい響きで耳から身体に伝わってくるのである。もちろんPAエンジニアの技術の賜物でもあると思うのだが、フェスティバルホールでは明らかに他のホールでは聴くことのできない特殊な音の鳴り方を楽しむことができた。

二代目ホールになってからも数回お仕事で訪れたことはあるが、なかなか集中してコンサートを観れる機会が少なかった。しかし今年の夏、アーティストにとって究極のスタイルである「弾き語りライブ」をフェスティバルホールで観れる機会が巡ってきた。そのアーティストとは「あいみょん」である。彼女がインディーズ時代に梅田の路上でストリートライブを行ってきた頃から変わらない弾き語りスタイル。歌とアコースティックギターさえあれば、あいみょんという人物の持つ凄さが全て伝わる真骨頂ともいえるスタイル。ここではライブの内容を多く語ることはできないのでご想像にお任せさせていただくが、現在、コロナウィルス感染拡大の影響により「歓声を出せないライブ」が主流となる中、お客さんが演者に対して表現できる唯一のリアクションである拍手までもフェスティバルホールは美しく鳴らしてしまうのである。お客さんの拍手が立体的に響き、多幸感シャワーとなって頭上から降り注ぐ空間にいると、「歓声が出せない」というネガティブ要素なんて少しも感じなくなり、むしろこの美しい拍手の音をずっと浴びていたくなった。

日本国内には様々なコンサートホールがあり、その全てに個性があり独特の良さを兼ね備えていると思う。その中でも唯一無二の体験ができる大阪・フェスティバルホールは、由緒があり豪華絢爛でなかなか敷居の高いイメージもあるが、ここでしか体験できないものがあることは間違いないと思う。往年のレジェンドアーティスト達もその素晴らしさを認めるコンサートの殿堂で、若手アーティストがコンサート開催を目指したり、若いお客さんが少し背伸びをしながら本物の音楽体験を求めて訪れるような、そんな音楽文化が大阪で築かれていくために自身ができることを考えさせられる1日だった。

※今回の記事でも触れている「弾き語り」については、2021年3月に以下のようなnoteを書かせていただきました。よろしければこちらも是非。


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