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無能女の真綿パンチ映画

大学生の頃からたいへんお世話になっている先輩の大江さんが、『ドライブ・マイカー』とかいう映画で、このたび世界的な映画祭の賞を受賞したようなので、彼が過去に撮った映画が日本のあちこちでポコポコと上映されるという現象が起きている。

ちょうど柏のキネマ旬報シアターで『美しい術』という2009年に公開された映画がやっている。

インディーズ時代の映画館の大きいスクリーンで見ることのできる機会なんてもうないかもしれないので、ちょっと遠いけど柏まで足を運んできた。

無能のクセにバリキャリぶる無能女と、自信が無さすぎて働くことすらままならない無能オブ無能の二匹の無能女たちが、植木鉢の綿棒を花に見立てて育てながら共に暮らす。

本当は何か、ぶん殴るべきモノがある気がしてならないのだけど、日常の中にはそんなものは現れてこない。

自分に対して牙を剥いてくるようで怯えていた相手からすら、優しくされてしまったときは、この上なく居心地が悪くなってしまい、またぶん殴るべきモノを探して、真綿やおがくずみたいなフワッフワしたものを掻き分け続ける。

「えっ?この二人のうら若き女性がそんなバイオレンスなことをなさるんですか?」と思われた方もいるかもしれない。
……あるよ!いいキックを放つよ!

「うるさいな!オマエは黙って私のことを愛していればいいんだよ!!!」

大泣きしながらそんなセリフを発するシーンがあるんだよね。
男前すぎるよね!
だけどそれだけの男前を振り絞ってみたところで愛や喜びも享受できずにいるんだ。

そして灰色の海の中に身を沈めるのだけど自殺なんかでは決してなく、自力で浜辺にあがってきて「さむぅ」とか言って震えている。
なんなんだよその穏やかな余韻!

そうやって、また元の殴るべきモノを探す日常に回帰していく、そんな終わりのない真綿パンチ映画。
美しくカッコいいドラマへのアンチテーゼってやつ?

ゆうて俺たちの暮らしこそ大概、真綿パンチの繰り返しだしね。
そして、やがて腕が疲れて真綿すら殴る気さえなくなった時に
「今そこそこ幸せだよなぁ」とか言ってしまえるようになるんだろうなぁ。

同時上映に『かくれんぼ』ってのもやっててね。
驚くほど『カメラを止めるな!』っぽさがあった(カメラワンカット)。
おまけに『万引き家族』要素もある。
なんなん?時代先取りなん?
やっぱ世界に名を轟かす人間はちがうね。

だけどスクリーンからスタッフロールから、あの頃のなかまたち感が漂ってくるよ。
短い日々の浅い縁だったけどね。
大成しなくてもよかったから、もっと長く触れていたかった世界さ。

柏のキネマ旬報シアターでは『美しい術』が4月22日金曜までやってる。
最終日はもうちっと多くの人が観にいってくれるといいな。

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