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読書感想文的な35 『認知症世界の歩き方』筧 裕介

おばあちゃんが昔より小さくなった。
わたしが大人になったからそう感じるのかと思ってたけど、どうやらそうじゃない。
多少背は縮んだかもしれないけど。
なんだか背中が小さく見える。
おばあちゃんが保護してくれる頼れる存在ではなくなったのは、いつからだろう。

おばあちゃん、おじいちゃんと1番頻繁に会っていたのは小学生くらいだと思う。
まだ60代だったおじいちゃんとおばあちゃん。
おじいちゃんは早くに亡くなったから、よく会っていたころの元気なままのイメージだ。耳が少し遠かったけど、背が高くがっしりとした、昭和の男ってかんじのかっこいいおじいちゃんだった。
それから20年近くが過ぎた。
おばあちゃんはもう80代後半。そりゃあ、あたりまえにおばあちゃんなのだ。

周りを見て知ったけど、80代後半で1人で元気に暮らしていることはけっこうすごいことみたいだ。
父方も母方も、デイサービスの力を借りず、毎日ごはんを作り、お風呂に入って、テレビを見たり、友だちとおしゃべりしたり。

「認知症世界の歩き方」を読んでまず驚いたのは、わたしたちは日常で想像以上に脳を使ってること。
認知症とはつまり、認知機能に不具合が起こることだけど、そもそも認知機能ってなんだいってね。

認知機能とは
理解、判断、論理などの知的機能のこと。
認知とは理解・判断・論理などの知的機能を指し、精神医学的には知能に類似した意味であり、心理学では知覚を中心とした概念です。心理学的には知覚・判断・想像・推論・決定・記憶・言語理解といったさまざまな要素が含まれますが、これらを包括して認知と呼ばれるようになりました。
しかし一般的には認知機能は主に認知症における障害の程度を表す場合に用いられることが多いようです。認知症では物忘れにみられるような記憶の障害のほか、判断・計算・理解・学習・思考・言語などを含む脳の高次の機能に障害がみられますが、その障害がみられる脳の機能として認知機能と表現されます。

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

いや、むずい。わからん。(最近人気の本田さん風に)

「認知機能」は、人が心理学的な「認知」を行うための、知的機能を総称した概念です。五感(見る、聴く、触る、嗅ぐ、味わう)を介して外部から得た情報をもとに、物事の現状を認識したり、言葉を操ったり、計算・学習・記憶を行ったりします。

太陽生命『「認知機能」とその特徴』より抜粋

うん、まだよくわからん。


ごはんを作るという行為だけでも、脳みそは大忙しだったらしい。

たとえば鶏肉を買っておいたことを思い出して、冷蔵庫から取り出す。
それ以外の食材と合わせて、何が作れるかを考える。鶏肉はからあげにして、キャベツを添えよう、とか。いや照り焼きもいいな。親子丼もいい。
材料を切る。揚げる。盛り付ける。食べる。

じゃあこの一連の行為、認知症の症状が出るとどうなるか。

まず冷蔵庫を開けて、食材があるのかを確認したけど、冷蔵庫を閉じた瞬間に何が入っていたのかわからなくなる。
どうにか鶏肉を取り出し、何を作るか考えるけど、なにも思い浮かばない。
からあげにたどり着いても、どうやって切ったらいいのか、揚げたらいいのかわからない。
作ったこと自体を忘れてしまったり、食べたことを忘れてしまったりする。

いや、まじで脳みそ、おまえほんとに…! ありがとう…!
わたしたちは鶏肉を鶏肉と認識できて、食べたい料理が思い浮かぶことに、もっと感謝したほうがいいのかもしれない。

あとはもう読んでほしい。説明できない。
認知症世界、奥が深すぎる。毎日が大冒険。

わたしがこの本を読もうと思ったきっかけは、冒頭の通りおばあちゃん。
認知症と診断されたわけではない。元気に生活してるし。

ただ、おばあちゃんを見て小さいなぁと思わなければ、この本を手に取ることはなかったと思う。
認知症の全員に寄り添うことは、きっとわたしにはできない。
でもおばあちゃんに寄り添うことはしたい。というか、おばあちゃんに寄り添うのがわたしじゃなかったら、いったい誰がおばあちゃんに寄り添うんだ。
たぶん綺麗ごとなんだろうなぁ、とは思うけど。

だって正直、なんでこんな悪いことばっか言ってんだよって思うことなんかたくさんある。山盛りてんこ盛り。
やってもらうことが、そんなに当たり前だと思ってんの? もしや殿? と文句を言いたくなることもある。

でも、もしも、アルキタイヒルズに行こうとしているのなら。
もしも、トキシラズ宮殿に迷い込もうとしているのなら。
まぁお供しようじゃないか。

何度も同じ話を繰り返すなら、何度も「まじか!」って笑ったらいいや。
父方のおばあちゃんが繰り返す昔の話は、お父さんの小さいころのしょーもない話とかで、普通に笑える。
母方のおばあちゃんは、お母さんを育てるときに末っ子だからと甘やかしすぎたとかぶっちゃけてきて笑える。
もしお風呂に入りたくないと言った日には、この本をふまえて嫌な理由を聞こう。
たぶんわかってあげられないことの方が多い。だって今でもわけわからんなと思うし。
でもとりあえず寄り添って笑い飛ばそうと思う。

一緒に笑おう、認知症世界でも楽しんでほしいと思えたことが、この本を手に取って1番よかったこと。

わたしはおばあちゃんたちが好きなんだな。


#読書の秋2022
#認知症世界の歩き方


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