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夕木春央『方舟』(講談社)【読書メモ】

 ネタバレには配慮しますが、未読の方はご注意を。

 誰かひとりが犠牲にならなければ、生き残れない極限の状況下で起こった殺人事件。だとすれば、犠牲になるべきは犯人だろう。本書はそんな特殊な舞台でしか成立しえない秀逸な動機と予想もしていなかった強烈な結末がとても魅力的な一冊です。

 この結末を読むためだけでも、買う価値がある、という言い方をすると、ただのインパクト頼りの作品なのか思われてしまいそうなのですが(もちろんそんなことはない)、でもそう敢えて表現したくなるほどの衝撃がありました。個性的なキャラクターで引っ張るわけでもなく、不安や焦燥に駆られた人々の生々しい声が聞こえてくるような感じでもなく、地下建築で起こった地震、迫りくる水没の恐怖、捧げなければいけない犠牲、そして殺人、とこんな状況なのに、淡々として落ち着いた文章がどこか不気味です。

 実は正直に告白すると、内容を楽しみながらも、その辺りに物足りなさを感じていたのですが、ただ読み終わってみると、この雰囲気があったからこそ、物語の果てに知る動機と結末に、ある種の『人間的な感情らしき何か』を受け取ることができたのかなぁ、とも思ってしまいました(いや、受け取ってしまっていいのか、と思ってしまうような結末なのですが……)

 話は変わりますが、久し振りに読書の感想を書きたいな、と思って、noteに投稿することにしました。noteでの本の感想は二年振りくらい(?)でしょうか。肩肘張ったようなものではなく、「面白い本を見つけた」と思った時に、自分自身への備忘録とちょっとした誰かのお薦めになれば、という気持ちで、今後も書いていけたらなぁ、なんて思っています。読書日記的に付けていけたらなぁ。

 私のことは覚えなくてもいいので、『方舟』だけは覚えて帰ってください。