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「あなたは過去に生きるのではない」 ある特攻隊員が恋人に宛てた最後の手紙

「ありがとう。
       さようなら」

色んな感情が混じりあって
三浦春馬さんが演じた特攻隊員、裕之の言葉が頭に残る。
終戦記念日に放送されたNHK特集ドラマ「太陽の子」を見終わってすぐ、私はiPhoneのメモを開いた。

(まだ残ってるかな。。。)

メモの日付は2016年10月16日。
たったの2行でこう書かれていた。

穴澤利夫
あなたは過去に生きるのではない

知覧特攻平和会館

4年前に私は鹿児島の知覧に行った。
戦時中、本州の最南端として、特攻隊の出撃基地があった場所だ。
現在は知覧特攻平和会館として特攻隊に関する資料が所蔵・展示されている。

「日本人として、一度は足を運んだ方がいい」

福岡に住む大学の友人がFACEBOOKにそう投稿していたのを見て以来、いつか必ず行こうと思っていた場所だった。

会館まで続く10月の桜並木を見上げると、ポツリポツリと新芽、さらには桜の花が咲いていたことに驚いた。

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dのコピー

広い館内は、人々の足音以外は何も聞こえない。
とても静かだった。

写真の中の日本男児たちと目が合う。隊員の平均年齢は21歳。
想像よりもずっと若かった彼らに、胸の奥がギュッとなった。

展示されている遺書を、ゆっくりと端から順番に読んでいく。
手紙のほとんどは両親に宛てたものだった。

そんな中、撮影禁止の館内で思わずスマホを取り出してメモをした。
恋人に送った手紙の一文に、私は釘付けになった。

「あなたは過去に生きるのではない」

穴澤利夫大尉。23歳。1945年4月12日戦死。
婚約者の智恵子さんに宛てた、最後の手紙だった。

”最後にいただいた御手紙”

”私が手にしたのは四月十六日”

二人で力を合わせて努めて来たが,終(つい)に実を結ばずに終った。 希望を持ち乍(なが)らも,心の一隅(ひとすみ)であんなにも恐れていた“時期を失する”と言ふ(う)ことが実現して了(しま)ったのである。
去月(きょげつ)十日(とおか),楽しみの日を胸に描き乍(なが)ら,池袋の駅で別れてあったのだが,帰隊直後,我が隊を直接取り巻く状況は急転した。発信は当分禁止された。(勿論(もちろん)今は解除) 転々(てんてん)と処(ところ)を変へ(え)つつ多忙の毎日を送った。そして今,晴れの出撃の日を迎へ(え)たのである。便りを書き度(た)い。書くことはうんとある。
然(しか)しそのどれもが今までのあなたの厚情(こうじょう)にお礼を言ふ(う)言葉以外の何物でもないことを知る。あなたの御両親様,兄様,姉様,妹様,弟様,みんないい人でした。至らぬ自分にかけて下さった御親切,全く月並(つきなみ)のお礼の言葉では済みきれぬけれど「ありがたふ御座いました(ありがとうございました)」と,最後の純一(じゅんいつ)なる心底(しんそこ)から言って置きます。
今は徒(いたずら)に過去に於(お)ける長い交際のあとをたどり度(た)くない。問題は今後にあるのだから。常に正しい判断をあなたの頭脳は与へ(え)て進ませて呉(く)れることと信ずる。然(しか)し,それとは別個に婚約をしてあった男性として,散って行く男子として,女性であるあなたに少し言って征(ゆ)き度(た)い。
「あなたの幸せを希ふ(ねがう)以外に何物もない」
「徒(いたずら)に過去の小義(しょうぎ)に拘(こだわ)る勿(なか)れ。あなたは過去に生きるのではない」
「勇気を持って,過去を忘れ,将来に新活面(しんかつめん)を見出すこと」
「あなたは,今後の一時(いっとき)一時(いっとき)の現実の中に生きるのだ。穴澤は現実の世界には,もう存在しない」
極(きわ)めて抽象的(ちゅうしょうてき)に流れたかもしれぬが,将来生起(せいき)する具体的な場面々々(ばめんばめん)に
活(い)かして呉(く)れる様(よう),自分勝手な,一方的な言葉ではない積(つも)りである。
純客観的(じゅんきゃっかんてき)な立場に立って言ふ(う)のである。当地(とうち)は既(すで)に桜も散り果てた。
大好きな嫩葉(わかば)の候(こう)が此処(ここ)へは直(じき)きに訪れることだらふ(う)。
今更何を言ふ(う)か,と自分でも考へ(え)るが,ちょっぴり慾(よく)を言って見たい。
* 読み度い本(よみたいほん)
「万葉(まんよう)」「句集(くしゅう)」「道程(どうてい)」「一点鐘(いってんしょう)」「故郷(ふるさと)」
* 観たい画(みたいが)
ラファエル「聖母子像(せいぼしぞう)」 芳崖(ほうがい)「悲母観音(ひぼかんのん)」
* 智恵子(ちえこ) 会ひ度い(あいたい),話し度い(はなしたい),無性に(むしょうに)。

今後は明るく朗(ほが)らかに。自分も負けずに,朗(ほが)らかに笑って征(ゆ)く。
利夫(としお)
智恵子様(ちえこさま)

知覧特攻平和会館のホームページより全文を引用。実際の手紙のコピーをサイトで見ることができるので、下記ホームページに飛んでほしい。

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自分のいない未来で
愛する人の幸せを願う、あまりにも美しく、悲しく、そして力強い励ましの手紙を前に私は静かに涙を流した。

日本の戦争が終わって75年。
世界から争いをなくすために、微力ながらもできることがあると信じている。

まずは目の前の人を理解しよう。
受け入れよう。
違いを楽しもう。
自分を大切にしよう。

過去に囚われず、理想を描くことからはじめよう。
あなたの言葉は巡り巡って誰かを救うから。

大丈夫。

大丈夫。

大丈夫。

あなたも私も、1人じゃないから。


夜中に再放送をした、2度目の「太陽の子」を見終わった時、
裕之の言葉と穴澤大尉の言葉が重なった。

「いっぱい未来の話をしよう」
「あなたは過去に生きるのではない」




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