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NEW GUNてどんな感じ?〜vol.13〜

日曜日だというのに傷口の処置と点滴のために院長先生が来てくださる。

「2週連続でお休みなしですね。すいません…」

先生はいつも明るい。やることあるし〜、と笑顔で答えてくださる。

「今日ね、友達の結婚パーティーなんですよ。お酒呑めなくて残念…」

「飲んでいいですよ♪でもね、僕いつも言うんだけど、全てを忘れるくらい飲んだ方がいいw」

「翌日地獄パターンですよね」

「ははは」

先生の好きなお酒なんかの話をしたりなんかして、明るく時間を過ごした。ここのクリニックは院長先生だけでなく、みんな笑顔で明るい。


病院の後は、前日購入したウィッグを持って花美容室へ。私はここに2ヶ月に1度通い、髪を切り、髪を染める。子どもの頃はコンプレックスだったくせ毛が、オーナー久保井さんの手にかかると自分が自分で良かったと心から思えるくらい素敵にしてもらえる。私だからこの髪型が出来る。それが久保井さんのお客さんの数だけある。これはすごいことだ。

でも、もし抗ガン剤が始まっちゃったら美容院来られないんだなー…と思うとまたひとつ自分の活力としていることが減る気分だった。


一度家に帰り、少し休憩。携帯電話同様、自分の充電が切れないように気をつける習慣がつき始める。少し横になって、さあ、着替えよう!と思ったが、前開きでない服を着るのは難易度が高い。でも、ワンピースが着たくて、針金ハンガーを使ったりしながら強引に背中のファスナーをあげた。

金髪の方のウィッグをつける。そして、ケーキをお願いしていた東中野cafe iwabutiさんへ。ケーキはデコレーションをたくさん用意して、参加者全員で作ることにした。その準備を私が請け負うことになった。

しかし、私が重い荷物を持てる訳もなく、高校の友達に付き合ってもらった。

新婦は高校の友達で、空前のバンドブームの中、一緒にバンドを組んでいた仲間。そして、誕生日が一緒だった。様々な占いが一緒に違いないのだが、確かに似ているところがある。

この結婚パーティーも主役なのだからみんなに任せてお姫様気分を味わえばいいのに、お店の予約から何から何まで自分でやろうとする。止めても止まらない。(あー、でも自分もこういうところあるなー)などと思ったりする。

実際自分が動けなくなって、人に頼らざるを得なくなって、緩んだ何かがある。買い出しに付き合ってくれた友人にも完全に頼り、ケーキも作れなかったので、全員で作った。それはすごく楽しくて、温かくて、愛情に溢れて素敵に出来た。人はひとりでは生きていけないけど、それってとってもいいことだなー、と実感していた。

お祝いのスピーチを仰せつかっていたので、入院中から色々考えていたのだけれど、PCに向かって書いていると泣けて泣けてしょうがなかったので、話すことを頭に入れて、原稿なしで話した。高校時代のこと、再会してからのこと、猪突猛進な(お互いさまなのだけれど)彼女はきっといい奥さんになること、等々…。途中、入院前に御守りを送ってくれた司会の彼女が大泣きして、私は泣かずに済んだw

正直、結婚なんてずーっと興味がなかった。旦那とは6年前に事実婚としたけれど、それがちょうど良かった。旦那と一緒に住んでいた頃は、だんだん会話が無くなっていって、わりと外で過ごしていた。仕事が中心で、家のこともあまりせず、喧嘩もそんなにせず、適当にいい顔をしていたんだと思う。別居して、たまに会って、普通に帰っていく旦那に私といる必要あるか?と思ったりもした。

私の世代は離婚が多い。でも、病院で鼻に管を通して口を開けた寝たきりのお年寄りと隣に寄り添う旦那さま(または奥さま)の姿を通して、ずっと考えていた。夫婦って、家族って、すごいなと思っていた。そこにある歴史は結論ありきではなかったはずなのだ。多分、日々の生活の積み重ねでしかなくて、その時々の本気度なんかではなかったはずなのだ。

パーティーの後は高校の友達2人と私の家の最寄り駅で夜中まで飲んだ。私はノンアルコールだけれど、すごく楽しかった。遅くまで起きていても楽しくて元気な自分が嬉しかったし、病気の前と変わらない時間を過ごせるのは嬉しかった。そうやって、何かを取り戻そうとしていた。



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