日記・なぜ海に来るのかと問うてみる

 穏やかな海を見ていると段々気持ちも穏やかになってくる。ずっと向こうから押し寄せてくる波の行方を目で追いかける。

 海面の模様が絶えず変化して、命を持っているかのような動きをする。遠く盛り上がりながらこちらへ進む波は浜辺に到着すると白波を立てて崩れていく。

 繰り返し何度も見ている海を僕は何度も見に来てしまう。釣りするのでも泳ぐのでもなく、ただ海を見ている。

 海面の波紋ひとつひとつをつぶさに見ようとするけれども、そのすべては次の瞬間に別の波紋になってしかも留まらない。

 だからそれらの波紋をひとつの形ではなく、動き自体をひとつの形として捉えて見ている。

 それは模様のようでもあるしパターンのある映像を繰り返し見ているようでもある。それを海と呼んでいるのかも知れない。

 ひとつの見た目に留まっていないもの、絶えず変化してしかしそこにあるもの。物体というよりは命のようなものに近い感覚を覚える。

 海がなにかを言う訳ではないが、海と対面すると聴いている心地がするし聴いてもらっている感覚になる。言葉を発しないまま会話でしか満たされないはずの感情が満たされていく。

 そしてそれは会話するよりもずっと穏やかで静かな満たされ方をする。言葉にならない話をしに僕は海に来る。


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