スーパードライが冷えているから

スーパードライが冷えているから
10分だけ早く　家に帰っておいでよ
たまには
どうでもいいおしゃべりなんてしないで

下校していく女生徒を
小窓から眺めながら
じゃがいもを煮ておくから
10分だけ早く　家に帰っておいでよ

今日は約束をしていたわけじゃないし
急な連絡は嫌がるからしないけれど
鼻歌を歌っている　有名な映画の挿入歌
男が雨の中笑って踊る　家に帰っておいでよ

近所の魚屋が移転前最後の営業だった
地震があったから
その関係で移転するそうだよ
鮪の中落ちは　冷蔵庫にある

段々と日が暮れるけれど
グツグツとじゃがいもが煮えてゆく
醤油が染み込んだ頃に
足音が響くと信じている

最後の女生徒が帰っていくのと同時に
河川敷のサッカーチームの少年たちがゆく
汗と笑顔を香らせていて　顔がほころぶ
鼻歌の雨があがったみたいに

そういえば今日は夏至で
一番日が長い　暮れそうで紅の白夜風
オレンジ色の情景が
小指に引っかかって気になっている

メールを4件無視している
ひとときも
あなた以外に時間も
頭も割く気がなかった

「バラバラに　…ばる…びら」
あなたの好きな曲を着信にしたりして
サビ以外知らないその歌が
たびたび響いて困っています

今日も僕はじゃがいもを煮ていた
じゃがいもを煮ていた
僕に似た幼い生き物が
それを待って文句を言ってる

誰も帰ることがない家へ

10分だけ早く　いつか帰っておいでよ