夏夜の幻【短編小説(約5000字)】
熱帯夜、と呼ぶほどではないけれど、ひとかけらの涼しさも感じ取れない夜風はどこまでも夏だった。雪国と呼ばれていても、年がら年中、涼しい、というわけではもちろんない。今年の夏は地元で過ごそうと思っている、と大学の友人に伝えると、涼しそうでいいなぁ、なんて僕の住む県の名を挙げながら羨ましがっていたが、もしこの場にいたとしたら、この暑さにどんな文句を付けるだろうか。雪国だろうが、暑いものは暑い。
『俺さ、実は結婚したんだ』
きっかけはそんな昔なじみからの電話だった。結婚した、