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櫻坂46「無言の宇宙」の考察ー宇宙物理学の観点から

楽曲の歌詞に対する印象や感想といった感じ方は、人それぞれあってよいと思う。だからこそ、自分なりの感じ方を自分なりの言葉にまとめて他者に発表するという機会は、妨げられてはならないし、広く与えられた方がよいと思う。

「無言の宇宙」は、櫻坂46の3rdシングル『流れ弾』のType-Dに収録されたカップリング曲の1つである。渡邉理佐さんの初センター楽曲である。もし、聴いたことがなければ(あるいは、あらためて聴きたくなったならば)、ぜひ聴いてみてほしい。

さて、この「無言の宇宙」に対する考察は、後述の参考サイトにあるように様々なされているが、登場人物の心情描写や哲学・思想論、MVなどに注目したものばかりである。ここでは、表題の通り、宇宙物理学の観点から考察することで、この楽曲に対する新たな解釈を提供したい。以下に記載した歌詞は、いずれもMVのYouTubeページの概要欄から引用した。


序盤

惑星形成論

僕たちは なぜここで見つめ合っているのかって
不思議なことだと今 改めて思ったかもしれない
Can’t explain  This feeling
偶然に弄ばれて・・・ 「理屈じゃないんだ」

宇宙において見つめ合っているものとして、共通重心の周りを公転する連星系惑星系、衛星系といった星系が思い浮かぶ。この楽曲の登場人物である「僕」と「君」は、衛星系を形成していると推測される。地球と月をイメージするとわかりやすい。たとえば、このサイトに記載されているように、月は、ジャイアント・インパクトと呼ばれる巨大天体衝突によって形成されたという説が有力である。

天体衝突は、太陽系形成初期(つまり、地球と月の形成初期)においては、頻繁に発生していた現象であるが、ある程度の大きさまで地球が成長した後には、そう簡単には巨大な天体衝突が発生しない。また、巨大な天体衝突が発生したとしても、天体質量や衝突速度、衝突角度などの条件がうまく合わさっていないと、月のような衛星が形成されない。現在の人間の感覚(あるいは、現在の地球と月の感覚)からすると、地球の周りを月が公転していることは、当然のことのように思えるだろう。ただ、あらためて考えてみると、「不思議なこと」だと思えるかもしれない。そして、それは上述の通り、偶然にも様々な条件が合わさって実現したのである。理屈で簡単に説明できるものではないのである。

相対性理論

広い世界には多くの人がいるのに 同じ時間を共有するなんて
それを奇跡で片付けちゃうのは もったいない勘違い
運命以上の行き過ぎた感情
なぜだろう なぜだろう
言葉なんかいらないって初めて気づいた

物理学者Albert Einsteinは、光速不変の原理と物理法則の相対性を基にして、特殊相対性理論を構築した。そして、この特殊相対性理論によると、Lorentz変換

$$
x'
= \dfrac{x-Vt}{\sqrt{1-\dfrac{V^{2}}{c^{2}}}} ,~~~~
t'
= \dfrac{t - \dfrac{Vx}{c^{2}}}{\sqrt{1-\dfrac{V^{2}}{c^{2}}}}
$$

が成立し、運動速度$${V}$$が光速度$${c}$$に対して十分大きいとき、時間$${t ,t'}$$は、等しくならないということがわかる。つまり、特殊相対論的に同じ時間を共有する($${t=t'}$$)ためには、相対的な運動速度が光速度$${c}$$に対して十分小さくなければならない。

また、一般相対性理論によると、重力は、時空を歪ませると説明されている。この時空の歪みによって、時間の進みが変化する。つまり、一般相対論的に同じ時間を共有するためには、同等の重力場中に存在していなければならない。相対性理論については、考え方の流れを捉えるために、この文献を読んでみるとよいかもしれない。

さらに、光速度$${c}$$が有限の速度をもつことから、十分遠くに存在する二者においては、時間$${t,t'}$$が等しかったとしても、一方の動きが他方に伝わるまで有限の時間を要することになる。さらに、十分遠くに存在すると、二者の間で宇宙膨張の影響を無視することができず、宇宙論的時間の遅れが無視できなくなる。つまり、同じ時間を共有するためには、二者が十分近くに存在していなければならない。

以上をまとめると、時間を共有するということは、相対速度が光速度に対して十分小さく、重力的に同等で、光速度に対して十分近くに存在することが必要となる。これを奇跡で片付けるのはもったいない気がする。

