キャバクラ日記⑤
センチメンタルなことを書いてしまうかもしれない。今日一日ずっと感傷に浸っていた。
前に指名した子に、キャバクラはもう卒業したいと告げると、最後に直接会ってお別れを言いたいと言われた。これも営業のためだったら恐ろしいけど、そんな悪い子にも賢い子にも見えなかったし、俺も結構その子に恋をしていて会いたかったので、ほんとに最後のつもりで、ちょうど浴衣のイベントがやっていたのでその日に会いに行った。
行くまでのラインのやり取りでも、いくつか気になることがあった。まず、最初に約束していた日の当日に、声がかれているからといって次の日に変えられないかと打診された。別に不都合はなかったので、了承した。
それから、終電で帰るか、そうだとしたら、何時に帰るか、を訊かれた。それに答えると、割と早い時間を指定された。遅い時間に他の客の指名が入りそうだったのかもしれない。だけど、少しでも長い時間居させようとする計算だったようにも思えてしまう。
もしそうだとして、本当に気になるのは、その動機だ。俺も長い時間居たいから、だったら、別に嫌じゃない。むしろ嬉しい。だけど、売上のためだったりしたら、ほんとに悲しいなと思う。そんな子には見えなかったのだが。
さらに、指定された時間に行くと、彼女はまだ出勤していなかった。早目の時間を指定してきたのに、来てなくてさすがに少し腹がたった。
ヘルプの女の子と、2〜30分話した。人見知りだそうで、最初は警戒している様子だったけどだんだん打ち解けてきた。
アニメの話や、部活の話や、出身地の話や、恋愛の話をした。あと、高校の時の部活のマネージャーに似ている嬢がいて、そんな話をした。
同い年の子で、CAの専門学校を卒業してから、コロナで就職できずに、看護学校に入り直したらしい。そういえば航空業界は特にコロナの打撃が大きかったみたいなことが、当時ニュースになっていた気がする。
ヘルプで店のルールとかシステムがよくわかっていないのか知らないけど、初めて隣じゃなくて対面の席に座られて、結構冷めた。隣り合わせで話したかった。でも、それなりに打ち解けられた実感はした。
それからやっと指名の彼女が白い浴衣姿で現れた。可愛かったけど、正直もっと鮮やかな色のイメージだったので、少し期待外れだった。
なんだか緊張して、前ほどうまく話せなかった気がする。予定を何度も変更されたのが引っかかっていたのかもしれない。
ムードをよくしたくて、可愛いをやたら連呼してしまった。それでも彼女はそのたびに喜んで見せてくれた。どうにもやっぱり素直でいい子に見える。
顔を近づけて見つめ合っても、どうにも言葉が出てこない。高校の時の恋の記憶が蘇る。相手のことを先に理解しようという黄金律の原則が内面から欠けて、自意識過剰の状態に陥っていたのだと思う。
ヘルプの子に話した、高校時代のマネージャーに似た嬢の子のことを話してたけど、よく見ると違う子で、そんな話を面白そうに聞いてくれた。他の嬢の子の話をするときの目も、友好的な感じで安心した。 女の子同士でバチバチに争っている感じが苦手であまり見たくない。好きな子ならなおさら。
最後なんだしここに書いてあることぐらいほんとの気持ちをぶつけたかったんだけど無理だった。
今、モテたくて、マッチングアプリとかを本腰入れてやろうとしてるけど、本当の理想は、恋している相手に自分の気持ちを受け入れてもらって、愛されることなのかもしれない。
帰り際に、「私のことを忘れないでね」と言われた。「でも忘れないと」とか言うと、「思い出に残るぐらいいいじゃないか」と言われた。本当に求められていた気がして、嬉しかった。彼女に言われた言葉の中で一番信じたい言葉かもしれない。
昨日店に行って、次の日の夜にこの文章を書いているけど、彼女から連絡はない。もしかしたら、最後にする決断をした俺への彼女なりの親切心なのかもしれないとか考えると、やっぱりどうにも愛慕の気持ちを感じる。
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