あなた－春夏冬＝2

片手からすべり落ちたものが
いまや両手からすべり落ちそうなのだ
涙のように
あるいはあの日の階段のステップみたいに

た　た　た　た　と踏むステップ
ステッキもないのに
あごがリズムを取る
手が不自由になったようで

視界がひらけていることが
これほどまでに胸を打つ
すべり落ちそうなのだ
ドアノブを開けると　白

そこではものものが完璧に配置されていて
タキシードが式典をおこなう
首筋のないタキシード
右手に花　のようなあなた

もういちど　とは
あの頃の　とは
随分冗長な細胞の行進
変わろうが変わらまいが　黒

善良にも悪霊にもなれない
ことだけが救いの自由地帯で
ハットをかぶって雨の中
つばを直して水滴が散る

片手からすべり落ちたものが
いまや両手からすべり落ちそうなのだ
涙のように
あるいはあの日の階段のステップみたいに

片手からすべり落ちたものは
いまや両手からすべり落ちているのだ
それは涙だ
つま先から羽ばたいて　視界とわたしを殺す

橋の上から　男女の諍いをながめて笑った
声のような紅色　かさかさと落ちていく
嬌声を踏みにじる
けむり　消えてしまえ　あなた