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読書感想文的な29

2冊まとめて。

『スーツケースの半分は』 近藤 史恵

三十歳を目前にした真美は、フリーマーケットで青いスーツケースに一目惚れし、憧れのNYへの一人旅を決意する。出発直前、ある記憶が蘇り不安に襲われるが、鞄のポケットから見つけた一片のメッセージが背中を押してくれた。やがてその鞄は友人たちに手渡され、世界中を巡るうちに“幸運のスーツケース”と呼ばれるようになり……。人生の新たな一歩にエールを贈る小説集。


『感情8号線』 畑野 智美

荻窪で暮らす劇団員の真希はバイト仲間に片想い中。彼には彼女がいるのに想いを断ち切れない。八幡山で同棲中の絵梨は彼に暴力を振るわれているが、今の生活を手放せない。二子玉川の高級マンションに住む専業主婦の芙美は夫の不倫に苦しんでいる。同じ道沿いに暮らしているのに、恋愛も悩みも人生もみんな違っていて…。幸せへ遠回りしてしまう女性たちの六つの物語。


クソデカボイスで叫びたんだけど、わたしはこういう類の話が大好き!!!
好き!!!ありがとう!!好き!!!
それぞれの短編が別々の物語だけど、登場人物につながりとか関わりがあって、さっきのあの子が次は主人公になったり。その次はまた別の主人公。さっきまでの主人公もわき役で登場する。


『スーツケースの半分は』では、学生時代から仲のいい女の子たちそれぞれの短編と、その周辺の人たちの短編。
どの短編も視点がちがう。登場人物の人数分、わたしは彼女たちの気持ちになれる。最高。
『感情8号線』も、それぞれに関わりがある女性たちの短編。
これも短編ごとに視点がちがう。彼女たちは年齢も生活も全然ちがうのに、それぞれに共感できる。最高。

この話ではちょっといやだった彼女のことが、あの話ではその背景が見えたりして、ちょっと好きになる。
あの話ではなにもかも上手くいってるように見えた彼女にも悩み事はある。
視点が変わったら、みんなが人間らしくて最高。

あたりまえのことだけど、同じ場所で同じ仕事をしても思うことは様々。
同じマンションに暮らしてもその生活はちがう。
同じことを言われても、同じことを感じるわけじゃない。
しあわせそうに見える人がみんなしあわせではない。


もう少しそれぞれの本について。

『スーツケースの半分は』は紹介の通り、新たな一歩にエールを送ってくれる。踏み出すことは難しいけど、きっといいことが待ってると思える。
真美の旅立ちの場面での知らないご婦人の台詞が好き。

「自分の望みはなるだけ叶えてあげることにしたの。
花がほしいときには花を買うし、コーヒーが飲みたいときにはコーヒーを飲むのよ。大きな望みは叶わないことが多いんだから、小さな望みを叶えてあげてもいいでしょう。」

この台詞が、きっと真美の背中も押したんだろうなっていうの、次の短編で友人が集まって真美の旅行の話をしてるときにわかっていい。真美の頑張りを、真美の気持ちと離れて、友達の視点から感じられる。
そして真美が頑張ったならわたしも、といつの間にか思ってる友達もいい。
誰かが頑張った事実もまた、誰かの背中を押す。
スーツケースを介して、みんながちょっと前に進む物語。
きっと現実でも、こうやって知らず知らずのうちに誰かが誰かの背中を押してるんだと思うと最高に希望が持てる。


『感情8号線』は、なんていうかもう少し現実的なのかもしれない。
動かなければどうにもならないけど、動いたからって全てが上手くはいかないかもねってかんじ。
誰かを好きな気持ちは、意志が固くても消せるものじゃない。
誰かを嫌だと思う気持ちも同じ。
自分の普通が全てじゃないし、頑張っても報われないこともある。
そこにどう折り合いをつけるのか教えてほしいけど、そんなのそれこそ千差万別。
どう生きても、なにかしら手に入らないものがある。
それを難なく得てる人を妬ましく感じて、その人も悩みがあるってことまで想像するのは難しい。
それでもみんな前を向いていくのすごい。
どうにかしたいっていう気持ちが尊い。いい状況でも悪い状況でも、現状を変えるのは怖いことだから。


とにもかくにも、こういうつながりのある短編集が好き。
今回は2冊とも感情移入できる内容だったからなおさらよかった。

自分の望みは自分で叶えてあげて、自分をめちゃくちゃかわいがっていこうね!!!
結果も大切だけど、頑張っている時点でわたしたちはすごい。


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