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〆て4,000円

温泉地にはよくあるのかもしれないけど、大分県別府市には地元民のおうちのお風呂的な共同温泉がたくさんある。
100円か200円かで入浴できる。地元民じゃなくても同じ値段。

▼参考▼

ここのジモ泉のカテゴリーがおうちのお風呂みたいな温泉だ。
そういえば別府のマンションに住んでる友達は、マンションに居住者用の源泉かけ流しの大浴場があり、家のお風呂を物置にしていた。
100円で入れる温泉も、たぶん家のお風呂の代わりを担っているんだろうな。

この種類の温泉にいくつか入りに行った。
当時仲良くしていた45歳の男と。ダメージデニムにTシャツで巡る温泉は色気もくそもない。やる気だけはあったけど。やる気?ヤル気?

ジモ泉はどこに行ってもだいたいおじいちゃんとおばあちゃんしかいない。近所の方々だろう。
しかし温泉で出会うおばあちゃんたち、めちゃくちゃお肌が綺麗だ。
当時20代のわたしの背中より、おばあちゃんたちの背中のほうが断然綺麗だった。温泉おそるべし。
別府の老若男女は気軽に入れる温泉があるなら毎日通ったほうがいい。あのつやつやトゥルトゥルのお肌はそうそう手に入るもんじゃない。

きめの整ったおばあちゃんたちのお肌を作り上げたジモ泉の造りは、簡素なものが多い。イメージでいうとタフ・ガイだ。あんまり洗練されてないタフ・ガイ。バッキバキ系の。
シャワーがないことも珍しくない。タフ・ガイはワイルドに桶でばしゃっとお湯を浴びるのだ。きめの整ったおばあちゃんもワイルドスタイルだ。
郷に入っては郷に従えだ。わたしもワイルドスタイルにトライしてみる。
お湯がビビるほど熱かった。むり。きめは整わんし、タフ・ガイにもなれそうもない。

そんな簡素なジモ泉は、だいたい脱衣所からお風呂が丸見え。ロッカーに鍵があることは稀で、貴重品を置く場所はない。簡素な棚だけが設置されている。
近所の人がおうちのお風呂の代わりに使うところだから、不要だったんだろう。
わたしは車で来てたので、貴重品は車に置いていた。これもどうかと思うが、のちにこの選択が正解だったと思い知る。
タオルとパンツと小銭を握りしめて意気揚々と温泉に向かった。

お風呂から脱衣所が本当の本当に丸見えだから、うっかりぼんやりしてると最高のお湯に浸かったまま、おばあちゃんたちのお尻の穴まで見えてしまう。
セクシーな男の穴かタフ・ガイの穴ならまだしも、さすがにおばあちゃんの穴なんて望んでない。
ということで、脱衣所には背を向けて温泉を楽しんだ。

これがまずかった。
全ての敗因は脱衣所に背を向けたことだ。
どうせ湯気でぼんやりしてるんだから、目を皿にしたって誰の穴も見えるはずないのに。

熱いお湯にギブアップしたわたしは、タオルで身体を拭き、下着を着けた。
そこで違和感を覚える。こんな荷物少ないっけ…?
そう思いつつTシャツを着ると、違和感は確信に変わる。




デニムがない!!!!!!!!




デニムが、ない!!!!!!!!!





膝のダメージ加工の部分にうっかり足の指を突っ込み、ダメージ加工からリアルダメージへと変貌を遂げた、わたしの身体に馴染みまくったデニムがない。
誰か間違ってはいちゃったの…?
いやそんな、旅館のスリッパじゃあるまいし…。
誰か履いてないかと周囲を見回すも(半径2メートル)、すっぽんぽんのおばあちゃんが扇風機の前に佇むだけだ。

扇風機前のおばあちゃん以外も、一緒に入ってたのはおばあちゃんだけだったように思う。
え、おばあちゃんってダメージデニム嫌いなんじゃないの?
自分のおばあちゃんに会うと必ず、そのデニム縫うてやろうか?って聞かれてたんだけど。
っていうか、そんなことより、なんか履かなきゃわたしここから出られないじゃん!!!!
遅れて気づく絶体絶命のピンチ。

クソデカボイスで番頭さんを呼んだ。
番頭さんがおばちゃんでよかった。
応急処置として借りたバスタオルを巻き、すでに自販機前のベンチでジュースを飲んでいた男のもとに駆け寄った。
男、爆笑。出て来んと思った~じゃねぇんだよ。
まぁでもそうなるよね。我ながら間抜けな姿をしていたと思う。
大笑いする男のケツを叩き、最寄りのユニクロで新しいデニムを買ってきてもらった。
ちなみにこのユニクロまではバスタオルぐるぐる巻きスタイルで車を運転した。危うく不審者である。

100円の温泉なんてめっちゃ安いや~ん♡と思っていたが、デニム3900円で思わぬ出費だった。
別府で4000円あったら、色気とヤル気を存分満たせる温泉に入れたなぁ。


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