「嘘と政治 ポスト真実とアーレントの思想」 (書評:松岡さん

以下、書評を読書会メンバーの松岡さんからいただきました。
松岡さんに変わって八木が掲載いたします。

 安倍政権以降、公文書の書き換えや国会での数々の嘘にモヤモヤし続け、政治に対しては諦めしかないのですが、岸田政権でのマイナ保険証義務化や原発回帰、防衛費倍増計画など、ほっといたらどこまで行くのか恐ろしくもなって、改めて政治について考えようと手に取った一冊。  
 著者は、ハンナ・アーレントの著作を読み解きながら、政治家の嘘によって、異なる意見を持つ同士が議論ができる基盤となるはずの「共通世界」がいかに壊されてしまうのかについて考察していきます。リベラルとネトウヨはそれぞれの島宇宙で似た考えのもの同士が議論するだけで、まるで別の世界、パラレルワールドのよう。土台となる「共通世界」が壊れてしまっているわけです。それを再構築するのは容易なことではないのですが、とにかくそこから始めるしかないというのが筆者の結論です。ではどうすればよいのか。答えはないのですが、ヒントとして筆者がアーレントとの関連から、ソクラテス的な対話や、レッシングの考え方を挙げています。道は遠い。  
 アーレントの議論について理解がなかなか追いつかないながらも、トランプ以降のポスト真実や安倍政権下での実例、それについてのアクチュアルな論も紹介されていて、最後まで読み通せました。挙げている参考文献も読んでみたいものが多いです。政治家の嘘によって共通世界が壊れた果ては、例えばオーウェルの「1984」の世界ですが、読みかけで放置していたハックスレー「すばらしき新世界」も改めて読もうと思った次第です。

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