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長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』(早川書房)【読書メモ】

 ※ネタバレには注意しますが、未読の方はご注意を。

 読み終わってからすこし時間が経っている。実はこちらに感想を書くかどうか迷っていた。つまらなかったわけじゃない。逆に、後半こんなにも心揺さぶられたの、ってすごい久し振りだ、と思うほどの強烈な読書体験があった。でもそこへ至るまでの生々しさ、護堂恒明の現状に心を重ねて息苦しくなる感覚、あまりのつらさに読み進めることを拒もうとする自分がいることにも気付いていた。ただそれは作品に絶対必要なものであり、どこまでも真に迫っているからこそのつらさだとも知っている。そしてだからこそ、結末の様々なシーンに目頭が熱くなるのだろう。

 まさか手に取った時はこんな展開になるなんて予想も……いや実は事前情報があり、すこしだけ知ってはいて、ただここまでその展開が生々しさを孕んでいるとは考えていなかったのだ。読む楽しみは奪えないので、すごく曖昧な表現になるが、本作は事故によってAI義肢を装着することになったダンサーの再生の物語であり、〈失われゆく〉家族の物語でもある。2050年を舞台にしながら、そこには身近で、まったく他人事にはできないひとりの生が描かれている。SFでしか描けない〈人間〉と言うと、すごくチープに聞こえてしまうかもしれませんし、必ずしもそんなものがいるなどとは欠片も思いませんが、ただもしひとつの作品にそういうものを宿したいと思い、宿してしまったとしたら、こういう強烈な生々しさは必然なのかもしれないな、などと何やらそんな風に思ってしまいました。何かすごい作品を読みたい、という方にお薦めです。