折原一『グッドナイト』(光文社)【読書メモ】

 ※ネタバレには配慮しますが、未読の方はご注意を。

 眠れない、眠れない。そんな日が続いている。苦しい気持ちを逆撫でするように、隣の部屋から聞こえてくるのは、隣の部屋の生活音。我慢しようとすればするほど、余計に気になって眠れなくなってきて、心はささくれ立っていく。

 ということで、今回紹介するのは、「メゾン・ソレイユ」という古びた三階建てのアパートを舞台にした連作集『グッドナイト』です。短編同士がリンクして、ひとつの大きな物語になっていく作品なので、長編と言っても差し支えはない、と思います。ひとつひとつの短編は、独立した短編としてもじゅうぶんにそれぞれ驚きがあって面白いものになっています。多少リンクの度合いが強いので、バラバラに読んでも大丈夫とは言えませんが、繋げて長編にするためだけの短編になっていないのが、嬉しいです。メインとなるのが、作家だったり作家志望者だったりで、多くのひとにとって身近な職業ではないものですが、騒音や不眠に苦しむ姿というのは、多くのひとにとっては、結構馴染み深いものでもあるんじゃないかな、と思います。だからおのれの身にどこか重ねやすくて、そしてその重ねた相手がどこに連れて行かれるのか分からない恐怖。

 一寸先は闇。ミステリの何に魅力を感じるかなんて、ひとそれぞれですが、これからどうなるか分からない、読者の予想を裏切る展開、というのはミステリの魅力のひとつで、作者をすでに知っているひとにとっては言わずもがな、な話ですが、本作も折原一の他の作品同様、その部分に強烈な輝きのある作品になっています。個人的には、「ドクロの枕」と「見ざるの部屋」の物語のリンクの仕方が好きでした。そしてラストも最後まで安心できず、物語が二転三転して、夜に読んでいたので、こっちも眠れなくなりそうでした。

 折原一作品のお薦めを三作挙げるなら、『冤罪者』『沈黙の教室』『異人たちの館』です。魅力的な謎に、先の読めない展開……そんな作品が好きなひとには、ぜひお薦めです。