惑星の熱進化

愛を少しでも語り始めてしまったら
“愛してる” その真剣な気持ちは心から漏れて行くものだ
知らぬうち 熱が逃げちゃうように もうお互いに感じなくなる

たとえば地球は、形成初期には微惑星衝突による重力エネルギー解放によって高温化していた。時間経過とともに、その熱が宇宙空間へと逃げていき、現在の地球表層は、生命が生存しやすい温度まで冷却された。地球表層は、涼しい状態で保たれているが、地球内部は今もまだ熱い。そして、その内部の熱は、今もゆっくりと宇宙空間へと逃げつつある。しかし、地球内部の熱は、宇宙空間へと逃げているばかりではない。地球マントルは、マントル中の放射性物質の崩壊熱によって微かに加熱されており、形成初期の熱が逃げているばかりではない。マントル外側半径$${r_{\mathrm{m}}}$$、マントル内側半径$${r_{\mathrm{c}}}$$、マントル比熱容量$${\rho c}$$、熱流量$${q~ \mathrm{[W~m^{-2}]}}$$、放射性物質の崩壊熱$${Q~ \mathrm{[W~m^{-3}]}}$$、マントル温度$${T}$$とすると、

$$
\dfrac{4 \pi}{3} ( r_{\mathrm{m}}^{3} - r_{\mathrm{c}}^{3} ) \rho c \cdot \dfrac{dT}{dt}
= - 4 \pi r_{\mathrm{m}}^{2} q + \dfrac{4 \pi}{3} ( r_{\mathrm{m}}^{3} - r_{\mathrm{c}}^{3} ) Q
$$

という微分方程式が成り立つ。これを解くと、地球内部から熱が逃げて冷却していく様子がわかる。ただし、崩壊熱$${Q}$$が十分大きいと、地球内部が冷却されず、加熱されていく可能性もある。

また、考え方によっては、連星系における白色矮星の冷却過程と考えることもできる。白色矮星の周辺に磁場が存在すると、冷却が抑制されることがわかっている。磁場は、白色矮星内部の物質が対流運動することによって発生する。つまり、自身の心の中で愛をめぐらせることができれば、真剣な気持ちが心から漏れていくことも抑えることができるかもしれないということを意味していると解釈することも可能である。

ところで、「知らぬうち 熱が逃げちゃうように」が「知らぬ 地熱が逃げちゃうように」に聴こえることがあった。

科学の意義

客観的になって ものを見るからだろう
大切なものが なぜ大切なのか 考えたって何になる?
僕は(僕は)君を(君を) 理由なく好きだ

自然科学においては、実証性と客観性、再現性が必要であると考えられている。一方で、「大切なもの」というのは、客観的な概念ではなく、主観的な概念であるといえる。必ずしも、自然科学の手段を用いて客観的に「大切なもの」を考えることは、最適であるとはいえないかもしれない。

中盤

公転運動

もしここで どちらかが視界から消えたとしたって
どんな行動起こすか?想像してみればわかるよ
What’s on your mind?  I wanna know
何時間も待ってるだろう 「必ず 帰って来る」
他の場所なんか この世にあるわけない
探したりせず暇を潰してる
僕たちは永遠のその長さを持て余しはしない

共通重心の周りを公転している。球体のある面から見ると、いずれ相手の天体は見えなくなるが、公転しているので、しばらくすれば戻ってくる。そして、この公転運動は、運動方程式

$$
m \ddot{\bm{r}}
= \bm{F}
$$

に万有引力を導入することで2体問題として理解し、計算によって完全に求めることができる。だからこそ、「必ず 帰って来る」ことが予測できる。

万有引力

唯一の真実 あやふやな関係
無駄なこと 無駄なこと
口になんか出さなくたって想いは通じる

万有引力によって引き合っているという、ただそれだけが「唯一の真実」である。万有引力は、物理学における力の中では弱い方である。太陽や木星といった他の大きな天体からの万有引力や天体衝突などによって、簡単に崩れてしまう可能性がある。それほど「あやふやな関係」である。

Newton力学における万有引力

$$
F_{\mathrm{gravitation}} = G \dfrac{m_1m_2}{r^2}
$$

である。たとえば、地球と月の関係を考えると、地球質量$${ m_1=6\times{10}^{24}\ \left[\mathrm{kg}\right] }$$ 、月質量 $${m_2=7\times{10}^{22}\ \left[\mathrm{kg}\right]}$$ 、距離 $${r=3.8\times{10}^8\ \left[\mathrm{m}\right]}$$ 、万有引力定数 $${G=6.67\times{10}^{-11}\ \left[\mathrm{m}^\mathrm{3}\ \mathrm{s}^{\mathrm{-2}}\mathrm{\ k} \mathrm{g}^{\mathrm{-1}}\right]}$$ であるから、

$$
F_{\mathrm{gravitation}} = 7 \times 10^{20}  [\mathrm{N}]
$$

となる。また、月半径$${r_{\mathrm{Moon}}}$$であるから、地球と月の間の万有引力を月の投影面積で割って得られる圧力

$$
P_{\mathrm{M-g}}
= \dfrac{F_{\mathrm{gravitation}}}{\pi r_{\mathrm{Moon}}^{2}}
= 80  [\mathrm{MPa}]
$$

