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【詩】 木

塾の帰り、雨が降ってきた
傘をもっていなかった僕は
バスを待つあいだ
街路樹の下で雨宿りをした

その木は
いつもは気にしたことなんてなかった
どんな種類でどんな名前なのかすら知らなかった
足早に過ぎていく日常の、景色のひとつでしかなかった

雨が葉っぱをたたいて頭上でぱたぱたと音がする
木はその間も僕に無関係そうに立っていた
僕はそこで唐突に悟った

僕には価値がない
生きる意味もない
けれど生きている
だから自由なんだと

木はいつも
木としてそこに立っていた
地面には石ころがころがり
その下にはたくさんの虫がいる
そのどれもが僕の名前を知らない
人は人のルールに縛られているだけだと

きっといつかはこの悟りも忘れ
僕は社会に飲まれていくだろう
けれどこの時だけは
気象現象としての水滴が静かに
降り注ぐのを見つめていた・・・

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