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京極夏彦『書楼弔堂 破曉』(集英社文庫)【読書メモ】
「この楼にある本は、どれも私に喜びを与えてくれました。しかし、書いた者は私なんぞを喜ばせようと思って書いた訳ではないでしょう。私が勝手に喜んだのです。本とはそう云うものです」
※ネタバレには注意しますが、未読の方はご注意を。
月岡芳年、泉鏡花、井上圓了……オールスター的に登場する明治の実在の人物たちが、〈書楼弔堂〉なる書舗(ほんや)の主とやり取りをしていく中で、主から一冊の本を提示される、という構成で描かれている連作小説です。最初は連作ミステリ、と書こうかな、と思いましたが、ミステリ色はかなり薄めなので、やめることにしました。敢えて言うなら、第四話目にあたる、「贖罪」の項の、人物の正体を巡るあたりが、もしかしたらミステリ、っぽいかな、という感じです。
本作は言葉の応酬の中で、それぞれが考えを深めたり、新たにしたりしていく様子がとても刺激的で、そこら中に、頭の片隅にしっかりと留めておきたいような言葉が散らばっているのが魅力的で、〈正しい〉答えに絡めとられず、ただ悩むままに悩め、と言わんばかりの内容が心地よかったです。シリーズ最新刊が出た、ということで、第一巻に手を伸ばしてみたのですが、締めの余韻も相まって、楽しい読書体験でした。