となる。たとえば、法令によると高圧ガス容器に充填できる最高充填圧力 $${14.7  \mathrm{MPa}}$$ であるから、月サイズの機械を製作できれば、月が地球に落ちてくることがあっても押し返すことができそうである。意外と万有引力は弱いということがわかった。

天体観測

誰かに何かを打ち明けようとするより 黙ったままでいた方がいい
表情の中の宇宙には意味を持って輝く星がある
その光を読み取って欲しくて・・・

宇宙空間で輝く星の特徴を読み取るためには、天体観測をする必要がある。天体観測では、天体が発する様々な波長の電磁波を観測機器によって受け取る。そして、受け取った電磁波を解析することで、その電磁波を発した天体の特徴を読み取ることができる。

Stefan-Boltzmannの法則

情熱的に何度 アプローチされても 動かぬものは動かないだろう
話さなくていいんだ
君が(君が)僕を(僕を) 理解する日まで

黒体輻射の specific intensity:

$$
B_{\lambda}(T)
= \dfrac{2h c^{2}}{\lambda^{5}} \cdot \dfrac{1}{\exp (h \nu / \lambda kT) - 1}
$$

を全振動数で積分した量を全黒体輻射強度$${B(T)}$$という。ここで、$${x = h \nu / kT}$$とおくと、全黒体輻射強度

$$
B(T)
= \int_{0}^{\infty} \mathrm{d} \nu  B_{\nu}(T)
= \dfrac{2 \pi^{4} k^{4}}{15 c^{2} h^{3}} T^{4}   \mathrm{[erg  cm^{-2}  s^{-1}  Sr^{-1}]}
$$

となる。ここで、Stefan-Boltzmann定数

$$
\sigma
= \dfrac{2 \pi^{4} k^{4}}{15 c^{2} h^{3}}
$$

とおくと、

$$
B(T)
= \sigma T^{4} \propto T^{4}
$$

となり、全黒体輻射強度$${B(T)}$$が$${T^{4}}$$に比例することがわかる。
この比例関係をStefan-Boltzmannの法則という。

このStefan-Boltzmannの法則を利用することで、観測された電磁波から、その電磁波を発する天体の表面温度を推定することが可能となる。相手が動かなくても、話さなくても、ただ「その光」を読み取ることで、理解することができるということである。

終盤

Do you feel it? In your senses
I know your voice I know your touch
言語化しなくたって 全て伝わるんだ

輻射輸送

言葉の多さが邪魔をする
会話なんて最小限で恋人たちはいつも
ただ見つめ合うだけ 静寂は美しい
音が消えた世界は愛の脈が打ち続ける鼓動が響く
瞼を閉じろ!

言葉が多いと、本当に伝えたいことが伝わらない。言葉は、2人の間を漂う。つまり、言葉が宇宙空間におけるガスやダストであると解釈すると、「静寂は美しい」とはガスやダストが少なく、透き通った状態を指すと理解できる。このような状態では、光の吸収・散乱が少なく、光が伝播しやすい。こうして、透き通った状態では、とても観測がしやすくなり、最小限、見つめあうだけであっても伝わるようになる。

また、真空では音が伝わらない。「音が消えた世界」とは、真空の空間を指していると解釈できる。宇宙空間には物質がほとんど存在せず、ほぼ真空である。そのため、音波が伝わることはないが、上述のような電磁波は伝わる。他にも、宇宙空間では重力波が伝わる。Einsteinの一般相対性理論によると、質量をもった物体は時空の歪みを生み、その物体が運動することで、この時空の歪みが波のように伝わっていく。この波が重力波であり、「愛の脈」による「鼓動」であると解釈することができる。

これまで扱ってきた電磁波だけでなく、宇宙空間では、重力波も伝わっているということである。そして、それら両方が相手と自身の存在をお互いに認識するための要素となりうる。

客観的な考察の限界

愛を少しでも語り始めてしまったら
“愛してる” その真剣な気持ちは心から漏れて行くものだ
知らぬうち 熱が逃げちゃうように もうお互いに感じなくなる
客観的になって ものを見るからだろう
大切なものが なぜ大切なのか 考えたって何になる?
僕は(僕は)君を(君を) 理由なく好きだ

科学者の客観的な考察とは無関係に、2人は現実として見つめ合っている。
結局、客観的になって考えても意味がない。この世界は、自然の物理法則に支配されているが、愛し合う2人の関係や存在は、物理法則では必ずしも説明できない。そういった局所的な特異性こそが、愛し合う2人の存在を決定づける代替不可能な絶対的条件といえるだろう。

参考サイト

『流れ弾』Special Site

歌詞・MVの考察

写真集

Official Website

サムネイル画像は、モデルプレスの記事より引用した。背景の宇宙には、青色の天体が多く、若くて活動的な星団あるいは銀河が存在していると考えられる。また、理佐さんの左手側でひときわ輝く天体は、超新星だろうか。

最後に

このダイジェスト映像を見て、

この映像作品を購入すると、幸せになれます。

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動け!タイムライン

動物園か水族館にいきたいですね。